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第23話 学院

「美味しかったですー」


 チョコがたっぷり載っていた最後のデザートまで食べ終え、帰路についた彼女は満足そうだった。

 最初は緊張していたが、レストランにもすぐに慣れて、料理を堪能することができたようだった。


「それは良かった。いい経験になっただろ?」

「はい。ありがとうございました」

「それにしても、思ってたより似合っていたよ。もうそのまま伯爵令嬢としても務まりそうだな」


 アティアスが褒める。

 お世辞かもしれないが素直に喜んでおくことにした。ただ、彼女は少し複雑な顔を見せる。


「ありがとうございます。……でも私はアティアス様と旅をしている方が良いですけど」


 本心を伝えると、アティアスは苦笑いして答える。


「俺だってその方が良いよ。ま、親父に軽く挨拶したらさっさと次の旅に行こう」

「はい!」


 アティアスの言葉にエミリスは頷いた。


 ◆


「ふー」


 宿に帰るとドレスを脱ぎ、普段着に戻った。

 質素な服だが着慣れていて落ち着く。ドレスは綺麗だが、お腹が締め付けられて少し苦しかった。


 レストランでの食事は美味しかった。

 ただ心残りだったのは、食事の量が少し少なかったことと、アティアス達が美味しそうに飲んでいたワインが飲めなかったことだった。

 人前では飲みたくないが、飲めないとなぜか飲みたくなってしまう。


「エミー、ちょっと良いか?」


 ドアがノックされ、掛けられた声を聞いたエミリスの顔に、ぱっと笑顔が浮かぶ。


「はいっ、どうぞ」


 すぐに扉が開き、アティアスが部屋に入ってきた。

 その手にはワインの瓶とグラスを持っている。ご丁寧につまみになるものまで。


「さっき飲みたそうにしてたから、持ってきたよ」


 ……マッサージの時にも感じたが、なんでこの人は私の考えが読めるのかと、不思議に思う。

 顔に出していたつもりはなかったのだけど。


「ありがとうございます。……でも、このあとどうなっても私責任持てませんよ?」


 そしてそれは自分への言葉でもある。


「それはもう十分に分かってるよ」


 気楽に答えるアティアスは、手早くコルクを抜き、グラスにワインを注いだ。


 ◆


 早朝、まだ薄暗い時間にエミリスは目を覚ました。


 すぐ横でアティアスが寝ているのが目に入る。

 そしてテーブルには、空になったワインの瓶と2つのグラスが残されていた。


 食後だったのが良かったのか、二日酔いの頭痛などはない。

 しかし、良いのか悪いのか分からないが、昨晩の記憶は残っていなかった。


 ただ、あまりに予想通りすぎるこの状況に苦笑いする。

 どうせ酔っ払った自分が彼におねだりして、ベッドに引き摺り込んだのだろう。


 ……でも、もう今更気にしても仕方ない。


 そう思って、今度は自分の意思で彼の胸に顔を埋めて二度寝することにした。


 ◆


「魔法学院ってゼバーシュ領ではここだけなんですよね?」


 翌日、朝食を食べ終えたあと、二人で魔法学院に向かいながらアティアスに聞く。

 ノードは「エミーがいるなら心配ないだろ、俺は馴染みの友達に会ってくる」と言って、今日は別行動をしていた。


「そうだ。ゼバーシュの兵士になる魔導士は、一人前になるまでここで学ぶことになってるんだ」

「ふむふむ。先生はどんな方なんです?」

「魔導士として兵士を勤めたあと、引退した人が多いかな。研究者的な人もいれば、戦いが得意な人もいてバラバラだな」


 アティアスが説明を続ける。


「ドーファン先生も元々は兵士だからね。……それで、ここを卒業したらそれぞれの町に配属されるんだ。学費は要らないんだけど、卒業したら兵士として最低3年は勤めないといけない」

「なるほど。……兵士のうち魔導士って、どのくらい居るんですか?」

「全体の中で言えばせいぜい1割だな。正規の兵士が2千人くらいいるから、200人ってところかな」

「結構少ないんですね……」


 もっと魔導士は多いのかと思ってたのだが、それだけ少なかったとは驚きだった。


「トーレスのように辞めて冒険者になる人もいるからな。聞き忘れたけど、たぶん彼もこの学院で学んでるはずだよ」

「へー。どんなところか楽しみです。……あ、生徒って何人くらい居るんでしょうか?」


 彼女はわくわくした顔を見せながら、気になることの質問を続ける。


「正確な数はわからないけど、先生が10人ちょっと。生徒は100人くらいじゃないかな」

「ええっ! たったそれだけなんですか?」


 その数の少なさに驚いたエミリスが確認する。


「そう、生まれ持った素養が無いとここに入学もできない。それでも、ちゃんと魔導士に成れるのは半分以下なんだよ」


 魔導士は兵士の中でもエリートであり、できればその数を増やしたい。

 しかし、なかなか増やせられない事情もあった。

 魔導士同士で結婚することが大半で、遺伝で素養が引き継がれるということもあり、どうしても数が増えにくいのだ。


「そんなものなんですね。……え、じゃあ私が魔法使えるのって、かなり少数派なんでしょうか?」


 自分で意識したことが無かったのだが、疑問に思う。


「ああ、素養があること自体少ないからな。それにエミーが検査した結果見たとき、明かりを灯す魔法くらいがせいぜいだと思ってたんだけどな」


 彼はその時のことを思い出し、素直に話した。


「そうだったんですね……。でも魔法が使えて良かったです。便利ですし」

「そうだな。助かってるよ。……見えてきたぞ、あそこだよ」

 

 アティアスが指差す方向に、大きな建物が見えてきていた。


「うわ、大きいですね……」


 学院を見てエミリスは感嘆した。

 広大な敷地に、城のように塔を幾つも持つ石造りの建物が建っていた。敷地のなかには練習場になっているだろう広い広場や、壁で区切られた闘技場のような場所がいくつもあった。


「魔導士の育成には力を入れているからね」

「ここにたった100人しか生徒がいないんですね……」


 彼女は呟く。

 こんな場所でどのような教育が行われているのか。

 外からは、数名が広場で何か練習を行っている光景が少し窺い知れるだけだった。


「基本的に魔法の練習は室内で行うことが多いからね。エミーもわかるだろ?」

「はい」


 彼女もこの2か月間トーレスから魔法を教わったが、その多くが室内で魔力の扱い方を練習することだった。


「とはいえ、兵士としてやっていくためには実戦で戦える必要があるから、ある程度魔法が扱えるようになったら外で剣士達とも模擬試合をするんだ。それは午後からが多いかな」

「剣士の方は生徒ではないんですよね?」

「そうだな。生徒ではないけど、兵士が交代で学院に来て魔導士相手に戦う練習をしているんだ。つまり魔導士も剣士も、それぞれ練習になる」

「なるほどです」


 エミリスは頷く。確かに合理的なやり方だ。


「あとでそれも見学してみようか。……それじゃ中に入ろう」

「はい!」

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