表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256/258

第250話 ――ええぇっ?

「さ、どこからでもかかってきな」


 改めて剣を構えなおしたナハトは、盗賊たちに向かって挑発するような口調で笑った。

 その言葉に腹を立てたのか、ディセンドは眉間に皺を寄せる。


「身包み剥ぐくらいで勘弁してやろうと思ってたが、馬鹿にしやがって! ――お前ら、切り刻んでやろうぜ」


「「おうっ!」」


 ディセンドの音頭に、仲間たちも声を合わせ、各々の武器を構えた。

 そして、ナハトを取り囲むように、じりじりと距離を詰める。


(さて……口調のわりに、案外冷静だな。どうすっかな……?)


 ナハトは集中しながら敵の隙を探る。

 一気に飛びかかってくれればやりやすかったのだが、こうして距離を詰められると人数の差が効いてくる。

 一瞬の判断ミスが命取りになりかねない。


 と――

 最初に、左端の男が動いた。

 みすぼらしい槍をナハトに向かって勢いよく突き出す。


「――おっと」


 ナハトは槍の軌跡から更に左側に回り込むように体を捻り、突き出された槍に剣を当てた。


 ――ガキン!


 その音が本格的な戦いの合図となった――


 ◆


「相変わらずナハトさん、良い腕してますねぇ……」


 一対多の戦い――普通ならばあっと言う間に勝負が決まりそうなのだが――を観戦しながら、のんびりとした口調でエミリスが頷く。

 その片方――ひとりで立ちまわっている剣士は、かつてエミリスも剣を教わった冒険者だということに、すぐに気づいていた。

 加勢に入ってもよかった。

 しかし、見ていてもその必要がないと思えるほどで、負けるようにはとても思えなかった。


「そうだな。ミリーも強いけど、ナハトはそれ以上だな」


「ですねぇ……。剣だととても敵う気がしませんし。……って、もう終わりそうですよ?」


 眺めているうちに、どんどん相手の数は減り、残りはひとりとなった。

 確か、ディセンドと呼ばれていた、リーダー各の男だ。


 顔には焦りからか、玉のような汗がにじんでいるが、それでも剣を巧みに操って、ナハトの剣を必死で躱している。

 そのこと自体が、それなりに腕の立つ証でもあった。

 とはいえ、こうも防戦一方では、もはや勝負がつくのも時間の問題だ。


「ちっ……!」


 ナハトの上段からの一太刀を何とか受け止めたディセンドは、舌打ちしながら後ろに飛んで距離を取る。

 追撃できる距離ではあったものの、ナハトは深追いせずにその場で構えなおした。


「……そろそろお縄になる覚悟はできたか?」


「ほざけ。俺には切り札があるって言っただろ?」


「ならさっさと使うんだな。じゃないと、このまま終わっちまうぜ?」


 挑発するような口ぶりでナハトが笑う。

 ここまで使わなかったことを考えると、そんな切り札など、ブラフ(はったり)に過ぎないと予想していた。


「後悔するなよ……?」


 しかし、ディセンドはナハトを睨みつけながら、片手を懐に入れる。


 そして――

 その瞬間、視界が真っ白に弾けた――


 ◆


「――なんだっ!?」


 アティアスは突然のことに、顔を手で覆いながら目を背ける。

 ただ、それだけだった。


「このくらいなら大丈夫です」


 聞きなれた声に目を開けると、自分を守るようにエミリスが立っていた。

 しかしまだ目が眩んでいて、はっきりとは見えない。


「なにがあった……?」


「よくわかりませんけど、たぶん魔法石かと。大した魔法は入ってなかったみたいですが……」


 恐らく雷系の魔法だったのだろうか。

 一瞬の閃光とともに、ナハトがいたあたりは焼けたように黒い煙が燻っていた。


「ナハトは……?」


 戦っていたナハトの姿は見えない。

 アティアスの問いに、エミリスは視線で指し示しながら答えた。


「あっちです。……あの魔導士の人が壁を張ったみたいです。あの一瞬で……なかなかやりますね」


 見ればレシャーゼとか言ったか、若い魔導士と共に、苦笑いするナハトが立っていた。

 彼は剣を構えなおし、ディセンドに向き直る。


「ちょっとビビったぜ、さっきのはよ」


 ディセンドは防がれたことが予想外だったのか、舌打ちしながら苦々しい声を上げる。


「ちっ! 運がいいヤツめ。だが、タマはまだまだあるんだ。どこまで躱せるかな……?」


 懐に手を入れたまま、ナハトたちを睨みつける。

 しかし、それに答えたのはナハトではなく、レシャーゼだった。


「痛い目に遭いたくないなら~、やめたほうが良いと思うけどね~」


 相変わらずのんびりとした口調だ。

 しかし、その目はディセンドをまっすぐに捉えていて、いつでも動けるような体勢を取っている。


「今さら止められるか! ――死ねッ!」


 ディセンドがもう一度叫ぶ。

 同時に、レシャーゼも声を上げた。


「――鏡よっ!」


 それはエミリスも見たことがない魔法だった。


 レシャーゼの声に呼応して、輝く壁のような光――ガラス張りのような――がレシャーゼとナハトを包む。

 その魔法は、一般的に良く使われている、魔法を防ぐ壁のようでいて、しかしそれとは異質なものに思えた。


 それが展開されるとほぼ同時に、ディセンドがもう一度放った雷の魔法が、その壁に当たった。


 そして――

 「キィン!」という甲高い音と共に魔法は弾かれ、そして術者であるディセンドを貫いた――


「――ええぇっ?」


 様子を見ていたエミリスが、珍しく驚いたような声を発したことがアティアスの耳に残る。

 その視線の先では、意識を失ったディセンドがゆっくりと倒れていくのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