妃殿下のお茶会 2
「……――なので、当時騎士団長の直下は各隊の隊長であり、さらにその隊の中には明確に小隊が組まれておりました。今の騎士団よりも少しばかり組織が細かかったのかと。そしてご存知の通り協会はなく魔術師団でした」
「私の国は第1〜第5騎士団まであり其々を団長副団長が統率していましたね。全てを取りまとめるのが騎士団のトップである総長でした。協会や魔術師団といったものはなかったですね」
「同じ国でも制度が違うのに、違う国ですとさらに異なるのですね。……でもそれは時代に関係してる可能性もありますわね。――ああっ、聞いても聞いて知りたいことが出てきてしまいます、とても時間が足りませんわ!」
軽い内容から当時であれば情報漏洩レベルの内容まで、ルイーゼ様からの質問の幅は広くあっという間にお茶会の時間も過ぎていく。
ケイオス団長に始まりジョシュア師団長、当時の魔術師団の事、ユグナージュという国の事、貴族の様子、さらにはその隣国の事、フェジュネーブとの違い……いろんな事を聞かれたし話した。
それでもルイーゼ様の質問は湧き出てくるのだから、本当にすごいと思う。
「どうしましょう。この回だけでは足りないわ。次の開催も考えなくては」
まじまじとそう話すルイーゼ様。
「ふふ、ルイーゼ様がよろしければ次の開催も楽しみにお待ちしております」
花が綻ぶとはこのようなことを言うのだろう。ルイーゼ様はとても嬉しそうに笑った。その笑顔があまりにも綺麗で、此方まで笑顔になる。
それなのに次の瞬間にはしゅんとした様子で「でも」と二人の騎士を見る。
「今は隣国の動きが良くないらしく、これ以降ジョエルとナフタック様にこの為に時間を割いて貰うのは難しいと殿下が」
「そう、ですね。直ぐには難しそうですね」
私がそう言うとルイーゼ様も眉を下げ笑った。
市井の食事をルシウス様の部屋で皆でとったあの日。ルシウス様にグスタフ団長からの召集が掛かり解散となった。翌日部屋を訪ねてきたルシウス様は一人の騎士様をつれていた。
「アリシアの護衛もルシウスではなくなったのでしょう?」
「ええ、今はフラン様が護衛をしてくださっています」
あの日ルシウス様がつれてきたのがフラン様だった。私よりひとつ歳上の騎士様で、優しそうな青年だ。
「フランはアリシア嬢と歳はそんなにかわりませんが、魔力の操作も上手く期待されてるんです。もちろん、剣も立ちます」
「……毎日会えていたのにここ最近は恋人に会えなくて寂しいのではなくて?」
ルイーゼ様は勿論私たちの正式な関係を知っているのだから揶揄って聞いて来ていることはよくよくわかっている。でも。
「そう……ですね」
ルシウス様への気持ちを自覚した翌日から彼とは一切会えていない。表面上の恋人なのだから当然なのだけど、その事実が一層胸の痛みを強めているのだ。
「まあ、忙しそうではあるが団長は元気だ。とりあえずそれは俺が保証する。安心しろ」
「ふふ、ありがとうございます」
この流れに察したのだろう、ルイーゼ様の表情がみるみる変わっていく。それは先ほどまでの史実の話をしていた表情に近くもあるが、それよりも違った意味で生き生きしている。
「もしかしてアリシア……ルシウスの事っ」
「る、ルルイーゼ様! あの、そうなのですが、自覚したのが最近で……その、恥ずかしいので……あまり声にしないで下さいっ」
あまりの恥ずかしさに視線が下を向く。手で触れた両頬があつい。
「お二人は知っていたのですか」
「ええ、私はアリシア嬢が無自覚の頃からずっと」
「ええ。あー……なんて言うか、俺が自覚させたって言った方が正しいかもしれないです」
待って。ナフタック様の言ってることはわかるしその通りなのだけど、ジョエル様から見て私はいつから懸想してたのだろうか。恥ずかしすぎて二人を見ることができない。
「アリシア!」
「はいっ」
ルイーゼ様に名前を呼ばれ、反射的に背筋が延びる。頬の熱は冷めないままだ。
「知っているかしら。ルシウスはもうすぐ誕生月なの。いくら忙しくても夜は部屋に戻るでしょう。その時になにかプレゼントをお渡しするのはどうかしら?」
「プレゼント、ですか」
「ええ! あなたからのプレゼントであればルシウスもきっと喜ぶはずよ!」
「そう、でしょうか」
「勿論ですわ! あーもうこの際プレゼントはアリシアでネグリジェで部屋に向かいそのままルシウスを籠絡……あら私ったら、ほほほ」
今とんでもない言葉を妃殿下から聞いた気がする。気がするが、聞かなかったことにするのが私のためでもある。
何より女性からの感情をルシウス様が好として受け取って下さるのだろうか。
「ルイーゼ様、団長はそれでもその日はきっと手をだしませんよ。性格上きちっりと段階踏んでからかと」
「あら、ジョエルがそう言うならそうなのでしょうねぇ、では他には……」
もはや二人はなんの考察をしているのか。ナフタック様は苦笑気味だ。
二人はさておき、プレゼントを渡すということは日頃のお礼も予てという理由もつけることが出きる。この理由が弱腰であることは十分に承知だがそうでもしないと勇気をだせそうにないのだ。
「俺たちの時代……400年前に騎士仲間が恋人に貰ったドックタグにつけるチャームを自慢してたな。彼女の色の石が嵌め込まれたものだって」
「そういえば……隊の子たちがそんな話ししてたかも」
騎士様のつけているドックタグ。それにつけるチャームを贈るのが恋人の特権だった。自分の瞳の色、髪の毛の色……相手に身に付けて貰うことで傍にいる、貴方の事をいつも想っている、そう言った意味合いをもつ贈り物だったはずだ。
「貴方にしては良い提案ですね。ドックタグだったら今の騎士もつけていますし」
「一言余計だ」
「この時代、そのような贈り物はあまり聞かないからこそ特別感もあり良いと思いますわ」
「ま、その風習がなくてもさすがに意味合いは察するだろうしな」
チャームの贈り物、思い浮かべたそれに鼓動が早まる。
受け取って下さるだろうか。
「宝石は良いお店をしっているのでそちらに連絡をしておきますね。それに加工に関してもそんなに掛からず出来上がるのではないかしら」
部屋に扉をノックする音が響く。時間を告げる侍女の声がした。
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