プロローグ
「おばあ様、小さな頃に聞いたあのお話を聞かせて欲しいの」
ベッドの側に身を乗り出す手入れの行き届いた少し薄いベージュの髪が私の手に触れた。
窓から差し込む心地よい光に照らされた暖かい藁のような優しい色に、思わずふわりと笑顔になる。
「そうね、久しぶりに話そうかしら。最後に話したのは...10年ほど前だったわね」
「いやだわおばあ様、そんなに前ではないわ。そんなに前だったら、私は今ごろどこかへ嫁いでるのも」
もう少しこの家にいさせて、そう笑う目の前の少女に嘗ての自身の面影がうっすらと見え、当たり前の血の繋がりに奇跡を感じた。
人が生きて、命を繋いで、死んで。繰り返される営みに、当たり前の事に、奇跡を感じてしまうのはきっと私だからかもしれない。
「そうね、そんなに前ではなかったわね。...そうよね、16になったんだものね」
横にしていた体を起きあげて座り、枕をクッション代わりにして背もたれた。
「きっと、これが最期になるわ。ーーそうね、全て話しましょう」
これは、今よりも遥か昔、魔術師として生きていた1人の少女の物語。
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はじめまして。ta-koと申します。これから不定期ですが、彼女の物語を綴っていきますので、どうぞよろしくお願いします。