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あなたが幸せであることを  作者: 卯月めい
第二章 生きる場所

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突然の召集 1

 「……ーー最終的にはグスタフ様の一撃で戦闘は無事終決となりました」

「待て。詳らかにとは行ったが、遠征報告を聞いてるのではない。それについては遠征が楽しかったのかテンションの高いグスタフから報告を受けた。私が聞きたいのは、アリシア嬢、()()()()()()()()()()だ」


 可能性を詳らかにと仰ったのは殿下である。この場合の可能性が私の能力の事だと仰られても、何を求められているのか今一わからない。私は()()()()()()()()()参加したのだから。

 ただ、ルシウス様と共にマナのコントロールをしたことは現代には当てはまらなかっただろうけれど。でも、あれに関しては私の時代でも当てはまるものではないのだ。


「殿下、失礼を承知でお伝えいたします。私の魔法と仰いますが私にとっては基本的に聖属性の通常魔法でございます。ルシウス様の魔力をコントロールしたことに関しては、イレギュラーで申し訳ございません。ただそれ以外は殿下が何の魔法の事をお知りになりたいのかわかりかねます」

「ああ、確かにそうだな。……急いてすまない。」


 殿下はそういうと、机に置いてあった紅茶はこくりと一口飲んで深く息を吐いた。そして私の方を見て、苦笑ぎみに問う。アリシア嬢が使う魔法について教えて欲しい、と。

 こうなったら、齟齬を確認し埋めるまで一つづつ話すしかない。マナを知らないこの時代では、魔法の理が違うのだと考えるべきだろう。


「私は魔法を使うのに自身の魔力であるオドと自然魔力であるマナをコントロールします。属性魔法はオドと一緒にマナを練り込むので少ないオドで大きな威力を産み出します。それを前提に、私が主に使う魔法は以前もお話した聖属性魔法です。暗闇を照らすのに”ライト”、これは今では魔道具がある事を知りました。次にヒール、回復魔法です。これは現代の聖人や聖女が使うものと同じです。ただ違うのはその効力かと思います。死者を甦らせることはできませんが、瀕死の重体であればその具合と魔力の残量により回復可能です」


 殿下が「瀕死も、か」と息をはく。隣に立つルシウス様も真剣に聞いているようだ。


「他にも今回の遠征で使ったもので言うと、障壁……でしょうか」

「その障壁とは、聖人達の光の盾とは違うのか?」


 殿下からの質問に”光の盾”を知らない私はそっとルシウス様に視線を送り助けを求める。それに気付いたルシウス様が「発言をお許しください」と殿下に申し出た。


「ああ、勿論だ。ルシウスは現地にいたのだからな」

「有り難うございます。光の盾は、物理的な盾よりも少し大きく、物理、魔法から身を守るのに使うものですが、アリシアの障壁はそれであって、それとは全く別物です」

「別物とは?」


 光の盾の存在をここに来て始めて知った。恐らく障壁の小型版といったところだろうか。そして魔力の関係上、防げる威力も障壁よりかなり落ちる……ということだろう。


「はい。まず範囲です。光の盾と違い、広範囲の空間を守る事ができるようです」

「ほう」

「ルシウス様の仰る通り、恐らくマナを使用している分威力の上がった光の盾なのではないでしょうか。それが対象の一方向だけでなく、空間で展開されます」


 その他にも浄化や状態回復が使えることを伝えると。殿下はしばし黙り込んでしまった。

 それほどまでに現代と400年前とで魔法に違いがあったということだろうか。


「……それで全部か?」

 

