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第153話 和解

「新年の式典ってどんなことするんですか?」


 ノードと別れたあと、ぐるっと露店を周ってお腹を満たしてから、一度家に帰って仮眠を取った。

 そして、今は新年の式典に参加するため、城に向かっているところだった。


「いや、大したことはないよ。親父の挨拶とかがあって、あとは重臣や付近の街から町長か代理の人と、立食で雑談するような感じだ」

「ふむふむ……。近隣の領地からは来ないんですか?」

「どこの領地でも同じようなことやってるから、ほとんど来ないな。だから安心して良い」


 その話を聞いて、エミリスは安堵した。

 ただでさえ人が多いところは苦手なのだ。


「それならよかったです。晩餐会と似た感じですね」

「ああ、そう思ってくれて構わない」


 城に着くと、軽く挨拶して着ていたコートを預けた。

 もちろん城にも更衣室はあるが、2人は家から正装した上でコートを着て登城していた。

 これはできるだけアティアスを1人にさせないためでもある。


「アティアス様、新年おめでとうございます」

「ああ、おめでとう」

「おめでとうございます」


 エミリスは彼の腕にそっと手を添えて、ほんの少し後ろを歩く。

 出会う兵士が2人に挨拶をするたびに、軽く返しながら大広間に向かった。


「よお、アティアス。今年は帰ってきたか」

「トリックス兄さん。ギリギリだけどね。つい昨日帰ってきたばかりだよ」


 途中の廊下で三兄のトリックスにばったりと顔を合わせた。

 いつもは黒いローブに身を包んでいるが、今日はもちろん正装してきていた。


「いつも神出鬼没だな。……まぁ、これからはそうもいかないんだろうが」

「そうだな。兄さんにも迷惑かけるけどよろしく頼むよ」

「気にするな。大した迷惑がかかってるわけじゃないしな。これからも大して変わらないだろ」


 トリックスが軽く笑う。


「そういや、ミニーブルからセリーナが来てるんだよな。どうだ、彼女は?」


 マッキンゼ卿がゼルム家と友誼を結んだことで、魔法石の研究のために、それを開発したセリーナがここゼバーシュに来ているという話を聞いていた。

 アティアス達がいたのが短かったことで、直接顔を合わせてはいなかったのだ。


「ああ、彼女は凄いな。俺が困ってたところを、思いもしなかったやり方で解決してたみたいだ。勉強になったよ」

「そうなのか。ってことは、ゼバーシュも魔法石が使えることになったのか?」

「そうだ。ただ、あれは危険すぎるからな。マッキンゼ卿とも相談して、非常時以外は兵士には持たせないことにしたんだ。盗まれたり落としたりするだけでも脅威だからな」

「確かにな。俺もその方がいいと思うよ」


 確かにその通りだとアティアスも感じた。

 誰にでも簡単に強力な魔法が使えるというのは、もし悪用する者に渡ると危険だと思っていた。


 そのとき、3人に声がかけられた。


「アティアスさん、エミリスさん。お久しぶりです」

「……セリーナさん」


 エミリスが振り返ると、そこに立っていたのは先ほどまで話に上がっていたセリーナだった。

 ミニーブルでのウィルセアの誕生パーティの時と似た、青いドレスを纏っていた。


「……先日は申し訳ありませんでした。許してほしいなどと厚かましいことは申しません。恐らく顔も見たくないと思っておられるでしょうが、一言……それだけは伝えないと思いまして」


 セリーナはそう言うと、2人に向き合って深々と頭を下げ続けた。

 その様子を見たエミリスはアティアスと目を合わせて、小さく頷き、そして口を開いた。


「……セリーナさん。あの時のあなたの気持ちもよくわかります。アティアス様を刺されて、私もあの時はものすごくあなたを恨んで、仕返しをしようとしたんですから。でもそれじゃダメだって思って……」


 あの時のことを回想しながら、エミリスはセリーナに考えを伝える。

 最初こそ彼を刺されて激昂していたが、考えれば考えるほどセリーナの想いが理解できてしまって、エミリス自身も辛くなってしまった。


「エミリスさん……」


 セリーナは予想外の返答に呆然と呟く。

 そんな様子の彼女に、エミリスは真剣な顔で言う。


「だから、私も謝ります。理由はどうあれ、セリーナさんの大切な人を殺してしまったのは私ですから。……ごめんなさい」


 そして彼女も同じように頭を下げた。


「エ、エミリスさん! こんなところで私なんかに……!」


 セリーナは慌ててエミリスを静止する。

 ここはゼバーシュの城で、セリーナは諍いの責任を取るためにここに来ているということを、セリーナ自身が弁えていたからだ。

 顔を上げたエミリスは少し笑顔を見せて言った。


「これで痛み分けにしていただけると、私も嬉しいです」


 セリーナはしばらく呆然としていたが、うっすら涙を滲ませて呟いた。


「ありがとうございます……!」


 ◆


「式典って意外とあっさりなんですね」

「そりゃ、新年早々に時間たっぷり使うとあとが詰まってるからな」


 新年の式典が終わり、城から帰ってきた2人は正装から着替えた。

 何も言わなくてもエミリスはいつものようにさっとお茶を淹れて、アティアスに差し出した。


「はい。どーぞ」

「ありがとう。……今日いつもと違ったのは、前で挨拶させられたくらいだな」

「ふふ。私が壇上に呼ばれなくてよかったです」


 式典の中で、父のルドルフから叙爵の話が切り出され、協力を求める依頼を出してくれたのだ。

 その中でアティアスも簡単に経緯と抱負を説明することになった。

 身近な人たちは事前に聞いてはいただろうが、初耳の者も多かったようで、大きなサプライズになったようだった。


「さすがに親父も配慮してくれたんだろ」

「でしょうね。……それにしても、セリーナさんと話ができてよかったです」


 彼女は式典の前にセリーナと会った時のことを思い浮かべながら話した。


「ああ。あの感じだと、彼女に来てもらうのも1つの案だと思うけど、どう思う?」

「うーん……」


 エミリスは首を傾げながら考える。

 やはりまだ頻繁には顔を合わせたくないのだろうかと、アティアスは思った。


「私としては、来てくれるならそれでも良いんですけど……。たぶん、セリーナさんはゼバーシュにいた方が良い気がしました」

「それはどうしてだ?」

「はっきりとは言えないんですけど、強いて言えば女の勘ってやつです」


 そう言いながらエミリスは含み笑いを見せた。


「よくわからんが、まぁいいか」

「はい、私もよくわからないのですよ。……ただ、なんとなくそう感じたんです」

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