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あなたが幸せであることを  作者: 卯月めい
第二章 生きる場所

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収集と報告 4

「あの魔術具で発動した魔法に陣が浮かび上がるのであれば、それは恐らくユグナージュ王国独自の魔法だと考えられます」


 陛下がジョエル様を引き続き騎士としてそして古代の重要人物として取り立てて下さるとこになった。もちろんこの事については後々陛下にも報告がいく、その結果ジョエル様がどのような立場になるかは正直まだわからない。でもきっと、魔人として何かに処したりそのようなことはないと信じている。


「ユグナージュ独自の魔法、か。他国では使用されていなかったと?」

「あの魔法陣が何か国と関係しているのか?」

「殿下や副団長のおっしゃる通りです。魔法陣自体が、ユグナージュの古代遺産のようなものなのです」


 古代の国の、古代遺産……もう一体いつまで時代を遡ることになるのだろうか。頭の中がぐるぐるとしてしまっているのは大体みんな同じなようで、見渡すと漏れなく眉間にシワがよっていて面白い。

 私とナフタック様に関しては500年前の亡国の歴史のようなもので、それだけでもとてつもないものだけれど、ルシウス様達にとってはユグナージュ自体が歴史書にもならないような古代でそこからさらに遡った時代の遺産なんて言われたら……ね。


「ユグナージュの遺産である古語を習得した上で、歴史と祝詞を学ばなければいけません。ですので、現代において使用できるのは通常であれば私だけ、なはずなんですけどね」


 国が滅びでも書物等何かしらの形態で残った遺産の産物なのだろう、とジョエル様は言った。

 確かにエルダジア帝国は大陸の西側で、900年前のユグナージュ王国があった位置を考えても隣接している。国が滅んでも、国民全てが滅んだとは考えがたい。事件の起きた王都付近ーー禁足地付近ーーの被害が大きく、結果国が機能しなくなって滅んだのであれば、生き延びた国民は隣国に亡命したなども十二分に考えられるのだ。

 そしてそれが現代において、魔術師達の手によって魔道具として作られた……。


「あの魔法陣の効果としては主に威力の増幅と考えていただければ。もちろんそれだけではありませんが、仮に本当に我が国の魔法なのであれば真に学び得ないものに授かれる祝福はないでしょう」


 ジョエル様の話す内容から察するに国の崇める神に関する遺産だったのだろう。

 魔法の威力増幅といっても、術者に比例するそうで、マナを使用しない現代の魔力を増幅してもマナを使用した魔法の威力になるくらいだとか。

 私やナフタック様からすると常だけれど、この時代でマナ使用時の威力となるとかなりの恐怖だろう。

 

「だったら、この時代のやつらはもちろんだけど、俺らがその魔法を使えれば結構な戦力になるんじゃないのか」


 その発言にジョエル様がこれ見よがしに深いため息を吐き、ナフタック様にあからさまな笑顔を向ける。

 日々行動を共にする私もそんなジョエル様を見たことはない、そしてそれはどうやらルシウス様達も同じようで、少し驚いたような視線が2人に集まった。


「ええと……アルスター卿でしたか。私の話を聞いていましたか? 古代の遺産と言いましたよね? そんな話も理解できない頭に我が国の歴史や古語など到底理解できないかと」

「ああ? 魔人ごときが舐めやがって」

「そんな魔人ごときに怯えていた400年前の騎士は何方です?」


 じりじりと距離を詰める二人の間には席の関係上テーブルがあるわけで。どうも、この二人の和解には時間を要するようだ。だとしてもこの状況をどうにかしてほしい。


「お二人とも。今はそのような事を言い合ってる場合ではありません。何より殿下の前でしょう」


 「申し訳ございません」と先に引いたのはジョエル様だった。ナフタック様はと言うと、小さくクソっと吐き捨てて深呼吸後、殿下に謝罪を入れた。

 そこまで見ていたルシウス様が小さくため息を吐き、グスタフ様はというとケラケラと笑い始める。


「ジョエルもアルスター卿も落ち着け」

「今の会話、まるでガキじゃねぇか」


 殿下までクスクスと笑う始末だ。

 「幼稚な思考につられてしまい恥ずかしい限りです」とジョエル様が笑顔でナフタック様を煽る。ナフタック様はジョエル様が程うまく笑顔が繕えず、広角がひくつき握った拳は震えていた。

 意外と言うか、なんと言うか新たな一面を見たような不思議な気分だ。この二人、和解さえすれば意外と気が合うのではないだろうか。

 ともあれ、このままでは話が進まないので仕切り直しだ。隣にいるジョエル様には申し訳ないが、軽く背を向け、殿下に話しかけた。


「では、私たちが今優先して行えることは、マナを使えるのもを増やす事、でしょうか」


 エルダジアの魔術具がどれだけの量造られているかは現実問題皆目検討もつかず、そんななかで今出来ることは限られる。


「そうだな。まずは底上げだろうか。アリシア嬢、協力してもらえるか?」

「私でお力になれることであれば喜んで」

「ありがとう。ではまずアリシア嬢には騎士団にマナ指導をしてもらいたい。グスタフを含め上級の騎士に指導を優先して欲しい」


 殿下がおっしゃる通り、騎士団はこの国の守り。底上げの優先順位にはもちろん入るだろう。でも、私としては聖人や聖女が優先だと思う。何故なら彼らは漏れなく聖属性だ。

 ミランダへの指導の際に実感した。聖属性者は他属性者よりもマナのコントロールにたけている。個人の違いはもちろんあるだろうけれど、ジョジュア師団長が言っていた事を身をもって感じることになったのは確かだ。

