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第195話 収穫祭、始まる

「話には聞いてたけど、やっぱり美味しいわねぇ……」

「でしょー? 毎日いっぱい食べれて幸せですー」


 応接室に届けられた大量の葡萄を前にして、エミリスはエレナ女王と並んでそれを味わっていた。

 エミリスはここしばらくの間、毎日のように食べていたけれど、それでも飽きないようで。

 満足そうな笑顔を見せているのを、少し離れたところからアティアスは眺めていた。


 そこにジェインが恐る恐る話しかける。


「……アティアス殿、大変失礼しました。このような無礼なことを」

「ジェイン殿、気にしないでください。私もエミリスがいるから、この場に立っているだけにすぎませんから」

「いえ、きっと……なにかそういう魅力があるのでしょう。ウィルセア嬢にも好かれておられるようですし」


 アティアスと話していて、何となく感じ取ってはいた。

 周りから多くの人が彼の元に集まるというのは、それだけの魅力があるのだろうと。

 実際、ただ優しいだけではなく、どこか芯のある言動も感じられた。


「ジェイン殿は飲まれますか?」


 アティアスはそう言うと、ワインのボトルを手にした。


「いえ、まだ成人しておりませんので……」

「そうですか。――エミー、ほら」


 返答を聞いてから、エミリスにボトルを差し出す。

 それを見て、目をぱちくりとさせたエミリスが聞いた。


「え? 飲んでいいのです?」

「いいんじゃないか。ほら、今は他にも護衛がいるだろ?」


 アティアスはワイヤードの方に視線を向けた。

 それに気づいたのか、苦笑いしながらワイヤードが言う。


「……好きにしろ」


 「やった!」とばかりに、エミリスがグラスを差し出すと、アティアスはワインを注ぐ。

 そしてすぐにクイっと喉に流し込むと、大きく息を吐いた。


「むふー、美味しいですー。――お母さんもどうです?」

「あら、いいわね。じゃ、少しだけいただこうかしら」


 すぐにアティアスはエレナにもグラスを渡して、同じようにワインを注ぐ。

 それを味わうようにゆっくりと口に含むと、エレナは満足そうな顔を見せた。


「若いけどなかなかね。今年の?」

「ええ、一昨年の葡萄で作られて、最近出荷されたものです」

「そう……。これ、王都のパーティでも使えないかしら?」

「構いませんよ。数は充分あるはずですから」

「それじゃ、帰ったらまた連絡させるわね」


 すると、エレナはグラスを大きく傾けて、残りのワインを全て飲み干した。


(……まさか、エミーと同じじゃないだろうな……?)


 どこかエミリスと重なる飲みっぷりに、アティアスは怪訝な顔をしつつも、新たにワインを注いだ。


 ◆


「ふにゃあ……」

「うふふふ……」


 しばらくして出来上がったのは、応接室の床に泥酔して寝転がるふたり。

 ため息をつきながら、それを呆れた顔で見ているのはワイヤードだった。


「……そっくりだな」

「ああ……」


 アティアスはそれに同意する。

 ちなみに、ヴィゴールも少し飲み過ぎたようでぐったりとしていて、ウィルセアが困った顔をしている。

 ダリアン侯爵は畏れ多くて近づけずに、少し離れたところで見ていた。


「まぁ、俺が居れば心配はないさ。とはいえ、バラバラだと危ないかもしれん。今晩は泊まらせてもらうよ」

「そうしてくれ。……他の護衛は?」

「今回は馬車で来たからな、部下はこの砦の敷地でテントでも張らすさ」

「そうか……」


 流石に公式に祭りに参加するとなると、お忍びで来ることは無理だったようだ。

 それを懸念して招待を出さなかったのだが……。


「ウィルセア、ヴィゴール殿はどうだ?」

「あ、はい。たぶんこのくらいなら大丈夫ですわ」


 パタパタと小走りでアティアスの元に来て、ウィルセアは意見を伝える。

 いつも見ていた様子から、父がどのくらいの状態なのかはわかっていた。


「護衛の者に宿へと運んでもらおうか? ウィルセアはヴィゴール殿と一緒に行く?」

「いえ、皆精鋭ですから、父は心配は要りませんわ。私はアティアス様とご一緒します」


 ウィルセアの考えに頷いたアティアスは、次にダリアン侯爵に声をかけた。


「侯爵殿、今日はエレナ女王もこんな調子だ。この場はお開きにして、明日の祭りに備えようと思います」

「え、ええ。そうですな」

「明日は来賓として、女王の次にご挨拶をいただきますので、どうかよろしくお願いします」


 ダリアン侯爵は、しばし面食らった様子だったが、大きく胸を張った。


「ええ! お任せあれ」


 その返事を聞いて、アティアスは満足そうに頷いた。


 ◆


 そして、ようやく迎えた収穫祭当日――。


 厳重な警戒態勢のもと、町の広場で開会式が行われていた。

 その司会を務め、開会式の最初の挨拶をするのはウィルセアだ。

 人選には悩んだが、最終的に町の人間にもよく知られていて、マッキンゼ子爵とも繋がりのある彼女が最も良いと判断した。


 流石の彼女でも、大衆の面前で緊張を隠せない様子を見せていた。

 しかし、真剣な顔で壇上に登り、優雅に一礼する。


「多数の皆様に集まっていただいて感謝しております。これより、収穫祭の開会式を行います」


 それと同時に、どこからともなく拍手が上がり、ウィルセアは照れながらも壇上を後にする。

 席に戻ったウィルセアが次に発した言葉に、会場は大きくどよめくことになる。


「最初に……来賓としてお越しになられている、エルドニア女王、エレナ様より、お言葉を賜ります」

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