真実と虚構の鏡
真実と虚構の鏡
遠い国のお城の中、女王様の部屋に飾られた魔法の鏡。鏡は何を言われても、真実を写し続けてきた。
今日はこの国に新しい女王様が君臨する日。新しい女王様は私を見て一言告げる。
「な、何よ、この鏡!!!!」
女王様はご不満の様子。近くにあった物を手に取り、今にも私を割りそうな雰囲気。
「女王様、おやめ下さい!」
「メイクが崩れてしまいます。一度落ち着いてくださいませ!」
目の前の女王様は従者達に宥められている。
どうしてこんなに怒っていらっしゃるのだろうか。私は本来の役目通り、「真実」の姿を写しただけである。
「とにかく、この鏡を捨てなさい!!」
女王様に命令された従者達は、すぐさま私を捨てた。数百年「家宝」だとか「魔法の鏡」だとか言われてきたのに、なんて有様だろうか。もう少し扱いを考えてもらいたい。
捨てられてから数時間後、1人の貿易商が私を拾う。遠くの国へ連れていかれるようだ。今度は上手くやろう。でも上手くってどうやって?さっきは「真実」を写して捨てられた。なら、今度は「虚構」を写してやればいい!
先の国から遠く東に来たようだ。女王様とは顔立ちが違う。女王様とは別の意味で醜い顔の人間達が行き交っている。そのまま写すと捨てられてしまうらしいから、今度は理想を写してやろう!全く、人間は鏡をなんだと思っているのだろうか。
「あら、私はこんなに綺麗だったかしら?」
目の前を通ったご婦人が笑う。
ううん、そんなことないよ。なんて言うわけも無い。ご婦人は機嫌よく過ぎていった。
「おや、鏡なんて珍しい。どうだい、かっこいいだろう!」
近づいてきた男性がかっこつけて言う。
お腹についた脂肪については、何も言わないことにしよう。男性は服を買いに行こう!と去っていった。
「鏡がある!私可愛いでしょ!」
駆け寄ってきた少女がスカートの裾を摘んでお辞儀する。
君だけは他の人と違って、嘘をつかなくてよさそうだ。少女はくるりと1回回って去っていった。
それからどれくらい経っただろう。
貿易商は私のことを特定の人物には売らなかった。その変わり、常に街の中心の広場に私は置かれ、人々は私に一瞥をくれた。裾を摘んでお辞儀をしたり、モデルのようなポーズをとったり、笑顔の練習をしてみたり。その間はひたすら、心の中にある理想を写し続けてやった。するとどうだ。いつの間にか理想と見た目が同じになっているではないか。
私は「虚構」を写すのをやめ、「真実」を写すことにした。
それでも人々は私を捨てることなく、広場に置き続けてくれたのだ。
そういえばあの女王様は、今頃どうなっているだろうか。広場に置かれた私には知る由もない。
随分と前に書いた話。発掘したので置いときます。