閑話 アリッサの奮闘記 6
今回で本編共に完全完結です。
「これがあの日のあらましです」
クレストが冷めてしまった紅茶に手を伸ばし、渇いた喉を潤した。
1時間では終わらなかったが、エリンジウムは満足そうに頷いた。
「なるほど。ファルシオン先生とアリッサ嬢の間には強い絆がある様だ」
エリンジウムが納得した様に頷くと、クレストは口元を少しだけ上げる。
「お陰でエリカは騎士団で便利に使われそうになったり、私も飼い殺しになりそうでしたが、アリッサと大魔法使いのお陰で平穏です」
聞き捨てならない言葉にエリンジウムがピクッと眉を上げたが、クレストは飄々とした顔で
「ご心配要りません。エリカは騎士団の上の近衛騎士団に配属が決まり、エリカが抜けた穴を埋める為、騎士団は右往左往しています」
と、言って笑った。
隊長を務めていたエリカの穴は、思っているよりも大きいだろう。
「クレスト卿は?」
「今は閑職に回りましたので、気が楽です」
エリンジウムの目がモルセラを見れば、モルセラはゆっくり頷いた。
「クレスト卿。今、私達は学園での仕事があるが、冬のパーティーが終わればある程度自由になる」
エリンジウムの言葉に、クレストは唇を少し上げた。
「アリッサから聞いております。大魔法使いから依頼もありますので、閑職に居るのです」
どうやらアリッサ達は既に手を回している様だ。
「驚かされてばかりだ」
「あの子は何処まで先を見ているか、兄であっても理解しきれません」
クレストの功績を横取りしようとしていた者達にとっては、クレストが閑職に回るのは想定外だったろう。
「この休みが終われば騒がしくなると思うが、冬には私の秘書官になって貰うからそのつもりで」
エリンジウム達は、アリッサが幻覚魔法の事を話した時の顔を思い出した。
今を諦めない、とパライバトルマリンの様な美しい瞳の奥の決意の強さ。
剣も魔法も強いのに、今と言う時間を諦め掛けていた彼女が見せた決意。
「過去ではなく未来を」
今を諦めないと決めたアリッサは、きっと無敵だ。
「で、こけしになった元伯爵達はどうなった?」
話が重くなったので、気分を変える為気になっている事をクレストに聞けば
「さぁ?北の鉱山で、薪にでもなってるかもしれませんね」
と、冷ややかに言う。
夏が終われば、自分達の未来を守る戦いが始まる。
アリッサが何度も諦めた未来。
だが、諦めを捨てた無敵の彼女ならきっと新しい未来を掴み取るだろう。
「冬が楽しみだ」
エリンジウムがすっかり暗くなった外を見て、呟いた。
fin
長い話にお付き合い頂き、心から感謝しております。
他の方と被らない話を、と思って始めたものですが、少しでも楽しんでいただけてたら嬉しいです。
次も出来るだけ他の方と被らない話を書きたい、と思ってますので良ければ遊びに来て下さい。




