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第88話 変化

「見つかって良かったです」


 エミリスはアティアスと2人、ミニーブルの城から帰りながら話す。


「そうだな。セリーナも引き渡したし、あとは向こうに任せるしかない」

「ですねー」

「ただ、黒幕がわかったわけじゃないし、これからの調査次第か……」


 セリーナをオースチンに引き渡し、現在彼女は地下牢に入れられている。

 あとはマッキンゼ卿の仕事だ。


「またアティアス様が狙われるんですかねぇ?」

「さあな……。でも、狙われてもエミーが守ってくれるんだろ?」

「ふふ、もちろんです。……ただ、それ相応のご褒美は欲しいですね」


 笑いながら彼女はアティアスの腕を抱く。

 そんな彼女の頭を撫でて、彼は答える。


「それで守ってくれるなら安いもんだ。……ああ、それにこれからはスイーツも好きなだけ食べることを許そう」


 その言葉に彼女は目を輝かせた。


「ええっ! 本当にですか⁉︎ 二言はないですよねっ‼︎ それなら、まずはこのまえ食べられなかったケーキか食べたいですっ」

「全く同じものは無理だけどな。……これから店にいくか?」

「はいっ! ありがとうございますっ」


 ◆


「んーーー! これ美味しすぎますー」


 宿の近くにあったカフェに入り、好きなだけケーキを注文して良いと言うと、彼女は「とりあえず全種類食べたいです」と、15種類あるケーキ全てをテーブルに並べた。

 ――その時の店員のお姉さんの引き攣る顔が忘れられない。


 アティアスはその中で気になったケーキを1つとコーヒーを飲みながら、そんな彼女を眺める。

 彼女の飲み物は、たっぷり砂糖を入れたミルクティーであり、それだけで胸焼けしそうにも思うが、気にならない様子だった。


「あっ、これもすっごく美味しいです! アティアス様、ひと口どうですか? ……はい、あーんしてくださいっ」


 そう言ってフォークに刺したケーキを突き出してくる。


「あ、ああ。もらおうか……」


 周りの視線を気にしつつ口を開けると、ぐいっとその口にケーキが突っ込まれる。


「ふふー、一度やってみたかったんですよこれ。どうですか?」


 はにかみながら彼女は笑う。

 城でセリーナと相対していた時とは別人のようだ。


 彼は口の中のケーキを飲み込んでから話す。


「はは、たまには良いけど、周りの視線がな……」

「あ……」


 急に恥ずかしくなったの、頬を赤らめて俯いた。

 そんな姿を見て、彼は素直に感想を溢す。


「……それにしても、さっきまでのエミーとは別人だな。相変わらず怖かったぞ」


 エミリスは一瞬きょとんとした表情を見せたが、すぐに普段通りに戻り、答えた。


「あれでもすっごく我慢したんですから。……化け物扱いされるし、正直泣き叫ぶまで痛めつけたかったくらいです。もし、アティアス様が刺された直後だったなら、絶対そうしてましたよ」

「そ、そうなのか……」

「はい。でも、セリーナさんの気持ちも分からなくはないですので。……私も彼女と同じで、ただ仕返しをしてるだけだなって思って」


 少し悲しそうな顔で彼女は吐露する。

 オスラムの復讐でセリーナはアティアスを刺した。その仕返しで今度はエミリスがセリーナを恨む。

 それの何が違うと言うのか。


「……そうだな。発端はどうあれ、仕返し合いしてるだけだから。……どこかで断ち切らないと。だから偉いぞ。……よく我慢してくれたな」

「ありがとうございます。……私はアティアス様が無事であれば、それで良いと思うことにしました」

「大人だな……」


 不意に呟いたアティアスに彼女は笑う。


「ふふ、忘れたんですか? 元々私のほうが歳上ですし?」

「……普段はそう見えないけどな」


 正直に答えると、彼女は頬を膨らませる。


「むむー、酷いです。子供扱いしないでくださいっ!」

「ははは、その方が可愛いから良いじゃないか」


 彼の不意打ちにその赤い目を丸くした彼女は、また頬を染める。


「……そ、そうですか?」


 先ほどからころころと変わる彼女の表情が面白く、可愛い。


「ああ、俺はエミーのそんなところが好きなんだ。話していて楽しいし、見てても面白いからな」

「そ、それは嬉しい……です。……仕方ないので、もうひと口ケーキあげますっ」


 照れながらそう言って、口に入るのかも疑わしい大きなケーキをフォークに突き刺し、アティアスに差し出した。


 ◆


「何度も来てもらって申し訳ない」


 マッキンゼ卿はアティアス達2人を前に、深く頭を下げた。その隣にはウィルセアも同席していた。

 セリーナを捕らえた翌日、マッキンゼ卿からの使者が2人のところに来て、改めて城に来て欲しいとの話だった。


「いえ、特にすることもないですから」


 アティアスはそう話すが、この一件が片付かないとミニーブルを離れるわけにもいかず、動けないというのが現状だった。


「昨日はセリーナを見つけていただいて感謝します。……それで本題ですが、誰がこの件を動かしているのかわかりました。……まあ、予想通りでしたが……」


 マッキンゼ卿が話すのを、アティアスは黙って聞く。


「セリーナの父親――つまり私の叔父の、ファモス・マッキンゼが主導しています」


 セリーナがマッキンゼ卿の従姉妹ということから、アティアスもある程度予想はしていたが、やはり……。

 ウィルセアが顔色を変えないということは、事前に聞かされていたのだろうか。


「そうでしたか。……それでそのファモス殿はどこに?」

「ファモスはミニーブルにはいません。今はダライの市長を務めています。そこからセリーナを通じて指示を出していたようです」


 ダライといえば、アティアス達が黒服の男達に襲われた街だ。

 そう考えると、そのような繋がりがあったのかもしれないと思えた。


「それで……このあとはどうするおつもりですか?」


 アティアスの質問に、マッキンゼ卿はしばらく考えてから答えた。


「正直に言うと、元々は私や父が悪いのです。魔導士を集め、力をつけて周りへと領地を広げようと、欲を出してきました。ファモスはそれを推し進めているだけなのです。……ただ、私は今あなた方と事を構えるのは自殺行為だと理解しています。それをファモスにもわかってもらいたいと思うのです」


 元々はマッキンゼ卿もオスラムをゼバーシュに派遣したりして強硬な政策を取っていたが、たまたまアティアスとエミリスの2人と知り合い、考えを改めた経緯がある。

 その2人と面識のないファモスが不満を持ち、そのままの路線で進めようとしていることは理解できた。


「……つまりどうすれば?」


 アティアスが聞くと、マッキンゼ卿は重い口を開く。


「可能なら……彼らに見せて欲しいのです。セリーナに見せたように……あなた方と戦うのは無駄だということを。無理なお願いだと言うことは承知していますが……」


 それはつまり、2人がその力の差を見せつけ、ファモス達の戦意を喪失させてほしいと、そういうことか。


「……だそうだ。エミー、できるか?」


 アティアスは隣に座る彼女に意見を聞くと、彼女ははっきりと答えた。


「もちろん……。アティアス様がそれをご希望ならば、必ず完遂してみせますよ」

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