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あなたが幸せであることを  作者: 卯月めい
第一章 未来への着地
13/21

王への挨拶 1

 国王陛下への挨拶は夜からだと言う。

 夜に謁見なんてそんな事は経験なかったので、陛下がお忙しい中時間を割いて下さったか、400年の時の差がそう思わせるんだとばかり思っていた。


「ジョエル様は謁見の時も護衛で途中まで一緒に来てくださるのですか」


 本を読む私の後ろに控えている彼に、出来るだけ小声で話しかけた。

 数日前から、お城の図書を閲覧できる許可を頂いたのだ。莫大な資料や本の中に"時間"に関する魔法の記録がないかと調べている。

 現時点で成果は0だ。


「謁見? ああ、陛下への挨拶の事ですね。私はその時間、副団長の代わりで殿下の護衛ですよ」


 身に余る光栄、と穏やかな笑みを浮かべ話してくれた。

 通常はボルド様が殿下付きの騎士なのだ。ジョエル様はそれを任せられる程の実力者と言うことになる。そんな有能な方が私なんかの護衛に付いてくださってることが余計に申し訳なく思えてきた。

 手元の本の最後のページをぱらりとめくり、この本にも情報が0であることが確定した。

 細かい文字をずっと追っていたせいか、目がしぱしぱする。目を閉じてふぅと小さく息をはいた。


「では、そろそろ時間なので移動しますよ」


 掛けられた声に、クエッションマークが浮かぶ。

 この部屋に来てからまだそんなに時間はたってない。謁見は夜からだと言うし、お昼過ぎまではこの部屋で本を読もうと思っていたのに。


「予定は夜からですよね? まだ時間がありそうですが……」

「女性の準備は時間が必要でしょう?」

「まあ、男性よりは……でも、ここまで早くは……」


 パーティーでもあるまいし、そんなにめかし込む必要はないとは思う。それでも、ジョエル様は妃殿下から仰せつかったとの事だ。

 妃殿下とはまったく接点がないのだが、間違いなどではないのかと不安にさえ思えてくる。


「では、行きましょう」

「ええと、どちらへ?」

「お城です」

「え……」


 お城に到着してからは嵐のようだった。

 待ち構えていた侍女達に名前を呼ばれ、来賓室のような場所へ連れて行かれた。もはや連れ込まれたの方が正しい表現なのかもしれない。

 名前も呼ばれたし、私でない誰かとの取り違いの可能性が消えたことだけは安心だ。

 ジョエル様は部屋の前で護衛に当たるということで、もちろん侍女sと私が部屋の中だ。


「それでは、失礼いたします」


 そう声を掛けられてからはあっという間だった。みるみる間に私の衣服を脱がしていく彼女たちに取り繕う暇もなく、気付けば一糸纏わぬ姿にひんむかれた。口が悪くてもいい、あれはひんむかれた、だ。

 浴室にはバラを浮かべたお湯がはってあり、体を清め、髪も洗い、お湯から出れば丁寧に体を磨き上げられた。

 田舎の男爵令嬢の私だ。侍女はいたものの、こんな複数人に囲まれなから身支度をするなんて経験あるわけもなく、始終緊張状態だったのだが、マッサージをされた辺りから記憶があまりなく、声を掛けられた頃には、指先から足の先まで立派な令嬢のように仕上がっていた。

 そこからはお化粧、ヘアセット、コルセットに苦しめられ、ドレスを着て……。

 全てが完成して鏡の前に立たされると、本当に自分なのかと疑ってしまう程に仕上げられた私がいた。……もう詐偽なのではないだろうか。

 下ろしている髪の毛は緩くウェーブか掛けられて、両サイドを編み込むことで顔回りがすっきりとしている。耳元で揺れるイヤリングはこの間ボルド様から頂いたものだ。この髪型だとイヤリングがとても映える。

