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第197話 大食い大会

「どんな調子だ?」


 ちょうどアティアスたちが町を巡回しているとき、ばったり会ったノードに話しかけた。


「今のところ異常はないよ。……俺は初めてだけど、すげーな。ここにこれだけ人が来るのか」

「そうだな。俺も去年初めて来たけど、驚いたよ」


 ノードが感嘆するのもわかる。

 テンセズよりは大きいとはいえ、ゼバーシュなどと比べると、人口の多い町ではない。

 町の広さ自体は、畑が多いからかなりあるのだが。


「アティアスの方は?」


 ノードと一緒にいたナターシャが返す。

 気になるのか、彼女の視線は同行しているエレナ女王に向いていた。


「はは。エミーがいるからな。爆弾が降ってきても大丈夫だよ。……なあ?」

「ええ、ご心配なく。ナターシャさんはお祭りを楽しんでもらえればと」

「ありがとう、そうするわ。前から収穫祭には来てみたいって思ってたから。……ところで、アティアスは女王陛下とは顔合わせたことがあったのよね?」


 ノードとナターシャにはエレナ女王のことは詳しく話していなかったが、もちろん王都での叙爵の際に、顔を合わせていることくらいは知っていた。


「ああ。去年王都に行ったときにな。……エレナ女王、こちらが私の姉のナターシャです」

「ナターシャでございます」


 アティアスがエレナ女王に向かって、ナターシャを紹介すると、ナターシャも挨拶をしながら深く頭を下げた。

 その様子を見ていたエレナ女王は、笑顔で応える。


「はじめまして、エレナよ。よろしくね」

「は、はい! よろしくお願いします」

「また今度ゆっくりお話ししましょうね。アティアスさんの子供の頃の話とか、聞かせてほしいわ」

「ええ。……とはいえ、アティアスはあまり城に居ませんでしたから、私から話できることはあまり……。ですが、夫のノードが詳しいので、代わりにこちらから……」


 そう言ってナターシャはノードに振った。


「それは楽しみね。それじゃ、また」

「ありがとうございます」


 ノード達と別れたアティアス達は、一通り町の様子を見て回ったあと、広場に戻ってきた。

 祭りのイベントは概ねこの広場で行われる。

 ちょうど今はクイズ大会が行われているようだった。


「……ん?」


 ふいにエミリスが何かに気づいたようで、首を傾げて小さな声を出した。


「どうした?」

「あ、いえ。トーレスさんの魔力を感じたので、戻ってこられてるんだなって」

「そうか。ありがとう」


 トーレスたちに引き続き調査を依頼していたのだが、それがひと段落したのか、それとも祭りのために一時的に戻ってきているのか。

 それはわからなかったが、昨日のダリアン侯爵の話からすると、マッキンゼ領の調査は無駄かもしれないと思っていたから、戻ってきているのであれば好都合だ。

 恐らくあとで状況の報告があるだろう。


「エレナ女王、このあとどうされますか?」


 アティアスが聞くと、エレナ女王は少し首を傾げて考えてから、答えた。


「そうねぇ……。とりあえず、この辺りで座って、葡萄でも食べながら見学しようかと思うわ。大食い大会はまだ後なんでしょう?」

「ええ、大食い大会は午後ですから。それでは……」


 アティアスが近くの兵士に指示すると、すぐに簡易的なテントと椅子が準備される。

 そこに座って、広場でのイベントを見学することにした。


 それを知った町の人たちから、葡萄そのものだけではなく、葡萄で作られた食べ物やワイン、ジュースなどが机いっぱいに届けられる。

 それを皆で食べながら、収穫祭の進行を眺めていた。


 ◆


「えっと、勝っちゃっても良いんですよね?」


 もう少しで大食い大会が始まるとのアナウンスがあり、エミリスは念のためアティアスに確認する。


「別に構わないぞ。優勝者は確かワイン赤白1箱ずつだったよな」

「ですね。楽しみですー」


 1箱に12本入りだから、全部で24本ということになる。

 もちろん、2位以下にもちゃんと景品は準備されていた。


「というか、今日もうだいぶ食べてるだろ? いけるのか?」


 エミリスは見学の間にかなりの葡萄を食べていたし、昼食も先程食べたばかりだ。

 それからあまり時間が経っていないのだから、普通ならすでに満腹のはずだ。


