第200話 ルドルフとの面会
「どうしたんだ、急に……」
突然のアティアスたちの訪問に、ルドルフは意外そうな顔を見せた。
現在来ているのは、ゼバーシュの城のルドルフの私室だった。
ルドルフは、次代のレギウスに執務の大半を任せるようになり、執務室にはあまり顔を出さないようにしているらしい。
それはレギウスよりも若いアティアスが独り立ちし、領地の運営をするようになったこともきっかけのひとつらしかった。
「すまない、少し込み入った話でね」
「なんだ。相変わらず何か問題抱えてるのか。まぁ、話くらい聞いてあげるよ」
「俺の問題なのかどうかも、良くわからないんだけどな……」
そう言いながらアティアスは、ダリアン侯爵のところに届けられた魔法石の話をした。
途中、証拠としてウィルセアが持っていた魔法石を見せつつ。
話を聞き終わったルドルフは、しばらく黙って考えてから、答えた。
「……なるほど。まず、可能性としてだけなら、その魔法石を持って行ったのがゼバーシュの者ではないってこともあり得るね。例えば、こうしてお前が調査に乗り出すことを見越して」
「まさか……。確かにあり得なくはないが……」
アティアスは息を飲む。
しかし、ルドルフの言うこともあり得なくはないと思った。
使者が何者かはわからないが、「ゼバーシュから来た」と告げれば、今アティアス達がここに来ているように、調査に乗り出すことが想定できた。
(いや、しかし……)
ダリアン侯爵がアティアスのところに来たのは偶然だ。
たまたま息子のジェインがウィルセアに目を付けたからで、それがなければウメーユに来ることはなかっただろう。
そう考えると、少なくともアティアスが動くことを想定したものではないと思えた。
「……俺のところにダリアン侯爵が来たのは偶然だよ。魔法石があったから来たわけじゃないからな」
「ふむ……。確かにね。ただ、例えばマッキンゼ領の者が持っていって、『ゼバーシュが協定を破った』と言いがかりをつけるのには使えるかもしれないがね」
ゼバーシュ領とマッキンゼ領は、魔法石を他に流出させないことを協定としている。
それを自ら破るようなことをして、しかも身分を謀って相手にそれをなすりつける。話としてはあり得ないことではないが。
「領主に黙って誰かがそれをしたとしても、ヴィゴール殿が動くとは思えないが」
「そうだね。もしうちと争いになったとしたら、君たちが動くだろう? そう考えると、それはないと私も思うよ」
話を横で聞いていたウィルセアは、ほっと安堵の表情を顔に浮かべた。
自分も半分マッキンゼ家を出てしまっているとはいえ、できればそういう問題が起こってほしくなかった。
「……ほぼ間違いなく、うちの中の者だろうね。さっきの話は悪かったね。ウィルセア嬢」
ルドルフがそう続けながら、ウィルセアに顔を向けた。
「ご心配は無用ですわ。そのくらいの心構えがないと務まりません」
「あなたは良く教育されているみたいだね。物事を考えるときは、可能性が低いものから考えて、それをゼロに切り捨てていかないといけない。それで何が残るかをね」
「……はい。ありがとうございます」
ルドルフはアティアスに向き合う。
「さて。……今ゼバーシュで、全ての魔法石を管理しているのは、魔導士部隊だよ。魔法石自体は魔導士じゃなくても使えるけど、使ったあと魔法を込めることはできないからね。……その意味がわかるだろう?」
「……ええ」
アティアスは真剣な顔で頷く。
つまり、ゼバーシュの中で魔法石を持ち出せるのは、その部隊に所属する者だけだということだ。
なによりも――。
「聞くところによると、使者を寄越したということだから、ある程度部下に命令できる立場なんだろうね。そんな人間は部隊にそう多くはいないよ。ま、普通に考えたら部隊長……ってことになるけれど」
「……トリックス兄さん」
今の魔導士部隊の部隊長を務めているのは、アティアスの兄のトリックスだ。
そして、魔法石を開発したセリーナの夫でもある。
「ただ、どうかな? トリックスは頭がいい。こんなことをしたら真っ先に疑われることくらい、わかるはずだよ」
確かにそれはもっともな話だ。
厳重に管理されている魔法石などを持ち出せば、管理者のトップである自分が疑われることくらい、誰でもわかるだろう。
「となると、兄さんが疑われるように仕向けている……と言う可能性もあるのか」
「そうだね。……ま、結論としては、今までの話だけじゃわからないってことだね。……アティアスはこれからどうするつもりだい?」
ルドルフは大きく息を吐いてから、アティアスに尋ねた。
「そうだな……。その前にひとつ聞きたいんだけど。先月、俺たちがゼバーシュに来たとき、宿で襲撃された事件についての話は聞いてる?」
「ああ。少しだけだけどね」
「兵士には伝えてなかったけど、それも魔法石が使われた可能性が高いんだ」
アティアスの話に、ルドルフは眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「う……む……。……それを使ったのが、魔導士かどうかってのは……わかるわけないか」
ルドルフの独り言のような質問に、アティアスは首を振る。
しかし――。
「えっと、魔導士でしたよ。それは間違いないです」
それまで黙って座っていたエミリスが、自信を持って答えた。
ついに200話到達!
皆さんありがとうございますm(_ _)m




