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第247話 盗賊騒ぎ

 アティアスたちが旅を切り上げてウメーユに戻ってから、予定通り数日間は疲れを癒すために町でゆっくりと過ごした。

 そして領主としての執務に復帰してから2カ月ほど――早くも冬が近づいてきたと感じるほど――が経った。


 ◆


「よっ、久しぶりだな」


 ウメーユの砦でウィルセアと共に執務を行っていたアティアスの前に顔を出したノードが、軽い調子で片手を上げた。

 エミリスはこの場におらず、お茶の準備をするために席を外している。


「ああ。久しぶりってほどでもないけどな。悪いな、テンセズまで視察に行ってもらって」


「別にいいさ。ちょっと見てくるくらいなんともない」


「そうか」


 アティアスが顔を上げると、ノードの妻であり、アティアス自身の姉でもあるナターシャが立っているのが目に入った。

 以前から冒険者として活動していたノードと比べ、最初の頃はナターシャの体力は高くはなかった。

 しかし、山を越えねば行けないテンセズに行くことも多く、それなりに体力が付いたように見えた。

 もとより、魔法を扱うこともでき、その技量も高くなっていた。


 そのナターシャが何か言いたそうにしているのを見て、アティアスは小さく首を動かして促す。


「……最近の噂なんだけど、どうもゼバーシュ領で盗賊が増えているみたいね」


「盗賊……ですか?」


 ウィルセアが聞き返す。

 ナターシャは彼女に向って続けた。


「そうなのよね。前よりずいぶんと減ったはずなのに。ここに来る前にウメーユのギルドに寄って聞いてみたら、まだそんな噂は来てなかったわ。でもテンセズはゼバーシュ領に近いし、あっちのギルドだと護衛の依頼が少しずつ増えてるみたい」


「うーん……。そんな話があったら、兄貴達が放っておかないと思うけどなぁ。どんな盗賊なのかとか、詳しくわからないのか?」


 テンセズにまで噂があるのであれば、ゼバーシュの領地内ではもっと噂が広がっているだろう。

 責任感のあるゼルム家の者――特に次兄のケイフィスなどは、真っ先に調査を始めていると考えた。


「そこまではわからないわ」


 ナターシャは大げさに両手を広げて、首を振った。

 ――と、そこにエミリスが機嫌良さそうに戻ってきた。自分の周りにふわふわとティーカップを浮かべたままに。


「はい、お茶が入りました。どうぞー」


 そのままティーカップは応接テーブルの上に滑るようにするすると移動し、最後に「カチャリ」とほんの小さな音を立てる。

 それを見届けてから、ソファに向かい合って座った。

 もちろん、アティアスを挟み込むよう、両側にエミリスとウィルセアを伴って。


「さんきゅ。もうだいぶ寒くなったなぁ」


 ノードは真っ先にカップへと手を伸ばし、手を温めるようにカップを摩る。


「ふふっ、私は暑いほうが苦手ですけれど。このところ過ごしやすくてありがたいです」


「エミーはそうだったな。ま、それに夏より今のほうが食べ物も美味いしな」


 そう言いながらノードが片目を瞑ると、エミリスは満足そうに頷く。


「ですですー。ついつい食べ過ぎてしまうんですよねぇ……。あっ、でもこの時期は果物が少ないのが残念です……」


「それは仕方ないな。っと、すまん。アティアス、さっきの話なんだけどな」


 話を戻したノードはそこまで言ってからひと口お茶を口に含む。

 その様子を見てからアティアスは小さく頷いた。


「気になるな。ゼバーシュでってことは、そのうちこっちにも来る可能性が高いだろう。困ったな……」


 悩む様子のアティアスの横顔を見たエミリスは、不思議そうに首を傾げながら尋ねた。


「んん? アティアス様、何かあったんです?」


「ああ。エミーがいない間に少し話をしたんだが、ゼバーシュで盗賊が増えているみたいなんだ」


「なるほど、盗賊……ですか。そういえば、先日の旅でも盗賊さんが出ましたね。それまでは盗賊に出会ったことってあんまりなかったんですけど」


 エミリスがこれまでの旅を思い返しながら答えると、アティアスは苦笑いを浮かべる。


「そうか? 海賊に襲われたこともあれば、人攫いの奴らに狙われたこともあったけどな」


 しかしエミリスは口を尖らせる。


「だから、『盗賊に』って言ったじゃないですか。盗賊以外はノーカウントですー」


「わかったわかった。――それはそれとして、まずはテンセズに警備を増強するよう伝える必要があるな」


 額をアティアスの肩にコツンとぶつけて笑うエミリスをいったんそのままにして、アティアスはノードとナターシャに視線を向ける。

 ただ、その返答を予想していたのか、ナターシャは満足そうに頷いた。


「ま、当然そう言うと思ったわよ。帰る前にコヴィーにはそう指示してきたわ」


 コヴィーはテンセズの現町長であり、若いが人望も厚い。

 なにより、以前マッキンゼ領からの侵略を凌いだことから、手腕も評価されていた。

 尤も、実質としてそれを防いだのはエミリスの手柄だが、あまり公にしたくなかったアティアスが町の住民にそのことを知らせていなかったため、ずっと伏せられたままだ。


 現領主婦人であるエミリスが強力な魔導士であることは周知の事実だが、その諍いの出来事とそれが結びついていない、と言うべきか。


「それは助かる。……ただ、待っているだけにもいかんだろう。すまんがノード、またしばらくここを頼むよ」


 それはノードにとっても予想外のことだったのか、呆れ顔と共に答えた。


「おいおい、相変わらずだな。ま、言っても聞かないんだろうから止めないけどな。……ふたりとも連れていくのか?」


「いや、今回はゼバーシュまでだ。数日ごとには帰るつもりだから、エミーと行くよ。――悪いけどウィルセア、ポチと留守番していてくれ」


 申し訳なさそうな顔でアティアスが言うと、ウィルセアは大きめに頷く。


「承知しました。話の通りなら、もしかするとウメーユにも現れるかもしれません。皆が抜けるのも危険だと思いますわ」


「そうだな。その点、ポチがいれば町の心配はないだろう。……じゃ、詳しい段取りは後にするとして、冷めないうちに飲むか」


「はい、そうですね」


 会話が途切れたところで、一同はお茶と共に並べられた大きめのロールケーキに手を伸ばした。

 お待たせしました。

 ようやく第16章開始ということで、前章の内容を回収する章になります。

 前章はプロット無しで書いてたのですが、それがかなりしんどくて。


 なので、今章は少し休んでプロットを考えてから書き始めました。(でも全部で何話くらいになるかは……?)

 恐らくこの物語の最終章になると思いますので、あと少しお付き合いください。

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