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あなたが幸せであることを  作者: 卯月めい
第三章 想いの場所

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市井料理を囲んで 2

 串焼き、フリッター、チーズのとろけたオーブン焼き、気持ちばかりのサラダに骨付きのお肉、そしてデザートまで。料理名はわからないけれど、どれも美味しそうなものばかりだ。サラダとデザートに関してはきっとミランダと私の為に選んでくれたのだと思う。そう思うのは、先ほどから騎士様たちが食べているのは主にそれ以外だから、という理由だ。

 こくりとワインを一口飲んだ。楽しい時間は本当にあっという間に過ぎていくものだ。

 テーブルにグラスを置こうとすると、中が空な事に気付いたミランダがそっと足してくれた。お礼を伝え楽しい気持ちに体もほかほかと暖まってくるのを感じた。


「ミランダ嬢、アリシアにそれ以上は……」


 ナフタック様が分が悪そうにミランダに話しかける。きょとんとした大きな瞳が彼をとらえた。


「いけませんでしたか? 酔われてはいないようですし、大丈夫かと……申し訳ありませんでした」

「あ、いや。そのようなことでなく……なんと言うか……」

「弱いのか?」

「極端に弱いってわけではないですが……令嬢のやんわりほろ酔いなんて感じじゃねぇっていうか……」


 どうやらナフタック様はいつぞやの騎士団と魔術師団での交流会の話を持ち出そうとしているらしい。

 私は男爵令嬢でもあったが、社交にはあまりでずに魔術師としていることが多かった。お酒を飲む機会も周りの令嬢より格段に少なかったのだ。そんな経験値の持ち主が楽しく飲み続けたら……どうなるかなんて言わなくてもわかる。その後ジョジュア師団長にもネタにされるくらいだったのだ。男らしい、と。

 令嬢によく聞く「酔ってしまいましたわ」と頬を染める可愛らしさは、どうやら私は持ち合わせていないらしいのだ。

だからといって、記憶を失うと言うわけでもない。きちんと覚えている。思っていたことを口にしてしまうのだ。ジョシュア様に「男らしい」と言われたのはナフタック様に、近く控えた遠征でピンチの時は私が全力で守る、と口にしたからだと思う。

 実のところ、私はそのようなサポートポジションであるわけだし、内容としては間違っていなはずだ。タイミングと勢いがちょっとばかし悪かっただけだ……と信じたい。


「でも、アリシアの酔った姿をなぜナフタック様が?」

「あ、それは……」


 まずい。過去騎士団と魔術師団での飲みの事を話したらミランダにビックリされてしまうかもしれない。ジョエル様には良いネタ提供になってしまう可能性もある。ことあることに揶揄われるのは、ケイオス団長で懲りた。そしてなにより、ルシウス様にあまり聞かれたくない。


「あー……俺らの居た時代での騎士団と魔術師団との飲みがあって、その時に絡まれたっつーか、なんて言うか……」


 あの時の出来事を思い出したのか、もごもごとするナフタック様。そうだよね、いくら魔術師だったとは言え、女性に「私が守る」なんて言われたら騎士様のプライドとしては、それも当時のナフタック様からしたらあまり良い思い出ではないだろう。

 でも「絡まれた」なんて表現は如何なものだろうか。


「まぁ、絡んだなんて、聞こえが悪い。そんな事はなかったと思いますが?」

「君はその時は酔っていたしあんまり記憶にないんだろう」

「記憶ならばっちりございます、今もこの程度では酔いませんので」

「ほう?」


 なぜか無駄に張り合ってグラスにはいっていた、ワインをぐぐっと一気に煽った。

 ナフタック様のため息が漏れる。すぐにクスクスと小さく聞こえる笑い声の方向から話しかけられた。


「アリシア嬢、そういう所が絡んでるって事ではないでしょうか」


 ジョエル様の一言にはっとした。

 確かに他の令嬢は内容がどうであれ張り合ってあろうことかお酒を煽るようなことはしない。気付いてしまった内容に恥ずかしくなり、あははと情けなくも笑ってごまかしてしまった。


「ふふ、お二人は仲良しなんですね。でも、アリシア、このままだとボルド様が拗ねてしまいますよ?」

「えっ?」


 ミランダのその言葉にルシウス様を見た。目があった彼はいつもと変わらない表情のままだ。なぜなら、彼は恋人役であって本当の恋人ではない。拗ねるなんて事は起きるはずもない。

 ここに居るミランダも、ジョエル様も私たちの関係は知っているのだ。でもそうだ、ナフタック様にはこの関係はまだ伝えていないのではないだろうか。それともジョエル様から聞いているのだろうか。

 そんな事を考えながらルシウス様を見る、視線が重なった彼の口元がゆっくり上がる。


「ルシウス様……?」

「アリシアの新たな一面が知れたので、ナフタックには感謝だな」


 ほら、いつも通りだ。

 そのままルシウス様がこちらに近づいてきて私の頭にぽんと手をのせた。

 その行動にみんなの視線が集まっている。それなのに、ルシウス様は私の耳元に声を寄せてこう言ったのだ。


「他にもしならい一面は、次は俺に直接見せてほしい」


 耳元で響く低音に腰のあたりがゾクリとする。

 反射的に耳を押さえ、彼を見ると仕返しだと言わんばかりの笑みを浮かべている。そんな表情は見たことがない。

 「まあ」と嬉しそうなミランダの声がした。自分の頬が一気に染まるのがわかった。

 仕返しだとして一体なにに対する? 恋人(役)を放置してしまった事についてのものだろうか。それとも、彼の気紛れでおちょくられてしまったのだろうか。とてもじゃないけれど理解が追い付かない。