 振り絞ったような殿下の声に何となく申し訳ない気持ちになるが、齟齬を埋める事が第一だ。

 殿下の眉間のシワがまた増え可能性しかなくてもきちんとお伝えしなければ。


「あと……強化魔法ですね」

「ああ、それであれば聖人達も使用する。マナの関係で威力は上がるというのは、ここまでの話で漏れなくそうであろう」


 少し安心したような表情の殿下に「はい」と返事をしようと思ったときだった。


「殿下、この強化魔法ですが、聖人のそれとは別物かと」


 ルシウス様の一言で殿下の笑顔がひきつった。


「まず、強化の威力は現代のそれの倍はあるかと。何より、魔法のみでなく、物理も強化されます」

「え、あの、確かに全体強化ですが……今の強化魔法は全体ではないのですか?」

「今は魔法だけ強化するのが一般的だ」


 ここで漸く謎が解けた。

 フェンリル討伐で強化を掛けた騎士が攻撃後に固まっていたのは、予定外の部分まで強化されたからだったのだ。

 知らなかったとはいえ、何を強化するかを伝えるべきだったのだと、今になって少し後悔してしまう。


「そうとは知らず、一瞬騎士様達の指揮を乱してしまい申し訳ございませんでした」

「謝ることではない、知らなかったのはアリシアも同じだ、それに強化をかけてくれたからこその勝利だ。礼は言っても謝罪される理由はないよ」


 眉を下げ微笑むルシウス様にお礼を伝える。

 殿下は何やら指折り数えながら「古代魔術がここまでとは……」とぼやいている。

 同じ魔法で威力以外にも違ってくることがあるなんて、もうこればかしはその都度確認しないとこの場で全て解決は無理だ。

 これで全部殿下にお伝えできただろうか。そう考えていると、いつだったかグスタフ様が報告すると言っていた内容もきちんと伝わっているのか不安になってきた。


「あの殿下」

「なんだ?」

「非属性魔法についてなのですが……恐らく以前グスタフ様より何らかの報告があったっと思います。齟齬がないよう私からもお伝えしてよろしいでしょうか」

「この流れだと、そうだな、教えてもらえるか」


 はは、と苦笑気味の殿下に私も思わず眉が下がった笑みになる。


「非属性魔法はマナか干渉するせいで、本来の威力を出しきれないものです。そこでマナをコントロールして出来るだけ干渉を押さえオドだけで放出する事で威力をあげます」


 このマナコントロールで100%干渉を防ぐというのは無理だ。ジョシュア師団長でも限りなく近いが100%ではなかったのだ。


「このマナコントロール技術はジョシュア様が一番得意としていました。そして一応ではありますが、ジョシュア様に次いでと言われていたのは……私です。なので、恐らく非属性魔法を放った場合、現代の属性魔法に値する威力になるかと存じます」


 まるで「私すごいのよ?」と吹聴しているようでなんだかモヤモヤする。もちろんそんなつもりは一切ないし、そんな風にも全くもって思っていない。

 仕方ないのだ、400年前の皆であればおおよそは今の属性魔法とほぼ変わらない威力で非属性魔法を使えるのは事実なのだから。


「もちろん、これは私だけに当てはまることではなく……もし万が一私以外にも過去からこの時代に来た人がいるのであれば、その人が使う非属性魔法は現代の属性魔法と並ぶ威力になるかと……」

「私には感じ取れないその”マナ”とやらが、魔法には本当に大切なのだな」


 そう、殿下の仰る通り、マナのコントロールで魔法の威力は大幅に変わってくるのだ。

 今この時代はマナに干渉できないのかと思ったけれど、そうやらそれも違うようだし、実際ルシウス様はマナの扱いを伝えたその日からこれまでの間で、少しコントロール出来るようになっていた。もちろんルシウス様の努力の成果だけれど、これで向き不向きはあれどこの時代の人もマナが扱えることがわかったのだ。

 だとしたら。


「マナのコントロールは他属性者よりも聖属性者が得意な傾向にあります。聖属性はマナを多く取り込む、逆に言えばマナの干渉が一番多い属性だからです。それで提案なのですが……マナのコントロールを聖人や聖女に覚えてもらう、というのはいかがでしょうか」


 腕を組んで殿下が少し考え込んでいる。悩むということは、何処か魅力的に思っている部分があるということだ。

 魔法の威力が今より上がることはきっと悪いことではないだろう。聖属性は昔よりも貴重な存在になっているように思える。サポートに適したものが先にマナコントロールを取得することで、守れるも助けられるものも増えるのだ。


「とても魅力的な話だ。だが、アリシア嬢の素性にも関わってくる。簡単に許可すると情報が漏れ国を揺るがす内容になるやもしれん。この件については一旦陛下に報告し、指示を仰ぐ事にする」

「畏まりました」


 これで報告会は一旦終了だろうか。

 この後は部屋に戻り、当初の予定どおり湯浴みをしてベッドに飛び込みたい。お腹もすいた、食堂はもう閉まっている時間だが、遠征の帰還者達へと配られたサンドイッチを部屋に置いている。湯浴みをして落ち着いたら食べようと思っていたのだ。

 ふう、と息を吐いた。そんな事を考えていたら一気に肩の力が抜けた気がした。


「そういえば、アリシア嬢。グスタフの報告にもあったが、先ほどのアリシア嬢の報告の中にもあったアンデッドに取り憑かれて、というのはその後大丈夫だったか?」


 どうやらお部屋のベッドはまだ遠いらしい。

 

お読み頂きありがとうございます。




X:@sheepzzzmei

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