 ドレスは、オフショルだーになっていて、肩や胸元にはレースを使ってヒダをよせシンプルながらにも可愛らしさが少し見える。

 そして何よりこのドレスはこの間のお買い物で買ったものではない。謁見にこんなに華やかなドレスが必要だとは思っていなかったので、誰かが選び直して下さったのだろうか。


「アリシア様はとてもお綺麗で可愛らしくもある方なので、お支度がとても楽しかったです」


 頬に片手を当て、楽しそうにほぅっと頬を染める侍女。

 間違いなく貴方達の技術の賜物です、と心の中にとどめて「ありがとう存じます」と微笑んでおいた。

 本を読んでいたら、急にお城に連れられていたので昼食を食べていない。小さく鳴ったお腹の音が聞こえたのかもしれない。鏡越しで、メイドさんがテーブルに食べやすいフルーツを持ってきてくれるのが見えた。

運んできてくれた方にお礼を言ったが少し恥ずかしいのはどうにか誤魔化してブドウを一粒。甘くて美味しい。

 その後何粒かゆっくり口に運んで食べていると、時間が来たようで、先ほど中心となって()()()()()()()くれた方が、入り口のドアを開けた。ドア番をしていたジョエル様に声を掛けているようだ。

 程なくして、ジョエル様が姿を表した。

 私が見慣れない姿をしているせいだろう、目を見開き動きが止まる。かと思えば、すごく優しく微笑むものだから、あまりにも綺麗で見とれてしまいそうになった。


ーーあれ? 私がいくら着飾っても、ジョエル様には勝てないのでは?


 相手は男性なのに、勝てる気がしない。それくらに今微笑んだジョエル様は綺麗だった。


「アリシア嬢、とても綺麗です。この後、殿下の書斎までの道のりをエスコートでる事を幸せに思います」

「やめてください! これは私ではありますが、なんと言うか皆様の努力の結晶というか、化粧とドレスと髪型が素晴らしくそう思えてると言うか」

「いいえ! アリシア様が元々お綺麗でいらしたのでお化粧も濃くしておりません」

「ええ、サラサラとして柔らかな髪の毛、長い睫、大きく優しい目元、形の良い唇……お手入れのしがいがありました」

「細身なのに女性らしい体つきをされていて、腰も細くいらっしゃって……男性としては庇護欲や独占欲を駆り立てられるのではないでしょうか……! これはきっと会場中の男性の視線が注がれる事間違いないです!」

「でも、耳元に揺れる色をみてその男性達がどう思うのか……」


 ほうっとしながらもとても楽しそうに語る侍女の方々、それを聞いてうんうんと頷くジョエル様。何やら意気投合しているようにも見えるのは気のせいだろうか。何より、謁見の場にはそんなに多くの男性はい。万が一いたとしても、仕事柄身分の高い方々で仕事中だ。そんなことにはならないだろう。

 それに、いくらお世辞だとわかっていても言われ慣れていない側からするととても恥ずかしい。あまりにも楽しそうに想像を繰り広げる彼女たちに水を差すのも悪いので苦笑いを浮かべる結果となった。


 「それではアリシア嬢、エスコートさせていただきます」


 彼のボウ・アンド・スクレープはとても綺麗だ。

 以前にも一度この姿を見たときに驚いた。騎士様と言うよりかはまるで高貴な貴族の男性のようだ。


「はい、よろしくお願いします」


 私もカーテシーで返事をする。顔を上げると、お互い目が合い小さく笑ってしまった。これも前にあったな、なんて思っていると、いつのまにか整列し直した侍女達が「いってらっしゃいませ」と笑顔で声をかけてくれた。