 今はただバクバクと鳴る鼓動を落ち着かせる事が最優先だ。


「本当にお二人は仲良しなのですね。いつかのイヤリングもとても素敵でしたし」

「イヤリング?」

「ええ、夜会でアリシアが身に付けていた、エメラルドグリーン……ボルド様の瞳の色のものだったのですが、とてもお似合いで……! 良家の令息達が視線をおくるもそこには輝くエメラルドが……はぁ、とてもときめいてしまいました。あちらはボルド様がお選びになったのですか?」


 お酒にめっぽう強いミランダだが、所謂男女の恋の話が大好きなようで、テンションがかなり高いのがわかる。目を輝かせ待つ彼女が意外だったのか、少し驚きながらもルシウス様が話し始めた。


「ああ、ちょうど街で窃盗事件があって駆け付けた時……ミランダ嬢が現場に居た日があったのだが覚えているだろうか……あの日2人で店に行ってその時に、な」


 そうだ、そういえばその日街で事件が起きて、ルシウス様が向かったんだった。


「そういえばそんな日でした。確かその時小さな女の子が野次馬の男女に怪我させられてたから、ちょっと天罰をって思って……ふふ、こっそり魔法を使ったんだった」


 まだ数ヵ月しかたっていないのに、だいぶん昔のように感じるのは、それから今までの間でいろんな出来事が立て続けに起きてしまったからだろう。


「みんな野次馬に気を取られててバレないって思ってたんだけど一人見てた人が……い、て……」


 頭のなかで何かがはまる感じがする。

 そう、あの時見られていたんだ。一人の男性に。

 茶色くて短いウェーブのかかった髪。薄い水色の瞳……この外見のこのワード達を最近何処かで聞いた気がする。

 でも、一体どこで?


「……そもそもなんで、アリシアが副団長の色をまとう必要があるんだ」

「それはもちろん、恋人だからです!」


 パチンと楽しそうに口元で手をならしたミランダ。別の事を考えていたせいできちんと聞けていなかった、が。

 今、ミランダ、恋人って言った?


「恋人? は? 副団長と……アリシアが?」

「ええ! お似合いですよね!」


 気付いた頃には話が進んでいっている。まずい、勘違いを止めなければ。ルシウス様に迷惑がかかってしまう。


「ナフタック様、違います! 正式には恋人のふり、です!」


 ルシウス様に視線を向けると、全く訂正する気はなかったようで、お酒の入ったグラスを傾けていた。


「ルシウス様も何か言ってくださいよ」

「ん? 別に問題はない」


 もしかして酔っているのだろうか。少し意地悪に広角をあげている表情をはじめて見た。頬が熱をもっているのはきっとお酒のせいだろう。

 全く話す気のないルシウス様に変わって、ナフタック様に経緯を説明した。

 公には私は亡国出身の聖属性魔術師、逃げ逃れてルシウス様と出会い恋におちた、そんな設定になっている事、私は他の貴族に利用されないために、ルシウス様との利害一致でこのような関係になっている事を話した。ナフタック様自信の公の設定も私と同じ亡国の出身となっている。そして、私と彼は昔馴染みということになっているのだ。

 彼自身の設定はもちろん知っていたらしいが、私に恋人役がいるということは知らなかったようだ。


「……あくまでもお互いの利害一致なんですが……あ、わかってますよ! 私なんかがルシウス様には釣り合ってないって事は」

「そんなことないわ! すごくお似合いですよ! 私あの時は本当に恋人同士だと思ったもの!」

「……フリ、なんだよな?」

「え、あ、はい」

「そっか……ああ、外聞ってそ言うこと、か」

「ナフタック様?」

「ん。気にするな、まあ飲め、勇ましい魔術師」

「なっ!! ……はあ。では遠慮なく」


 渡されたグラスを一気に傾けた。

 そんななか、部屋の扉を叩く音が響く。扉の向こうから騎士様の声がした。


「副団長、歓談中申し訳ございません。団長がお呼びです」

「わかった、すぐに向かう」


 気付けばかなりの時間がたっていた。

 こんな時間に団長から呼び出されるなんて、何かあったのだろうか。立ち上がったルシウス様を見ると視線があった。


「すまないが、俺はこれで失礼する」

「お酒飲んでましたが、大丈夫ですか?」

「ああ、さほど飲んではいないよ。それよりも、アリシア。君はそろそろ飲みすぎだ」


 大きな手が頭の上にふってくる。その温度が心地よい。


「そうですね、そろそろ私たちもお開きにしましょう。アリシア嬢の部屋はすぐなので、私はミランダ嬢をお送りします」

「えっ、ありがとうございます」

「よろしくお願いします。片付けは私がしますので、このまま送って下さい。あ、でもジョエル様、くれぐれも無事に送り届けて下さいね?」

「もちろん。では参りましょう、ミランダ嬢」


 ジョエル様のエスコートに、頬を染めるミランダの可愛さと来たら、自分の広角が緩むのを必死に抑える。


「片付け、手伝っても良いか?」

「ええ、ありがとうございます」


 ナフタック様が申し出てくれた、断る理由もないのでお願いすることにした。


「手伝えなくてすまない。ナフタックよろしく頼む。……片付けたら二人とも速やかに部屋に戻るように」

「了解しました」


 三人が部屋を出る。

 賑やかだった空間が一気にがらんとした、そんな感覚になった。

お読み頂きありがとうございます。




X:@sheepzzzmei

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