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第251話 もしかして~?

「……今のは、俺も初めて見る魔法だな」


 アティアスは小さな声で驚きを口にする。

 魔法を防ぐという魔法はよく使われているし、アティアス自身も使うことができる。

 一般的に、剣などの直接攻撃を魔法で防ぐことは難しいものの、エミリスほどの使い手ならそれも可能だ。

 しかし、魔法をそっくりそのまま弾き返す、というのはこれまで見たことがなかったものだった。


 その驚きは声を上げたエミリスにとっても同様だったようで、難しい顔で目を瞬いた。


「ですねぇ……。びっくりです」


 木の陰に隠れたまま様子を伺っていると、魔法を使った女性――レシャーゼは、にんまりとした笑顔を浮かべたまま、倒れているディセンドに歩み寄る。

 そして、しゃがみ込んで男の懐に手を突っ込んだ。


「ふぅん……。さっきのこれか~。ナハト知ってる~?」


 そう言いながら、レシャーゼは手にした丸い宝石をナハトに向けて軽く放り投げた。

 ナハトは片手でそれを受け取りながら、特に驚いた様子もなく返す。


「そりゃ、な。何度も見覚えがあるぜ。……ただ、俺に聞くより、そっちのふたりに聞いたほうが詳しいぜ?」


「……んん?」


 レシャーゼはナハトの話に首を傾げながら、彼が顔を向けた森のほう――アティアス達が隠れている――に視線を向けた。


(さすがナハトだな……)


 アティアスは一瞬ドキッとしながらも、どうしようかとそのまま隠れていると、しばらくきょろきょろとしていたレシャーゼは、しかめっ面でナハトに向かって口を尖らせた。


「誰もいないよ~」


「いるって。ほら、その木のうしろ。……久しぶりだな、アティアス」


 ナハトに指差され、しかも名前まで呼ばれたのでは、これ以上隠れようもない。

 エミリスと顔を見合わせたあと、アティアスは木の陰から一歩踏み出した。


「……よくわかったな。まさかバレるとは思わなかったよ」


 最近は剣の腕が鈍っているとはいえ、それなりに気配は消していたはずだ。

 それにナハトがこの状況で周りにまで注意を払っていたことにも驚きだった。


「はは、傭兵なんぞやってりゃな。そうでなきゃもう命がなくなってるさ。……元気そうだな」


 軽く手を上げるナハトに、アティアスは同じように返しながら、ゆっくりと歩いて近づく。

 その後ろをエミリスもひょこひょこと続いた。

 ただ、ふたりとも必要以上には近づかず、少し離れたところで足を止める。


「ああ。もう5年ぶりくらいになるな。ナハトはずっと傭兵を続けてるのか?」


「そうだ。もうこういう生き方しかできないからな。しばらくこの辺りから離れてたんだが、最近こっちのほうで仕事が多いって聞いたもんでね。久しぶりに戻ってきたんだ」


「なるほどな……」


 その「仕事の話」に、アティアスが気にしている野盗が関係していることは容易に予想が付く。

 平和なところでは傭兵の仕事がないからだ。

 少し考え込む仕草を見せたアティアスに向かってナハトが尋ねる。


「アティアスこそどうしたんだ? こんなところで」


「ちょっと用事があってゼバーシュに行く途中なんだ」


「そうか。忙しいもんだな、ははっ」


 ナハトはそう言って軽く笑う。

 それまで二人が話している様子を近くに転がっていた岩に座って眺めていたレシャーゼが、左右に首を傾げながら尋ねた。


「ね~ね~。この人たち、ナハトの知り合い?」


「ん? ああ。だいぶ前に世話になったんだ。……こう見えて男爵様だからな、失礼なことすんなよ?」


「男爵……? へぇ~……」


 レシャーゼはアティアスとエミリスの顔を交互に見ながら、こめかみに指を当てて、何かを考え込むような仕草を見せる。

 そしてやおら「ポン」と手を叩くと、突然ビシッと指差した。


「あ、思い出した~。王宮で見たことある、この人たち~」


 そう言うなり、勢いよく立ち上がる。

 そんな彼女を見て、ナハトは意外そうに言った。


「そうだったのか。ま、確かにそれもあり得るか……」


「だいぶ昔だから忘れてた~。うんうん、なるほどなるほど……」


 レシャーゼは自分で言いながら納得した様子で、腕を組んでひとり頷いていた。

 アティアスは少し待ってからナハトに尋ねた。


「……なあ、ナハト。この子は誰なんだ?」


「ん、ああ。今はこいつと組んでてね。レシャーゼっていうんだ。まだ若いけど、実はちょっと前まで宮廷魔導士だったんだぜ?」


「宮廷魔導士? それはすごいな」


 それは素直にそう思えた。

 宮廷魔導士など、なろうと思ってなれるものではない。


 例えばこの近隣で最も優秀な魔導士を連れて行ったとしても、選考の土台に乗るかどうかというほどのエリートたちの集団だからだ。

 ただ、それは魔法の素質に遺伝的要素が強いという理由もある。そして、そのうえでしっかりとした教育が必要だ。


 そのため、魔導士が少ない辺境に突然優秀な魔導士が生まれたりはしない。

 結果的にエリート同士の両親から生まれた子が次の代を担うことになる。宮廷魔導士というものはそういう集まりでもあった。


 だからある意味、『元』宮廷魔導士というのは限りなく珍しい存在でもある。


「だろ? 俺もだいぶ経ってから知ったんだ。最初は腕が立つけど変なヤツだな、って思ってたんだけどな」


 レシャーゼは苦笑いするナハトを口を尖らせながらギロリと睨む。


「『変なヤツ』って、しつれー。……丸焼きにしちゃうよ?」


「待った待った。そりゃ勘弁してくれって」


 ナハトはそう弁明しつつも、それほど悪いとは思っていない口調で軽く手を振る。

 それを受けて、彼女は腰に手を当てたまま「ぶぅ」と小さく漏らしただけだった。


 その様子を見ていると、真偽はわからないものの、ある程度親しい仲であるようには思えた。

 アティアスはいったん間が空いたのを見て口を開く。


「せっかくだし、一応自己紹介くらいしとくよ。俺はアティアス。この近くのウメーユって街を中心に、女王様から領地を賜っている。で、こっちは妻のエミリス。よろしく」


「ん。アタシはレシャーゼ。……んん? ウメーユ? さっきコレがなんか言ってたような~?」


 腕を組んで考えながら、レシャーゼは気を失って足元に転がっている男――ディセンドをつま先でツンツンと小突いた。


「ん~、なんだったっけ……? あ、そうそう~。赤い目の~悪魔が~とか魔女が~とか、どうとかこうとか……」


 記憶を辿ってようやく思い出したのか、彼女はポンと手を叩いて満足そうに頷く。

 そのあと、アティアスの後ろに立っていたエミリスの顔をじっと見つめて首を傾げた。


「……んんん? もしかして~? あなたがその悪魔ちゃん~?」


 そう問いかけられたエミリスは、どう答えるべきかわからなくて、困った顔でアティアスの横顔を見上げた。

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