 聖人や聖女は障壁魔法や強化魔法も使える。マナで威力をあげれれば、もしも他属性でマナを習得できないものがいたとしても、強化魔法により底上げは可能になる。

 そして何より今。騎士には私以外にも古代人がいるのだ。


「おそれ多くも、殿下。私が優先すべきは騎士団よりも、同じ聖属性使いの聖人や聖女かと思われます」

「ほう、何故だ?」

「はい。聖属性は他属性に比べマナのコントロールにたけています。サポート魔法が得意な聖属性を底上げすることにより、他属性でマナを習得できなかった者の魔法での強化もより効力のあるものとなるでしょう」

「なるほど」

「何より、騎士団には今ナフタック様とジョエル様がいます。彼らを中心としてマナの指導を行う事も可能でしょう。もちろん、私もサポートさせて頂きます」

「よかろう。ではそのように進めよう。グスタフとルシウスは今後の計画を教会に共有るすように」

「了解」

「了解しました」


 表面上友好国である隣国が敵国だなんて、考えたくないことだけれど、なにも対策なしにこのまま攻め入られでもしたら本当に終わりだ。

 緊急事態ではあったが、相手の情報が少しでも得られたと考えればプラスになるだろう。

 大方話がまとまったところで、今まで黙っていたナフタック様が立ち上がった。椅子から離れ、殿下の方へ向き膝をつく。


「殿下、俺……私は騎士団に所属していました。今では過去ですが、この瞬間からまた騎士団への所属を許して頂けますか」

「その決定権は私ではないな。どうだ、グスタフ団長、ルシウス副団長」


 二人がどう返事するかなんてわかりきってはいるけれど、責任を委ねる先はあくまでも騎士団、だ。


「アルスター卿に今の騎士団へ入ってもらえるのであれば、多くのとこを学べるでしょう。もちろん俺は賛成です」

「俺も賛成だ。条件としてはそうだな……ジョエルと殺り合うなってとこか? まあ冗談はさておき、歓迎するぜナフタック・アルスター」


 立ち上がったナフタック様がにみんなの視線が動いた。


「グスタフ団長、ボルド副団長、よろしくお願いします」


 そう言ってすぐに此方に向けられた視線に、またジョエル様とバトルでも始まるのかとハッとした、その時だった。


「アリシア・マリージュ」


 予想外に名前を呼ばれ驚きに小さく肩が揺れた。彼の視線は隣にいるジョエル様ではなく、間違いなく私に向いている。


「許してもらえるとは思ってない、だが謝らせて欲しい。俺がとった言動、あまりにも稚拙だった。守るべき騎士の立場でありながらも、貴方の力を羨み妬み……届かないと知り、貶めようとまで考えた。本当に愚かだった。本当に、申し訳ない」


 グレーの瞳が真っ直ぐ此方を見つめている。


「願わくば、この時代の王国を守るその役割を共に果たさせて欲しい。もちろん、顔を会わせたくなければそのようにする。だから、どうか、この時代にたどり着いたものとして、国の騎士としての責務を果たさせて欲しい」

「……ナフタック様」


 出会ったばかりの彼がそこにいる気がした。

 騎士になりたかったわけじゃない、そう言っていたナフタック様が騎士としての責任を果たそうとしている。私なんかが許可するようなことではない、全てはナフタック様の意志だ。

 その気持ちを、国を思う気持ちを、私への謝罪を……心からおこなってくれたことがただただ嬉しかった。


「許可なんて、私からとるものではないですよ。それに、確かにあの時はナフタック様に嫌われていて少し寂しかったですが、今となれば400年も前の事です! 仲直りしましょ?」


 手を差しのべ握手をしたいところだが、テーブル越しには難しい。騎士様がよくやっていた、右手を胸にトンと当てるポーズをとると、一瞬驚いて「ありがとう」と同じポーズを返してくれた。

 長年のわだかまりがとれた気がする。心の奥がすっとして気が抜け笑顔が漏れたそんな瞬間。


「良いだろう」


 殿下の声に全員の視線がそちらを向いた。


「では、改めて古代よりの3名には協力頼もう。……まあしかし、アリシア嬢は魔術師として優秀なのはよくわかったが……そうだな、外見の話をしたときもそうだったが自身の事に関して色々残念なものよくわかった」


 ニヤニヤと楽しそうに笑う殿下。私の事に関して、なにか不備があったのだろうか。そう不安になるもあの殿下の表情からすると揶揄われているだけだと思うので、とりあえず「力足りず申し訳ございません」と謝ったらさらに笑われた。解せない。

 そのまま本日は解散だと殿下から指示が言い渡された。

 長い1日が終わる、早くベッドに入りたい。その前に湯浴みもしてスッキリもしたい。そんなことを考えていたら隣から声が降ってきた。


「アリシア、部屋まで送ろう」


 ルシウス様だ。いつもだったら、ジョエル様なのにどうしてだろうと首をかしげると、グスタフ様より新しい指示が飛ぶ。


「ジョエル、お前の部屋の隣空いてたよな。ナフタックはその部屋使え。ってなわけで団長命令だ。部屋までの案内、その他生活に必要な事の案内……そうだな、この時代に来た先輩としてお前をナフタックの時代適応に関わる教育係に任命する」

「………………了解しました」

「しばらくの間、アリシア嬢はルシウスに任せる」


  「古代騎同士仲良くしろよ」と言い残すと豪快に笑いながら殿下の護衛として部屋を退室してしまった。

 二人の騎士はテーブルを挟んでなんとも言い難い表情でお互いの様子を伺っているようだった。

 私はルシウス様と目が合い、不思議なこの状況を二人して笑ってしまったのだけど。

 次に二人に会うときには、もう少し仲良くなっている事を期待したい。

お読み頂きありがとうございます。

この話で2部の本編は終わりです。次回とその次とで閑話を挟んでから、3部の本編開始となります。

よろしくお願いします。

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