3 青空市場
《 東京野菜市場 》
ネットでいろいろサイトを飛び回り、あちこちブログやツイッターを覗きまくって発見したPRコメント。
茨城野菜市場
「俺、小さい頃茨城にいたんだよな」
親父の転勤で東京へ来たのは小学校の三年生くらいだったっけな。
ニュースで茨城の農家の人が風評被害で悲観的になって自殺したって言ってた。
正直、自炊なんかしてないから切実に野菜がどうなってても気にもしてなかったけど、『茨城』って地名に反応した。
「で、いつやるんだ?って今日ぢゃん!」
俺、ともかくそこへ行きたかった。
なんでかわからないけど、そこへ行って茨城の人たちの顔を見たかった。
JR山手線浜松町駅近くの会館に、たくさんの人たちが集まってた。
マイクで茨城の野菜をPRする人たちがいた。
決してきれいに陳列してるわけではないけど、整然と野菜たちがそこで待ってた。
値段は…たぶん安いんだろうと思う。
農協関係だって書いてあったから年配者ばかりだと思ってたけど、意外に若いメンバーもいて活気に満ちてた。
お客は思ってたより多いように感じたのは、売ってる人たちも同じだったんじゃないかな?
結構テンパッテル気がしたから。
俺はここへ来たけど、買っても料理できないしどうしようかとうろうろ…
トラックからレタス山盛りの大きな籠を持ってふらふらしてる人がいた。
体が勝手にそこへ向かって、籠の一方を持った。
「あ、ありがとう」
籠の向こうから女性の声がした。
「どこへ運ぶの?」
「あっちの売り場だよ。って誰?」
「あは、ある意味お客で野次馬かな?ふらふらしてたからつい手が出ちゃった」
「ふーん。ま、助かったわ。ありがと」
「他にやることある?」
「え?」
「俺、昔茨城の石岡ってところに住んでてさ、ネットでこのこと知って懐かしくって来ちゃったんだ」
「へぇええ、あたしも石岡だよ。今日来てる人たちも石岡や鉾田、千代田、小川、小見玉周辺なんだよ」
「手伝っていいかな?」
「もちろん!」
彼女はとびきりの笑顔で初対面の俺を遠慮なくこき使ってくれた。
だけどまだ寒いこの時期なのにすっかり汗かいて、それなのに生まれて初めてってくらい充実した時間だった。
日が暮れ始める頃には農協の人たちとも仲良くなってた。
「なに?真壁の分家か?」
「ずーっと末のほうだって聞いてます。しばらく行ってませんけど祖父母もまだ健在です」
俺の田舎もじいさんも知っている年配の人がいた。
「ぢかいうちに、ま~だくっから、そんときはまた手伝ってくれっぺ?」
「はい!」
俺は即答してた。そしたら例の彼女が俺を見てにっと笑ってくれた。
トラックを見送って取り残された俺の携帯が鳴った。
彼女からの連絡だった。
『あたし、次もいっしょに来るからよろしくね』
絵文字のにっこりマークが嬉しかった。
最初の開催場所のほか上野駅とかでも野菜市場をやってた。
大学もそんなに行かなくてもいい状態だったから、彼女達が来るたびに手伝いに行ったけど…
目的は茨城野菜売るのと同じ位…
あはは、正直に言うと彼女の笑顔やいっしょにいることのほうが大きくなってる。
「今度、道の駅でも青空市場やるんだ」
彼女の言葉に、俺思わず
「行ってもいいかな?ってか、行くよ」
って反応してた。
常磐線特急はまだ土浦までしか開通してない。
親を拝み倒して車を借りて石岡まで走った。
まだ支援車両が目立つ常磐自動車道を北上して、意外と東京から近かったのにちょっと驚いた。
インター降りてからじいさんの家に電話した。
「そっからならもうすぐだべ」
じいさんは心なし弾んだ声で道を教えてくれた。
電話を切ってすぐに彼女へ石岡到着を連絡送信。
速攻折り返しで返信が来た。
リダイヤルで彼女へ電話。
『着いたんだねぇ』
「うん。今夜からじいさんの所に泊まるから明日会える?」
『いいよー』
「どこがいいのかな?」
『ってわかんないでしょ?覚えてるところとかあるの?』
「あー、行ってみないとわんないかも」
『だよねぇ。あたしはどこでも大丈夫だから、明日電話してくれる?』
「了解」
心がわくわくする。
顔がゆるんでにやける。
考えてみればふたりっきりで会うのは始めてだしね。
って、これってデートだよなぁ…なんてわかりきったことでまた口元が…やべぇ
翌日昼前から石岡駅近くを歩いてみたら、結構見覚えのあるところが多くてびっくりした。
桜の花もあっという間に散ったらしい。
あっちこっちに歴史散策コースの案内をする看板が立っている。
若宮八幡神社の境内、公民館を右手に見てちょこっと歩くとそこに出た。
「学校だ」
俺が通っていた小学校。
校舎を正面に見て右手に陣屋門がある。
「なつかしいな」
近所に住んでた仲良しの友達と、そのおばあちゃんと毎朝のようにここにきてた。
理由は分からなかったけど拝んでたのを思い出した。
「さて、町へ戻るか」
携帯で彼女へ電話して駅で待ち合わせした。
【続】
あと1回(>_<)