 書斎までの距離はそんなにはなかったのだけれど、たまにすれ違う人からの視線を感じた。

 当たり前だ、パーティーに向かうような格好で城内を歩いていれば誰でも気になるだろう。でもその気恥ずかしさもここまで、この扉の先は殿下の書斎だ。

 ジョエル様が声をかける。中から「入れ」という殿下の声が聞こえた。

開いた扉の奥には殿下ととても美しい女性、ボルド様がいた。

 部屋に入り扉が閉められたところで、殿下に向かって本日2度目のカーテシーを行う。


「本日は、私のためにこのようなご準備を頂きましたこと、誠にありがたく存じま」

「やっぱり似合う! とても綺麗だわ!!」


 あと一文字を口にして顔をあげるはずだった予定は、突如として目の前に現れたーー正確には殿下の隣から猛スピードで私の前にきた、とても美しい女性によって遮られた。

 女性はと言うと、思わずドレスのスカートから離れてしまった私の右手を両手で握り「ああ、やっぱり可愛らしいわ」とテンションが上がっている様子だ。

 今まで出会ったことのないような絶世の美女が、私に向かってそんな事を言っているのだ。この状態は一体。


「元から整っているとは思ってはいたが……似合っているではないか」


 呆気にとられている私に殿下が声をかけて下さった。何やら褒めて下さっているようだがそれどころではない。目の前の美女が頬を染めキラキラとした瞳をこちらに向けてくるのだ。


「ルイーゼ、落ち着け。アリシア嬢が困っているであろう」


 ルイーゼ、殿下からそう呼ばれた女性は名残惜しそうに握っていた手を離し一歩下がると、それは美しく上品に微笑んだ。今この瞬間からさらに美しさが増した気がする。


「驚かせてしまいごめんなさい。(わたくし)はルイーゼと申します」

「妻だ」


 扉が開いたときに、殿下の隣にいた女性だ。この場でそのような場所にいらっしゃる女性は、どう考えても殿下と親密な関係であることは考えられるのに。突然の事に頭がまったく働いていなかったのだ。

 慌ててカーテシーをしなおす。


「大変失礼をいたしました。妃殿下に挨拶申し上げます。私くしはマリージュ男爵家長女のアリシア・

マリー」

「大丈夫ですから、楽にしてくださいな。実は殿下からお話を伺っていたの。年も近いようなので、仲良くして欲しいわ。私もアリシアって呼んでも良いかしら? 私の事はルイーゼとそう呼んで欲しいの」

「もちろんです。よろしくお願いします、ルイーゼ様」

「良かったな、ルイーゼ。アリシア嬢、よろしく頼む。何せルイーゼはアリシア嬢のファンでな」


 クスクスを笑う殿下。つい先ほどそれは美しく微笑まれていたルイーゼ様は、美しいことには変わりないが、最初に私の前に衝撃的に現れた瞬間のような表情に戻っていた。

 聞けば、妃殿下……ルイーゼ様は元々古代魔術に興味があり歴史が大好きだったそうで。特に好きだったのが”魔人の目覚めと討伐”の時代だそう。そんな中私がやって来て、その時代の人物だったということで興味を持ったそうだ。


「話を聞いてお会いしたくて、ニコラウス様が陛下との挨拶の予定をお伝えする時にアリシアがこの書斎に来るという話を聞いて、いても立ってもいられず護衛を降りきってこっそり見にきたのです」


 恥ずかしそうに頬を染める姿はなんとも可愛らしいが、やっていることは結構お転婆な気がするのはなぜだろうか。思わず苦笑してしまった。


「そしたら、遠くから見たアリシアの姿がとても好みで……! 憧れの時代からやってきた人が、こんなに可愛い方だったなんて、仲良くなりたくてずっとこの日をお待ちしておりました!」


 気付けばまた手を握られてる。キラキラとした瞳に当てられ眩しくなる。

 本日のドレス類などのプロデュースもルイーゼ様だという。

 本当はお買い物も一緒に行きたかったそうだが、立場上そうも行かず。買ってきたドレスがその日にふさわしいかを確認したところ盛大なダメ出しがあり、イヤリング以外はルイーゼ様直々に選別されたのだとか。


「あのドレスはあのドレスで可愛かったですし、アリシアにはとっても似合っているでしょうけど……今日あの服では浮いてしまうわ。やはりルシウスだけでなく私もいけば……」


 はっとした。

 この部屋に入ってから、ルイーゼ様のパンチが強すぎて状況把握に忙しかった。ボルド様もいらっしゃるのだ。今まで一言も発していたかった彼に

視線を向けると、彼もまたこっちを見ていたらしくぱちっと視線が合った。

お読み頂きありがとうございます。

オタク気質な妃殿下をよろしくお願いします。

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