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あなたが幸せであることを  作者: 卯月めい
第二章 生きる場所

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遠征 4

「アンデットの仕業だったか」


 近くの木に寄りかかるような状態で倒木している木の間を抜ける。昨日の獣道よりはだいぶ道らしくはあるが、長年使われてないこと一目瞭然だ。


「はい、恐らく道中どこかで入り込まれてしまったのかと……」


 移動していた際に特段関知しながら進んでいたわけではないが、ある程度の魔力であれば気付くはずだ。それで気付かなかったと言うことは、恐らくアンデットとしては不十分なくらいの微々たる魔力しか持ち合わせてなかったのだろう。それが入り込んだので直ぐには気付かなかった、という推測が一番しっくりくる。


「アンデット未満みたいな個体がアリシア嬢に入り込んで、生気を吸った結果……ってところだろうなァ」


 グスタフ様の見解も同じのようだ。

 いくら障壁を張っていても、張る前に人に入り込まれたら全くもって意味をなさなくなる。珍しい例だが、今回がそれだったのだ。


「ですが、アンデット未満のような個体が誰かにとりつくなんて事あるのでしょうか」


 ルシウス様の発言に「それなんだよなァ」と同調するグスタフ様。そうなったであろう、とは考えられても根本では納得できていない点があるようだ。


「グスタフ様、()()()ではアンデットは魂に惹かれると聞きます」

「魂ねぇ……単に波長があったのか、それとも4……あー、()()の霊だった、とかか?」

「同じ場所で生きた魂同士惹かれあった……か」


 400年前の個体であったとして、私はこの場には縁もゆかりも無い。特殊な個体だったのだろうか。

 そんなことを考えている時だった。前方の方に多きな魔力を感じた。反射的に声をかけようとした瞬間、グスタフ様から立ち止まるよう指示が入った。彼も魔物の存在に気付いたのだろう。

 この時代で魔物討伐ははじめてだが、私が退治していたものとなにか変わりはあるのだろうか。よくよく考えると、討伐のスケジュールは聞いているが、現代の魔物がどのようなものなのか一切聞いていな事に気付く。

 関知している感じからすると、禁足地付近に多く生息していた古種に似た感じがする。

 これであれば問題ないだろう、そう思い再びグスタフ様に視線を向けると、無いやら険しい表情になっていた。


「これは……なんだ?」

「魔物ではないのですか?」

「魔物だと思うんだが、通常の比じゃない魔力だ」


 団長副団長の会話が聞こえたのか、少しざわつきが広がる。

 この時代の魔物はわからないが、あの魔物ならば恐らく……。


「恐れ入ります。恐らくですが、亡国で以前対峙したことがあるかと……魔力量も通常の魔物に比べると多く狂暴ではありましたが、決して勝てぬものではありません。微力ながら私もサポートに入らせていただきます」


 そこまで伝えると、グスタフ様が豪快に笑った。そして「よし、援護は任せた」と一任してくださった。

 ……因みに言おうかは迷ったが、心構えが必要だろうと思いきちんとお伝えした、その内容は。


「あの……今のグスタフ様の笑い声に、あちらも気付いたようでこちらに向かって来ています」

「「団長ーー!!」」


 ルシウス様のため息を大勢の騎士様の声がかき消した。


「諦めろ、対峙のタイミングが早まっただけだ」


 ルシウス様はそう言うが、恐らく縄張りに入り込まれて絶賛業腹な魔物が向かって来ているのだろうけれど、訂正は……まぁ大丈夫だろう。


「でもまあ、ここで鉢合うのは地理的によくねぇな。確かそこを抜けると大昔の街の跡地だ、そこまで急ぐぞ」


 朽ちた古道を駆け足で進む。魔物もだいぶ此方に近づいてきているようだ。

 開けた場所に出た。所々木は生えているものの自然に生えたと言うよりは、植えられたような規則性が見られる。

 今は隙間から草が生えているが、当時は立派な石畳だったに違いない。奥には建物だっただろう跡が点々と残っていた。奥の方に館のようなものも見える。……が、何かおかしい。何でだろう、この館を知っている気がする。

 遠くに見える、その朽ちた建物を眺めているとグスタフ様の怒号が響いた。


「来るぞ!」


 視線を向けた瞬間と、姿が現れるのはほぼ同時だった。木の間を駆け抜けてきたのは、古種のフェンリルだった。

 姿が見えた事で相手を確認できたのは、もちろんフェンリル側も同じだ。ただ一つ違ったのは、あちらの方が此方よりも攻撃的であった事だ。

 認識ができた瞬間にフェンリルが魔力を練り込み打ち込んでくる。まずい、こちら側は反応しきれていない。聖属性魔法が使えるのは私1人、だとすれば騎士様達はこの魔法を受けないために”避ける”という動作のみになる。このスピードを物理で避けるのは不可能だ。だとしたら。


ーーウォール


 一瞬の判断で魔力を練り込み隊を覆うような半円の障壁をたてた。刹那、その障壁に魔法がぶつかり地響きするような音の後、爆風のような風が障壁の外を吹き抜けた。


「ははっ、目の前で起きてるってのにこの状況が信じられねぇや」

「グスタフ様、そんなこと言ってないで、来ますよっ」


 障壁が消え爆風に煽られた土煙がはけていく。

 そこには立派なフェンリル1頭、此方をに睨んでいた。

 

