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第199話 再びゼバーシュへ

「ふー、ただいまですー」


 エミリスに運んでもらって、夕方にはゼバーシュの家に到着した。

 まずはしばらく滞在することを想定して、家の掃除と食材の買い出しを済ませた。

 といっても、前回は1ヶ月ほど前のことであって、そのときに掃除をしていたから、まだそれほど埃も溜まっていなった。


「お城には明日ですか?」


 ウィルセアが確認すると、アティアスは頷く。


「ああ、明日セリーナに話を聞きたいが、先に親父には話を通しておきたい。たぶん、親父も知らない話だと思うから」

「確かにそうですわね……」


 ゼバーシュからの使者がダリアン侯爵に接触しているということを、アティアスの父であるルドルフが知っているならば、もっと大事になっているはず。

 その場合、少なくとも何らかの情報がアティアスに届けられているはずだからだ。

 それがないということは、領主であるルドルフにも隠されていることだと推測された。もっとも、その命令を出したのがルドルフでなければの話だが、アティアスはその可能性はないと考えていた。


 そして、アティアスがそれを調査するために動いていることを、ルドルフにも話しておかなければ筋が通らない。本来、ゼバーシュ内での話だからだ。

 たまたまダリアン侯爵がウメーユに来たことが、発覚した発端ではあるけれども。


「問題は……前回俺たちが襲われたのが、それと関係あるかどうかだ。魔法石が使われているって共通点はあるけど、全く関係がないかもしれないし、関係あるかもしれない。……でも、わからない以上は慎重に動くしかない」

「はい、わかりました」


 ウィルセアはアティアスの話に深く頷く。


「ダリアン侯爵に協力を依頼……ってのが何を意味するのかわからないけれど、このあと何か計画されてるってことだからな」


 無論、ダリアン侯爵に詳細を確認したのだが、使者も詳細は語らなかったそうだ。

 もしかすると、使者本人にも知らされていなかったのかもしれない。


 そのとき、不意にエミリスが軽い調子で口を挟んだ。


「んー、まさかセリーナさんが黒幕ってことはないですよねぇ……?」


 それを聞いて、はっとした様子でウィルセアが息を飲む。


「え……。まさか……」


 言われるまで全く想像もしていなかったが、可能性としてゼロではないことに気がつく。

 何よりも、彼女は魔法石を開発した本人でもあり、今やゼルム家の一員でもある。


「それは……どうだろうな。可能性は排除しないけれど。そんなことしてメリットがあるか?」

「え? そうですか? セリーナさんが結婚されたのはトリックスさんですよね? うまくやってお兄さんふたりがいなくなったら、次の伯爵ですよ?」


 悪気はないのだろうが、エミリスはずばっと答えた。

 昨年の暗殺事件の時も、アティアスとともに同じような考察を考えていことを思い出したのだ。

 あの時は結局身内の犯行でなく、マッキンゼ領からの刺客が起こした事件だったのだが……。


(……いや、確かにあのときの刺客――オスラムの恋人だったのがセリーナだったな……)


 関係あるかどうかはともかくとして、なんとなく繋がりがあるような気がしてしまう。


「確かにな……。と、いうことは、セリーナに聞くのは危険なのか……?」

「かもしれませんけど……。うーん……どうでしょうかねぇ? 黒幕なら、正しい鑑定をしないかもしれませんよね。そうじゃなかったら、それはないと思いますけど。……でも、会いに行っても不自然な対応はしないと思いますよ。……私がいますからね。ふふ……」


 そう言ってエミリスは不敵な笑みを浮かべた。

 彼女が時折見せる魔女のような表情は、人によっては腰が抜けるほど怖いものだが、アティアス達はもう慣れたものだ。


「ただ、俺たちが調べてることはバレてしまうわけか。それはあまり都合が良くないな」

「ですねぇ……。そのほうが手っ取り早いかもしれませんけど。でも、動くのをやめてしまう可能性はありますね」


 アティアスが勘付いていることがわかれば、早いうちになんとかしようと試みるか。

 それとも、エミリスの力が強大すぎるが故に、計画そのものをしばらく様子見してしまうかもしれない。

 それは、黒幕がセリーナ以外の場合でも同じことが言える。


「……まずは親父にだけ相談するか。その上で対処方法を決めよう。あまり目立つ行動も良くなさそうだ」

「私もそれがいいと思いますわ。……セリーナさんを疑いたくはないですが、かといって前例もありますから……」


 セリーナはウィルセアを爆弾で吹き飛ばそうとしたうえに、アティアスを刺した過去がある。

 あのあと許したとはいえ、そのセリーナと、アティアスたちのどちらを信用するかと言われれば、どう考えても後者でしかあり得なかった。


「まぁ、そう決まったわけでもないし、あくまで可能性のひとつだよ。ただ、そういう可能性もあるって考えて動かないといけないのはその通りだ。……エミー、偉いぞ」


 アティアスに礼を言われて、エミリスは先ほどまでの表情を緩めて、嬉しそうにはにかんだ。


「えへへ、嬉しいですー」


 その頭を撫でながら、アティアスは続けた。


「よし、それじゃ今日はこのくらいにして、夕食にするか」

「はーい。しばらく葡萄が多かったので、今日は肉にしようと思いますー」


 そう言いながら、エミリスは機嫌よく厨房に入っていった。

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