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第55話 魔人

「先生、お久しぶりです」


 翌日の午前中、二人は魔法学院に訪れ、ドーファンのところに行った。

 学院は夏休みで講義などはなく、教授は自分の研究に集中できる時期だ。生徒は実家に帰る者もいれば、学院で自主的に勉強している者もいて様々だ。


「アティアス殿、お久しぶりです。エミリス殿もよくいらっしゃいました」

「こんにちは、ドーファン先生」


 二人に挨拶するドーファンに対して、エミリスが頭を下げる。


「少しお噂は聞いておりますよ。ゼバーシュでの事件と……あと、ご結婚なされたとか。おめでとうございます」

「ありがとうございます。……どちらもこのエミリスが絡んでおりますね」


 笑いながらアティアスが振ると、エミリスは少し気恥ずかしそうに答える。


「お恥ずかしながら、このようなことに……」

「いえいえ、アティアス殿があなたと出会ったのも運命だったのでしょう。お幸せに……」

「……ありがとうございます」


 アティアスはドーファンに話しかける。


「今日は少し勉強したいことがあって寄ったんです。……それもこのエミリスに関係するかもしれないことですが……」

「なるほど、私にわかることであれば」

「ドーファン先生は、魔導士の祖先について何かご存知でしょうか。遺伝で魔力が受け継がれているということから、自然に生まれたものではないのでは……と考えました」

「ふむ……」


 ドーファンは考え込む。しばらくして、口を開いた。


「実は……先日、お二方が来られてから、私も少し調べていたのです。以前お見せいただいたエミリス殿の魔力について。……アティアス殿はこう考えたのでしょう? 彼女の魔力はその魔導士の祖先に近いのではと」

「……その通りです、先生」

「結論から言うと、推測でしかありませんが、少なくともエミリス殿は現在の魔導士の始祖達とは関係ないでしょう」


 アティアスはその言葉に違和感を覚えた。


「……始祖達、とは?」

「これもまだ研究されている途中なのですが、どうも魔導士には系統が複数あるようなのです。単純な魔力の強さなどではなく、扱える魔法の種類が異なります。この付近では同じような魔法を得意とする魔導士が多いですが、それが違う地域に行くと大きく異なるのです」


 その話にアティアスは疑問を口にする。


「それは教える人に得意な傾向があるからでは?」

「いえ、それも考えましたが、違う系統の魔導士には、教えてもできない魔法があるのです」

「……そういえば、先日ゼバーシュで出会った魔導士は雷を操る魔法を使っていましたが、私は見たことがありませんでした」


 エミリスがオスラムの使っていた魔法について言及する。


「雷などの魔法はこのあたりの魔導士では使えませんね。北の方の魔導士の技だと聞きます。……マッキンゼ領には多くいるようですが。いずれにしても、その魔導士の系統が、始祖達に由来しているのではと推測しています」

「なるほど……。始祖達とは何者なんでしょうか」

「詳しくはわかっていません。ただ、言い伝えとしては各地にわずかですが残っています。……はるか昔には、魔人と呼ばれる人に似た存在がいて、強い魔力と長い寿命を持っていたと。魔導士の始祖達は、その魔人に由来しているとの伝承です。……つまりは混血ですね」

「魔人……私は聞いたことがないです」


 初めて聞く言葉に、彼女が首を傾げる。


「そうでしょう。研究者の間でも存在が不確かなのです。ただ、アティアス殿が疑問に思われたように、今の魔導士を調べていくと、そのような存在がいないと辻褄が合わないのです」

「なかなか面白い話ですね」


 アティアスが深く頷く。


「さて、エミリス殿については少なくともそれらとはなんの繋がりもないでしょう。ただ、今の魔導士の系統から、急に貴女のような魔導士が産まれることも考えにくい。つまり――」


 ドーファンの次の言葉が気になり、エミリスがごくりと唾を飲む。


「……正直、分かりません」


 緊張して聞いていた彼女は、がっくりと肩透かしを喰らう。


「……つまり、私は謎人間なんですね。もしかしてそもそも人間じゃなかったりして……」


 彼女は冗談まじりにぼそっと呟く。


「まぁ待ってください。推測でならいくつか考えられます。ひとつは、その魔人がもし生き残っていれば、新たに始祖達と同様のことが起こることもあり得ますね。もしくは、私達も知らない系統が残っていて、近親間で血が濃いままに受け継がれている……そういう人里離れた里があるなどの可能性ですね。あとは……」


 ドーファンはそこでひとつ咳をして続ける。


「そもそもエミリス殿がその魔人である……と言う可能性もゼロではありません。私が考えたのはそのくらいです」

「なるほど……」


 アティアスも同意する。

 ただ、エミリスは出自が全くわからないので、これ以上は調べようがない。


「その雷の魔法を使っていた魔導士は、彼の祖先の始祖と思われる方と、私の特徴が似ていると話していました。その始祖は、鮮やかな緑の髪と赤い目をしていたと」


 エミリスが知っていることを話す。


「もしかすると、それは魔人の特徴なのかもしれませんね。いずれにしても、私の考えるどの場合でも、それと矛盾はしません」


 つまりどういう理由かはわからないが、彼女は魔導士の始祖達と似た存在だと考えられた。

 それ故にその由来となったと言われる魔人の特徴を色濃く受け継いでいるか、ということか。


「とは言え、そもそも魔人の存在が明確ではありませんので、そこをもう少し調べる必要がありますね。……私も時間のある時に伝承を当たってみますよ」

「ありがとうございます」


 彼女が頭を下げる。


「……と考えると、これも推測ですが……貴女の手の紋様は、強すぎる魔力を制限するのが目的なのかもしれませんね。子供の頃からあったということは、例えば何かの拍子に魔力が暴走してしまうのを防ぐためであるとか。とすると、身近な人……親や関連する人が施したと考えるのが自然ですね」


 彼女は自分の左手の甲にある紋様を眺める。

 あれ……?

 あまり気にしたことはなかったが、以前より少し薄くなっているようにも感じた。


「気のせいかもしれませんが、以前より色が薄くなったような……?」

「いつまでも続く魔法というのは不自然なので、徐々に効果が弱まっているのかもしれません」

「なるほど……」


 ドーファンに礼を言って二人は宿に戻ってきた。


「結局よくわからないけど、少し勉強になったな」

「そーですねー。まぁ、アティアス様をお守りできる力があるのであれば、私はあんまり気にはしないことにします」

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