「これは……フェンリル、なのか……? 普段討伐しているものと別ものだ、倍以上の大きさと魔力じゃないか」

「これは古種です。私の居た場所にもある一定の地域に……っ!」


 そう、このフェンリルは確かに戦った事はあったが、400年前でも通常この通りではない。とある地域でしか見たこと無いのだ。その場所は……ーー。


「禁足地……ーー」


 納得がいった。ここはあのときの禁足地だ。遠くに見えた見覚えのある建物、あれは私の隊が見つけたあの館だ。この既視感は、あのときの記憶なのだ。

 此方の様子を伺っていたフェンリルが大きく唸り此方に向かってくる。


「一旦俺が……ッ!」


 グスタフ様が魔力を練り込み、大きな炎を打ち出した。

 避けられてしまい直撃はしなかったものの、ダメージはあっただろう。フェンリルが一旦後ろに飛び退いたのだ。それが合図だったかのように、今度はグスタフ様の怒号が飛ぶ。


「かかれ!」


 普段よりの稽古の賜物だろう、組まれた連携はフェンリルに隙を与えない。ただ、魔法の威力はフェンリルに対して劣ってしまう。やはり物理だけでは決定打にはならないらしく、フェンリルも粘っている。

 マナのコントロールが課題だろうか。


「みなさん、サポートします!!」


 白くピカピカと輝く光が騎士様達に注がれる。一時的ではあるが魔法に限らず、全体のステータスを強化する魔法だ

 これで、魔法でも今までよりは押せるだろう。

 だけどなぜだろう。剣で斬りかかった騎士様が一瞬固まる様子が見受けられたが、どうしたのだろう。


「ははっ、言いたい事はわかるが、今は目の前に集中しろ!」


 グスタフ様の渇がとび、騎士様達の連携が戻ってきた。

 フェンリルは強い。剣術や魔法と繰り出してはいるが、やはりまだ魔法の威力が欲しい。

 できるのもなら私も戦闘に加わりたいのだけど、()()()()()()()として参加している以上、他の魔法は使えない。もっとマナのコントロールができれば……。

 そこまで考えて思い付いた。私がコントロールだけすればいいのだ。実際にはやったこともないけれど、理論上は可能なはず。それには少しでもマナを扱える必要がある。一番最初にルシウス様が魔法を打ち出した際に少量だがマナをコントロールしていたようだった。

 マナの扱いを伝えたあの後、日々努力をしていたに違いない。だとすれば。


「ルシウス様!!」


 私が呼んでしまったばっかりに、意識がこちらに向いたその瞬間、フェンリルの魔法が放たれる。


ーーウォールッ


 間一髪で障壁を立て、騎士様には被害は出なかった。「ナイスフォロー」と騎士様に笑顔をもらったけれど、根元は私だ申し訳ない。

 そんな中、こちらにきたルシウス様に内容を伝える。


「……ーー理論上は可能なのですが、ご協力いただけますか」

「もちろんだ」

「ありがとうございます。魔法で弱ったフェンリルにグスタフ様の全力の物理で退治できると思います!」

「了解した」


 作戦開始だ。

 ルシウス様が指示をだし、騎士達を一旦下げた。その間に障壁をはり、フェンリルの攻撃をできるだけ防ぐのも忘れない。


「今度は何を始めるんだ?」


 戦闘力が上の敵を目の前にしても、焦ることもなく、むしろ何故か少し楽しそうに笑うグスタフ様、さすが団長様と言うべきだろう。


「アリシアのサポートで俺が全力の魔法を打ち込むので、団長は剣で留めを」

「了解した、あのデカブツフェンリルめ調子に乗りやがって、叩き切ってやる」

「では、ルシウス様いきます」

「ああ」


 ルシウス様の左手を両手で包み自身のオドを流していく。訓練の時の量と比でない量を一旦流し込むことになるので、ルシウス様の負担が心配だがやるしかない。

 心配から少しだけ視線をやると、やや眉間にシワがよっているようだった。


「今から大量のマナを引き込みます。私の魔力を抜いた瞬間に体に残る全てのマナと出来るだけ多くのオドを練り込んで放出してください」

「ああ、わかった」


 ルシウス様の額にうっすらと汗が滲む。


「大丈夫、先ほども少量ですがマナを練り込んでましたよね。ルシウス様が日々努力されていた結果ですもの。信じてください」


 そう微笑むと、彼からも柔らかな表情が返ってくる。


「ああ、ありがとう」

「では、いきます」


 自分が属性魔法を最大に使用する際に引き込むマナの量、それよりも更に量を増やし一気に引き込み、ほぼ同時に私の魔力を抜いた。


「今です!!」

「ハァァッッ!!」


 高密度の魔力が練りあがりルシウス様の右手から業火が放たれた。轟音が地面を伝わり体に響いてくる。

 炎は直撃し、フェンリルはそのダメージに悶えるもまだ戦闘の意志があるのか、こちらに更なる敵意を向けてきている。

 轟音が収まり掛けたその瞬間、声が響いた。


「団長!!!」

「待ってたぜっ!!」


 ドっと地を蹴る振動。次の瞬間にはフェンリルの真上にいるグスタフ様が魔力を纏わせた剣を振り下ろしていた。


「手間掛けやがって…よオォォォ!!」

こっそり予定外更新してみました。

お読み頂きありがとうございます。


X:@sheepzzzmei

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