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第246話 旅の終わり

 荷物を持ってナックリンを出発したあと、すぐに来た道を引き返すと、程なくエルドニアへの玄関港となるフェルトンまで戻った。

 野営をすることも考えたが、事前に相談してあった通りに宿を確保することにした。


「順調ですね。宿も空いていましたし」


「そうだな。明日は早めに出発したいから、早く食べて寝ることにしようか」


「承知しました。お茶を淹れますね」


 エミリスはそう言って、宿の部屋に備えられた器具を使ってお茶を淹れ始める。

 食事のために宿から出ることも考えたが、少しでも早く寝てグリマルトを離れるほうが安心だろうと考え、宿に着く前に近くの店で軽く食べられるものを買ってきていた。

 アティアスはそれをテーブルに広げながら、お茶が入るのを待つ。


「明日、海に出れば安心できるだろう。残念ながら明日も天気は悪そうだが」


 窓から外に意識を向けると、外からパラパラと雨音が聞こえてくる。

 砂漠がちなグリマルトでは特に内陸の町では雨は珍しいが、ここフェルトンは海に面していることもあり、気候はゼバーシュとそう変わらない。

 多少、日差しと暑さが厳しいくらいか。

 とはいえ、徐々に秋になりつつある今と、真夏のゼバーシュを比較するならば、ゼバーシュのほうが暑いだろう。


「ふふ。濡れる訳でもないですし、むしろ雨のほうが目立ちません。ちょうど良かったかと」


 お茶をカップに淹れながら、エミリスは小さく笑う。

 連日の移動で疲れているだろうが、それを感じさせない笑顔だ。


「そうだな。さ、早く食べて今日は寝ることにしよう」


「はい。ではいただきます」


 淹れ終わったカップをアティアスの前に置くと、エミリスはその正面に向かい合って座り、フォークを手に取った。


 ◆


 その夜――


「……んー?」


 ふと、エミリスは違和感を覚えて目を覚ました。

 長時間体勢を変えずに飛んでいたことで、身体の節々が凝り固まっていて、できればゆっくりとベッドで横になっていたかったのだが、そうも言っていられずに身体を起こす。


 同じベッドのすぐ隣では、アティアスが小さな寝息を立てている。

 エミリスは彼を起こさないように気を遣いながらも、まだはっきりとしない頭を振って意識を覚醒させると、周りの様子を探った。

 部屋の中には小さなランプの火が揺らめいているだけだが、夜目の効く彼女には充分な明るさだ。


「…………むー」


 しかし、何も感じなかった。

 もちろん部屋の外の動きも確認したが、これといった動きはない。

 そもそも、自らの魔力で守られているこの部屋には誰も入っては来られないはずだ。

 力のある魔導士ならまた違うのかもしれないが、それでも無理矢理に入ろうとしたなら違和感どころではなく、即座に分かるだろう。


(……なんだったんだろ?)


 先ほどのゾクッとした感覚は、今はもう感じられない。


 疲れていて、寝ている間も緊張していたのかもしれない。

 そう思い、もう一度ゆっくりと体を横たえると、薄いシーツに包まった。

 そしてしばらくアティアスの横顔を眺めてから、そっと目を閉じた。


 ◆◆◆


 翌日まだ暗いうちに出発したふたりは、雨のなかゼバーシュへと出発した。

 幸い、雨は昼前には降り止んでくれた。

 途中で何度か休憩のために無人島へと立ち寄りつつも、夕方にはゼバーシュ側の港町ゾマリーノにたどり着いた。

 そのままそこで泊まることも考えたが、早く帰ったほうがいいだろうと、夕食を摂っただけですぐに夜の闇のなかウメーユに飛んだ。


 そして――


「おかえりなさいませ、アティアス様、エミリスさん。ご無事で何よりです」


 一度ウメーユの町の入り口に立ち寄り守衛へと戻ったことを告げたあと、まっすぐ自宅へと向かうと、アティアスが扉を開けるよりも早く、中から飛び出したウィルセアが深く頭を下げた。


「ああ。ただいま」


 アティアスは軽く手を上げると、ウィルセアが開けたままの扉から家の中に入る。

 そのすぐ後に、大荷物を背負ったエミリスが続くと、最後にウィルセアが鍵をかけた。


 どすん、と荷物を床に下したエミリスが肩を回してリラックスするのを待って、ウィルセアが改めて声をかけた。


「お疲れだったでしょう。お風呂の準備はできています。それとも食事になさいますか?」


 その口ぶりからして、ふたりがそろそろ帰ってくるだろうと予想して準備をしていたのだろうか。

 待っている間も、きっと家の中から外を見ていたのだろう。

 そのことを考えると、ゾマリーノに泊まらずに帰ってきてよかったと感じた。


 彼女の嬉しそうな顔つきと、それでも礼儀を失わない態度に感嘆しつつ、アティアスは手を伸ばして彼女の頬に手を添わせると、そっと額に口づけした。

 そして答える。


「ありがとう。先に風呂にする。食事は風呂のあとに軽いものだけ頼む。ゾマリーノで少し食べてきたからな」


「承知しました。それでは準備しておきますわ」


「悪いな。――エミ―、疲れたろ。背中を流そう」


「はーい」


 声をかけられたエミリスは軽い調子で返しながら、浴場に向かうアティアスの後ろをとことこと着いていく。

 一段落したことに肩の荷が下りて、足取りも軽く。


「やっぱり家が良いですね。落ち着きますー」


「今回はいろいろあったからな。本当ならもう少し旅を続けていたんだが」


「まぁ、仕方ありません。特に細かい予定も決めていませんでしたし」


 もともと南に行くことにはしていたものの、明確な目的がある旅ではなかった。

 アティアスがノードとふたりで旅をしていた頃は、冒険者として様々な依頼を受けたりしていたこともあったが、今はそれもなく自由ではある。


「数日は休むことにしようか。そのあとは一応、親父にも伝えておかないとな」


 今回のことは玄関口があるゼバーシュにも伝えておく必要があると感じていた。とはいえ、船で1週間程度かかることを考えると、そこまで急ぐ話でもないだろう。


「わかりました。まぁ、そのくらいならすぐですから、いつでも仰ってください」


「頼む。ま、荷物の整理をしてからだな」


「りょーかいです。――さ、早く早く」


 待ちきれない、という様子で浴場の前に立ったエミリスが先にするっとワンピースを落とすと、全く日焼けしていない真っ白な肌が露わになる。

 それを横目にアティアスも上着を脱いだ。


 ◆◆◆


【おわび】

 ちょっとずつ書き進めてはいたものの、多忙と大スランプ勃発でなかなか進みません。

 当然、まだ続きますので、気長にお待ちくださいm(_ _)m

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