「ふふ、とーぜん大丈夫ですよ。ハンディです」


 しかしエミリスは余裕の笑みを浮かべた。


 ◆


 そして始まった大食い大会だったが、前評判通りに独走するエミリスが異常すぎて、一同は言葉を失った。


「……人間じゃないな」


 彼女のことを知ってか知らずか、ポツリと見学者のひとりが声を漏らす。

 今回の食材は葡萄を使ったケーキだったのだが、周りの参加者達が甘さでペースが落ちるなか、それをものともせずに食べ進めていた。

 しかも、それを美味しそうに。


「さー、やはりエミリス選手が怒涛の快進撃だー。早くも4ホール目に突入しています!」


 司会者もほぼ彼女につきっきりで、その勇姿を紹介していた。

 余裕なのか、ふいにエミリスは手を止めて笑顔を見せる。


「このケーキ美味しいですねぇ。町の大通りのレイトさんの店のですよね? 是非買って帰ってくださいねー」


 地元の店の紹介をするのも忘れない。

 その後も観客に手を振りながら、制限時間までペースが落ちることはなかった。


 ◆


「……すごいわねぇ」


 見学していたエレナ女王も流石に驚いたのか、景品のワイン2箱を軽々と持って戻ってきたエミリスに声をかけた。

 1箱だけでも相当な重さがあるものだが、魔力で軽くできる彼女にとっては些細なことだった。


「ふふ。私が負ける訳ないじゃないですか。ケーキもお腹いっぱい食べたし、満足ですー」


 自信満々に言いながらワイン箱を下ろすと、テーブルに置かれた葡萄に手が伸びる。

 それを口いっぱいに頬張りながら、笑顔で笑った。

【第13章 あとがき】


「……相変わらず、エミーのお腹はどうなってるんだ?」


 アティアスは怪訝そうな顔で彼女のお腹を覗き込む。

 どう見ても、食べた量に対して、お腹の容積が合わない気がしたのだが。


「さぁ……。自分でもよく分からないですけど……。ま、ワインも入手しましたし、しばらく飲み放題ですね♪」

「とはいえ、普段は1日1本までだぞ。まだ何があるかわからないから」

「それは仕方ないですね……」


 アティアスが釘を刺すと、エミリスは残念そうな顔を見せる。

 ふたりで1本までなら、彼女が前後不覚になるほどではないことはわかっていた。

 まだ襲撃事件の全貌がわかっていない今、警備を疎かにするわけにもいかない。


「それはそうと、最近更新の頻度が低下してません? 作者のやる気がないんでしょうかね?」

「それは俺も思うけどな。ウィルセアはなにか聞いてるか?」


 アティアスが尋ねると、横で聞いていたウィルセアが言いにくそうに答えた。


「……別の作品の準備をしてるからって噂がありますわ。ちょうどカクヨムコンの時期ですし」

「ほほー。それはちょっと聞き捨てならないですね。こっちより新作を優先させるとか……」


 エミリスは腕を組んで眉を顰めた。

 それを見たアティアスは、苦笑いして言った。


「まぁ……ある程度は仕方ないところもあるだろ」

「むー。読者さんが待ってくれているのに、ダメダメな作者ですねぇ……」

「かといって、無理して倒れたりすると、そこでエターナルだぞ?」


 その話に、ウィルセアは困った顔をする。


「ええっ! それは困りますわね。そうなると私のハッピーエンドが見られないってことですよね?」

「……そもそもハッピーエンドが準備されてるかは分からんが」

「…………(がーん)!」

「まぁ……元気出せって」


 うなだれるウィルセアをなだめつつ、アティアスは続ける。


「さぁ、次章はまだ明らかになっていない謎が解ける章になる……んじゃないかな?」

「……曖昧ですねぇ」

「はは、まだ書かれてないから仕方ないって。毎日更新とはいかないかもしれないけど、作者には頑張ってもらわないとな」

「――ですわね。そして私にもハッピーなラストを!」


 早くも立ち直ったのか、ウィルセアがぐっと拳を握りしめる。


「だめですー。アティアス様はあげられませんからー」


 その前でエミリスが腕でバツを作って見せると、呆れた顔でアティアスが笑う。


「俺は物じゃないって。まぁ、そのへんはどうなるかわからないけど、続けて読み進めてもらうしかないな。それじゃ、また」

「ごきげんよう~」

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