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第245話 再びナックリンにて

 女王に謁見した翌朝、王都を出発して一度自領のウメーユに戻り、ウィルセアとはそこで別れた。

 そのあとすぐに、アティアスとエミリスのふたりは今回の旅と同じ道のりを、今度はゾリアーノまで一日で移動した。


 そして――

 海を越える前にゾリアーノで一泊した翌日の夜には、荷物を置いたままにしていたナックリンに戻ってきた。


「アティアス様はどう予想しますか?」


 ナックリンは、前回来た時と何も変わった感じはしなかった。

 その街を宿に向かって歩きながら、エミリスはふと横を歩くアティアスに尋ねた。


「どう、と言うと?」


「あのひと、『数日後また参ります』って言ってましたよね。あれから4日も経ってますから、一度は来ているんじゃないでしょうか」


「……だろうな。一度と言わないかもしれないがな」


 ナックリンでアティアスへと面会に来たバリバスは、アティアスが返事を保留すると、数日後に答えを聞きに来ると言っていた。

 それからは荷物を置いてはいたものの、宿をずっと留守にしていたのだ。

 できるだけ急いで戻ってきたのは、どんな状況になっているか不安の種でもあったからだ。

 不在の間に尋ねてきたことを想定して、時間稼ぎのための書状は書いておいたものの、それだけで本当に時間が稼げたかはわからない。


「ですねぇ……。とりあえず私の心配ごとは荷物が無事かどうか、ですけれど」


「正直、俺もよくわからん。ウィルセアとも話をしたように、面倒な事になりそうなら荷物は諦めることにするさ」


「残念ですけど、仕方ないですね」


 悪い予想通りにならないことを祈りつつ、早足で歩く。

 ウィルセアと別れる前にウメーユで相談したことは、まず前提として先方が兵を準備するなどして荷物の回収に支障が出そうなら、すかさず逃げを打つこと。

 幸い、大事にしている剣は飛行の邪魔になることを承知の上で、置き去りにせず身に付けていたから、どうしても無くなってしまうと困るという荷物は置いていなかった。


 そのほかに話したのは、もし話し合いになれば、女王と話したことを踏まえてアティアスへの要請――バリバスに手を貸すこと――については拒否し、エルドニアへと帰国する。

 そして、その話の内容をエレナ女王に伝えることまでだ。


 宿の近くまで歩いて来たとき、アティアスが足を止める。


「……どうだ、何かわかるか?」


「いえ、なにもなさそうです」


 アティアスの問いに、少しの間目を閉じたエミリスは小さく首を振った。

 彼女が「なにもない」と言うからには、例えば宿に兵士が詰めかけているなどはないということだ。

 まずは「ふぅ」とひとつ息を吐き、足をまた踏み出す。

 とはいえ、顔には出さないものの警戒は怠らないようにしながら、宿の受付に向かった。


「しばらく開けていてすまない。戻ったよ」


 何度か顔を合わせていた受付の男に声をかける。

 するとアティアスの顔を見てすぐに気づくと、預けていた部屋の鍵と封筒を1通、アティアスに手渡した。


「お帰りなさいませ。あと、書状を預かっております。どうぞ」


「……ありがとう」


 それらを受け取ったあと、ふたりで部屋に向かう。


「どんな内容でしょうかねぇ……」


「さぁな」


 早く確認したいという気持ちはあったが、それは部屋に戻ってからだ。

 借りている部屋に入り、ぐるっと見渡して出て行ったときと配置が変わっていないことを確認したあと、まずはテーブルに着いて書状を確認することにした。


「エミー、頼む」


「はい」


 アティアスが差し出した封筒にエミリスがさっと手を翳すと、差し出し主を表す家紋が押された赤い封蝋が「ジュッ」という小さな音を立てて蒸発する。

 見ても家紋が表す紋などわからないものの、アティアスに書状を出す可能性がある者などひとりしかあり得ないだろう。

 ふたりともそれを分かっていながら、中から手紙を取り出した。


 1枚だけ入っていた3つ折りの便箋を広げ、エミリスにも見えるようにテーブルに置く。

 内容はシンプルな文面だ。


『不在のようでしたのでまた日を改めて参ります。良い返事を期待しています。バリバス・トゥイン・アルフィリーザ』


「えっと、これだけですか?」


 思わず拍子抜けするような内容にエミリスは首を傾げた。

 以前話をしたときの雰囲気からして、もっと大事になることを想定していた。

 ウィルセアをウメーユに残したのもそのためだ。

 彼女がいると移動の邪魔になるということもあるが、それ以上に、もし戦いになるとしたら人数は少ないほうがいい。そう考えていた。


「みたいだな。……さて、どうするのがいいと思う?」


「んーと。できるだけ早めにこの街を離れるのが良いかと。先ほど寄ったフェルトンに戻って泊まるか、もしくはより安全に行くならば、その近くで野営でも構いませんけど」


「ふむ……」


 確かに今は夜とはいえ、明日の朝までこの街に留まるというのはリスクを伴う。

 いつバリバスがもう一度訪ねてくるかわからないのだから。

 彼女が言うように、夜通し馬を走らせねば辿り着けない距離があるフェルトンまで行ってしまえば、明日の朝までは安心できるだろう。


「もちろん、アティアス様のご判断にお任せします。もしこの街で泊まるとしても、私がおりますから」


 アティアスは少し考えてから返す。


「いや、エミーの言う通り、フェルトンに行くとしよう。ずっと飛んで疲れているだろうから、少しでもゆっくり休めるほうがいいと思う」


 今からもう一度飛んでもらうことには気が引けるが、しかし今は夜だ。

 明日の朝、明るくなってから移動しようとすると街の外まで歩かねばならないが、今なら宿からすぐに飛び立てる。

 それに明日海を越えてエルドニアに戻ることから、できるだけ近くに宿を取るほうが良いと考えた。


「承知しました。それではすぐに準備しましょう」


「ああ。宿には急用が入ったと伝えよう。幸い『書状のことで』と言っておけば言い訳にもなるだろう」


 逆に届いた書状を理由にして、ふたりはすぐに宿を出発することにした。

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