妃殿下のお茶会 1
有名な画家の絵。豪華な絨毯。大きな窓から見える庭園には色とりどりに咲き誇る季節の花達。部屋中至るところに装飾がされているのに、とてもセンスが良い。
そしてその部屋にあるもれなく装飾の施されたテーブルに座る私。両隣に1人ずつ、それぞれの面持ちで座っているのはジョエル様とナフタック様だ。主催者であるルイーゼ様は正面に座り、扇子を口元で開き、テーブルの上のお茶やお菓子の準備が整うの待っている。
このお茶会の招待状が私たち3人に届いた時点でその意図は大いに理解していた。きっとルイーゼ様の我慢が限界に達したのだ。不機嫌そうに顔をしかめ口元を隠しているのも……きっと顔が緩みそうになるのを、メイド達がいる今必死に堪えているのだろう。
それを察していることもあり、私達はいつも通りなのだ。ただひとり、ナフタック様を除いて。
笑顔がひきつっているのは、間違いなくこの状況のせいだろう。騎士様がお茶会に呼ばれるなんて、中々ないことだ。それもあろうことか主催者が妃殿下。きっとナフタック様は初対面だろうし、今日までルイーゼ様のお姿すら知らなかったかもしれない。……ナフタック様は、だ。
招待状が届いた時点で「なんの間違いだ」と言っていたくらいだ。でも私はその時も言ったはずだ「間違いなく、ナフタック様宛です」と。
気が付けばテーブルの上に完璧なお茶会セットが完成していた。カップからは紅茶の華やかな香りが漂ってくる。
「ありがとう。では、私たち以外は皆このお部屋から出て下さいね」
「ルイーゼ様、メイドはともかく我々は護衛ですので」
「あら、ここに2人も頼もしい騎士が座っていますわ。ご安心下さいませ」
「ですが……」
扇子で口元を隠した美女の圧力たるもの。
「では……ジョエル、ナフタック頼んだぞ」
「了解しました」
「あ、ああ」
メイドや護衛の騎士様が部屋を出た。
広いこの空間に私たち3人だけなことを確認して、ルイーゼ様が口を開く。
「本日は私のお茶会にようこそお越し下さいました。……ナフタック様とはこうやってお会いするのは初めてですね。ルイーゼ・ド・フェジュネーブです」
ガタっと椅子が動く音がした。ナフタック様が、立ち上がった。
「妃殿下に挨拶申し上げます。私はナフタック・アルスターと申します。この度はこの様な場にお招き頂き、大変ありがたく存じます。騎士として生きてきましたのでこの様な場に不慣れで、失礼がないよう」
「もう無理っ!」
ルイーゼ様がナフタック様の話を遮り手に持っていた扇子をテーブルに勢いよく置いた。
バシンと言う音には驚いたものの、案の定というか、やはりルイーゼ様の口元はゆるゆるで私の考えていたこと――お茶会の趣旨――は間違ってなかったのだと再確認できた。
ただそれを確認してるのは私ときっとジョエル様もで、話を切られたナフタック様は目に見えて慌てている。
「も、申し訳ございません! 何か既に失礼がありましたでしょうか!?」
「ナフタック様……あなた……」
ルイーゼ様がわなわなと震えている。きっとこの3人を目の前にもう堪えきれないのだ。
「あなたも……あなたも400年前からいらっしゃったのでしょう?!」
「は、はい……?」
「私はもう夢でも見ているようで、ずっとずっと心から早くお話したいと思っておりました!! 護衛を隙をみてナフタック様に話しかけようとしたのですが、流石の私も突然殿方に話しかけるのは憚られると思い遠くから眺めていたのです。でもついに……ついにこのような場を設けることが出来、本当に嬉しく思っています! つきましてはナフタック様っ」
ルイーゼ様は感情のままに早口でまくりたて、バッと立ち上がった。
「先ずは400年前の騎士団長でありあのジョシュア魔術師団長と並んでいたと言うケイヨス騎士団長について教えてくださいませ! 勿論他にも当時の騎士団の制度やあの時代の詳細等も教えて下さいませっ」
