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第83話 異臭

 順調にパーティは進行し、中盤に差し掛かる。

 大きな誕生日ケーキがカートに載せられて運ばれてきた。


 それを見たエミリスが顔を輝かせた。


「うっわー、あんな大きなケーキ初めて見ましたっ!」


 ケーキは2段になっており、苺が大量に使われたもので、普通ならここの全員のお腹をいっぱいにできるほどの大きさだった。苺は季節外れだが、温室で栽培されたのだろうか、かなり高価なことが予想される。


「……エミーなら、あれ1人で食べ切れるとか言うんじゃないか?」


 流石にそれはないだろうと思いながらもからかうと、彼女は真面目に考えながら答えた。


「うーん……どうでしょうか。半分は余裕だと思いますけど、全部は自信ないです……」

「それでも十分異常なお腹だけどな……」

「むむー」


 彼女は頬を膨らませた。


 ケーキには蝋燭が12本挿されている。つまり、今日ウィルセアは12歳になったのだ。


 周囲のカーテンが閉められ、蝋燭に火が灯されると辺りは静寂に包まれる。

 皆がその光景を見守っている。

 エミリスは近くで見ようと、アティアスを引きずって、ウィルセアの斜め後ろに位置した。


 そしてウィルセアが蝋燭の火を吹き消そうと、ケーキに顔を近づけた。


 ――そのとき、ふとエミリスが気付く。


 ケーキの甘い匂いに混じって、異質な匂いが混じっていることに。


 これは――!


 何も起こらないことを祈りつつ、慌てて全力で物理防御の壁を張り巡らせる。

 ダライでの爆発のあと改良し、より強固になったそれで、ウィルセアをもまとめて包み込むように。


 そのとき――


 物凄い轟音と共に、激しい爆発が辺りを包み込んだ。


 ◆


「な、何があったっ⁉︎」


 爆発が収まったあと、すぐに立ち上がったアティアスは、周囲を確認する。


 見ると、ケーキに仕込まれた爆弾が爆発したようだった。

 ただ、威力はそれほど大きくなかったようで、近くにいた3人以外は、爆風で転倒した程度の怪我のようだ。


 ケーキは跡形もない。

 その周りにウィルセアとエミリスが倒れていた。


「エミー、ウィルセア嬢、大丈夫かっ!」


 急いで2人に駆け寄ると、エミリスは頭を押さえながらも、すぐに起き上がった。


「……いったぁ」

「エミー!」


 その手を取り、立ち上がらせる。

 特に目立った怪我はなさそうだ。ドレスも、ざっと見たところ損傷はない。


「――ウィルセア!」


 顔面を蒼白にしたマッキンゼ卿が、娘に駆け寄る。彼女は気を失っているようだ。

 ウィルセアは父親に抱き起こされる。

 そのとき「うう……」と、うめき声が漏れた。

 

「大丈夫ですかっ⁉︎」


 エミリスも駆け寄る。

 ウィルセアは気を失ってはいるが、怪我はなさそうだ。

 至近距離で爆発を受けたのにも関わらず、無傷だった。


「大丈夫そうだ。しかし……まさかここで」


 マッキンゼ卿が呟く。

 エミリスは、ふぅ……と息を吐き吐露する。


「良かった……。何とか間に合って……」

「エミリス殿……もしや?」


 マッキンゼ卿の質問に、エミリスは素直に説明する。


「あ、はい。……爆弾に気付いたので、ウィルセアさんごと壁を張ったんです」

「そうか……。礼を言います。……ただ、この部屋では魔法は使えないはず」

「……たぶん普通ならそうなんでしょうね。けど、私にはさほど影響ないです」


 こともなげに答える彼女にマッキンゼ卿は驚きつつも、「それほどなのか……」と呟き、また娘に視線を落とした。


「エミー、よくやった。……褒めるぞ」

「ですよねっ!」


 アティアスが褒めると、エミリスは機嫌良く彼の腕にしがみついた。


「よく抑え込めたな。……と言うより、よく気付いたな」

「……なんか変な匂いが少しだけ漂っていて。それで、この前の爆弾と同じだって気付いたんです」


 その僅かな匂いに気付いたことに驚きつつも、彼女なら確かに、とも思う。


「相変わらず犬みたいだな。……でも助かった。後でケーキを好きなだけ食べさせてやろう」

「ええっ⁉︎ 言いましたね。私聞きましたよっ! 約束ですからねっ!」


 ◆


 爆発があったとき、ナターシャはノードと並んで、ウィルセアを見守っていた。


 皆はウィルセアを見ていたが、ノードは何気なくエミリスを見ていた。

 以前に旅をしていたときから、あれほど変わるとは……。エミリス自身は自分で変わっていないと思っていたが、ノードは彼女と顔を合わす度に、彼女の変わりように驚いていた。


 そのとき――それまで笑顔だった彼女が、急に真剣な顔を見せたのを、ノードは見逃さなかった。


 ――!


 咄嗟にナターシャの前に立つ。

 彼女が怪訝な顔をするが無視する。


 ――その瞬間、爆発が起こったのだ。


「ナターシャ! 大丈夫か⁉︎」

「……ええ。重いけどね」


 爆発が収まり、ノードが覆い被さるように組み敷くナターシャに声をかけると、皮肉の声が返ってきた。


「大丈夫そうだな。……良かったぜ」


 安堵して彼女の上から退く。

 ナターシャは周囲を見渡すと、ケーキの近くにいたアティアスとエミリスも起き上がっているので、心配なさそうだ。

 横に立ったノードに聞く。


「……何があったの?」

「たぶん、ケーキの中に爆弾が仕込まれてた。ウィルセア嬢を狙ったものだろ」


 あのときノードが自分の前に立ったのは、そのためか。

 それにしてもよく気付いたものね、と感心する。


「よくそんなのわかったわね……」

「はは、エミーが顔色変えたのが見えたからな。あれがあんな顔するなんて、何かあるに決まってる」

「そう……。あの子、本当凄いわね」

「俺も尊敬してるよ。あの距離で何ともないってのも、たぶん何かあるんだろ。……ほら、アティアスに褒められてるだろ?」


 その2人を見れば、ちょうどエミリスが頭を撫でられて笑顔を見せていた。


「ほんと仲良いわね。……ちょっと羨ましい」


 それを見たナターシャがぽつりと呟いた。


 ◆


「……約束ですからねっ!」


 エミリスがケーキの約束を取り付けたことを喜んでいたとき。

 いつも冷静な彼女にしては、少し気が緩んでしまっていた。


 だから2人の背後に近づく人物に、意識が向かなかった。


 ――その瞬間。


 勢いよく体当たりしてきた女と共に、アティアスか仰向けに倒れる。


「――――アティアス様っ!!」


 悲痛な叫びを上げるエミリスが見た彼の腹部には、深々とナイフが突き刺さっていた。

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