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第198話 気をつけてくださいね?

「――さて、無事収穫祭も終わった訳なんだが」


 収穫祭の翌日、執務室にていつものアティアス達3人と、今日はノードとナターシャも集まっていた。

 ポチも床でくつろいでいる。


 来賓で来られていたエレナ女王をはじめ、ダリアン侯爵、ヴィゴールたち皆、今朝このウメーユを発っていた。元来、多忙な状況でここまで足を運んでいたからだ。

 昨晩、ウメーユに戻ってきていたミリーがエレナ女王に面会したときは、感動して泣いていたのが印象深く残っていた。


「年末までしばらく大きなイベントもないし、かなり楽になると思う。まぁ、近々あるのはウィルセアの誕生日パーティくらいかな」


 アティアスの話にウィルセアが困った顔を見せた。


「私はここの令嬢というわけでもありませんし、そんなのは不要ですわ」

「そうは言ってもな……」

「それよりも、早く魔法石の出所を探さないと……と思います」


 ウィルセアの言うことももっともだ。

 それが片付かないと、落ち着くことはできなさそうだった。 


「そうだな……。今はそれが最優先か」


 アティアスは引き出しに仕舞っていた、ダリアン侯爵から回収した魔法石を取り出す。


「ウィルセア。この魔法石って、色々種類あるんだよな? わかったりするのか?」


 気になっていたのは、初期の頃の魔法石と、セリーナが改良した現在のものは異なっているということだ。

 アティアスが知っている最新のものは、複数人で同時に使うことで、更に強力な魔法を使うことができるというものだった。

 この手元の魔法石がどちらのものなのかは、見てもわからなかった。


「いえ……。私は詳しくありませんので。ただ、セリーナさんに聞けばすぐわかるのではないかと」

「確かにそうか。作った本人だからな。……ゼバーシュに行くか」

「ええ。いずれにしても、出所がゼバーシュなら、行かないと話が進まないように思いますし」

「そうだな……。――ノード、しばらくここを頼めるか?」


 アティアスがノードに顔を向けて尋ねる。


「別に構わないぜ。大きな案件はしばらくないだろうし。なぁ、ナタ」

「ええ、良いわよ」


 ノードと共に、ナターシャも頷く。


「すまないな。あと、ついでにこいつの世話も頼むよ」


 大きなあくびをするポチを見ながら、アティアスが言うと、ノードは苦笑いした。


「良いけどよ。噛まないよな? こいつ……」

「大丈夫だろ、ほらポチ」


 アティアスが声をかけると、ポチは「バウ!」と返事をして、ノードの足元に行くと、その前で礼儀正しく座った。


「わかったよ。頼むな」

「バウ!」


 ノードが頭を撫でると、ポチは元気よく挨拶をした。


 ◆


「ゼバーシュに直行で良いですか?」


 3人は一度家に帰って出発の準備をしたあと、エミリスが聞く。


「ああ。まずは早々にセリーナに聞きたいからな」

「わかりました。それじゃ、ぴゅーんと行っちゃいますね」

「頼んだよ」

「はーい」


 そして自宅を歩いて出発する。

 流石に真昼間に、堂々と町の中から飛んで行くわけにはいかない。


 歩きながらウィルセアが確認する。


「今回は何日くらいになりそうですか?」

「そうだな。まだわからないが、場合によってはちょっと長くなるかもしれないな」


 アティアスとしては、できればこの機会に問題をすべて解決しておきたいと考えていた。

 ウメーユにずっと居れば自分たちが襲撃されることはないかもしれない。しかし、それでは問題を先送りするだけだ。

 なにより、ゼバーシュの何者かが、ダリアン侯爵に協力を依頼しているということが気掛かりだった。

 今のアティアスはゼバーシュと関わりのない立場ではあるが、それでも自分の生まれ故郷で騒動の種が燻っていることは放置しておけなかった。


「わかりました。……あ、そうですわ。この魔法石はまだ使えそうですし、エミリスさん、何か魔法を入れておいてもらえますか?」


 ウィルセアはそう言って、アティアスから預かっていた魔法石を、エミリスに手渡した。


「えっと、どうやって入れたら……?」

「簡単ですわ。魔法の照準を魔法石の真ん中くらいにして、放つだけです。……エミリスさんの魔法なら、やりすぎると壊れてしまうかもしれませんので、抑えてお願いしますね」

「やってみますー」


 エミリスは言われた通りに魔力を練って、手に持つ魔法石に目掛けて雷撃魔法を放った。


 一瞬――。

 白く周囲が光ったように見えたが、すぐに収束して魔法石に魔力が吸い込まれる。


「入りましたね。どのくらいの威力ですか?」

「んー? たぶん、普通の魔導士の5人分くらいじゃないかなと。使うときは気をつけてくださいね?」


 軽く言いながら、エミリスはウィルセアに魔法石をひとつ返した。

 そして、もうひとつの魔法石にも、同じように魔法を込める。そちらは爆裂魔法だ。


「ウィルセアさんが持っておいてください。護身用です。……小さな砦くらいなら吹き飛んじゃうくらいの威力があるので、自分の近くに放たないでくださいね。自爆になっちゃいますから」

「は、はい……」


 その魔法石も受け取ったウィルセアは、使いどころがないことを祈って、懐に仕舞った。

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