こんなにまで見事に呆気にとられたナフタック様の顔は見たことがない。思わず笑いそうになった顔に力を入れ持ちこたえる。刹那「プフ」と息が漏れる音ながしてふとジョエル様を見ると顔を反らし小刻みに震えていた。
ああ、私ももうダメかもしれない。
「……あー……えっと……あの、まずは……ケイオス騎士団長です」
困惑からの第一声があまりにも真面目すぎて、私にはもう堪えられなかった。
「ふふふっ、ルイーゼ様、落ち着いて下さい。ナフタック様は、ふふっ、逃げませんから」
「え、あら、いやだわ私ってば……だってもう、殿下から話を聞いてずっとこの時を待っていたの、本当に今日が楽しみで楽しみで……」
染めた頬に手を当てて恥じらう姿はどんな女性よりも魅力的なのに……何故だろう。何かのフィルターがその姿を壊している。
普段は王妃然としているのに気を許せる相手に見せるこの姿は始めこそは困惑するものの、ルイーゼ様がルイーゼ様である事のすごく可愛らしい一面だと思うようになった。
「だって、アリシアだけでも驚いていたのに同じ時代を生きる騎士までがこの時代にやってきて、さらには900年前の騎士まで既に居たなんて……!」
ジョエル様は相変わらずの笑顔だ。こうなる事はもう既にわかっていただろうし、もしかするともう既に第一回目のアプローチが終わっているのかもしれない。
未だに状況が飲み込めていないナフタック様に、ルイーゼ様の歴史好きや一番興味がある時代のことを説明する。その間もルイーゼ様の瞳はキラキラと輝いていた。
「……――なので、今回のお茶会に私達が招待されたのかと。如何でしょうか、ルイーゼ様」
「ええ、ええっ! アリシアの説明した通りよ。亡国の聖女アリシアと騎士達を中心にとても人気でしたのにそこへナフタック様まで、そして女性人気の絶えない美貌の騎士ジョエルまで900年も過去から来たなんてっ」
うっとりと話すルイーゼ様。完全に自分の世界だ。
勿論この情報はルイーゼ様だからこそ得られている情報であって、まわりの騎士様からすれば、私とナフタック様は亡国の生き残りで、ジョエル様に関しての更新情報はない。
「ぷはっ、お前美貌の騎士って呼ばせてんのか?」
「まさか。初めて聞きましたよ」
「ジョエルは男性なのこの美しさでしょう? 貴族女性からの人気も高いのよ。お茶会をする女性の間では美貌の騎士と呼ばれているの。ちなみに最近は灰色の騎士も人気がありましてよ?」
クスクスと小さく笑うルイーゼ様の反応より、それが誰のことだかは一目瞭然だ。
グレーの髪の毛にさらに濃いグレーの瞳。ジョエル様の美貌とは違う綺麗だけれど精悍な顔立ちをしている。ジョエル様を軟派とするのであれば、ルシウス様やナフタック様は硬派。本気になる令嬢が多いだろう。
ここまで考えて、ルシウス様の名前を自分で出してしまった事に少し後悔した。そうだ、彼だってかなり女性人気は高いのだ。その対策としての今の私たちの現状なのだから。
少し落ち込む気持ちを紅茶と共に飲み込んだ。
「灰色の騎士ですが……一太刀で倒せるような小型の魔物にそんなのいましたね」
「おい、喧嘩売ってんのか、ああ?」
「2人ともっ、ルイーゼ様の前ですよ!」
「アリシア、いいのです! これが400年前の因果かと思うとずっと見ていたい気分だもの」
「あ、ははは……」
ルイーゼ様の熱量の前にナフタック様はたじたじのようだ。
何かを諦めたようにゆっくり息を吐いて、ルイーゼ様に向き直った。
「では、まずはケイオス騎士団長の事を」
久々に妃殿下登場です。彼女は殿下からナフタックの事情を聞いてからと言うもの護衛の隙をつき遠くから彼をストーキング(笑)していました。
ナフタック様がふと気配に気付いてもうまく隠れます。
この妃殿下のお話書きたかったのですが、タイミングがあわず……。なのでこのお茶会が開催されるまでは、そんな妃殿下のオタク活動があった事をここに残させて頂きます。
お読み頂きありがとうございました。




