嫉妬
「主、ただいま戻りました」
寝かけていところで龍が枕元に現れた。
「龍、お前いつからそんな立派な敬語を使えるようになった?」
「え、ひど…」
「どうだった?」
「嘘つき呼ばわりされて…。主の受験の邪魔にならぬよう我慢したんですがちょっと暴れてしまいました」
「…そうか」
ホレスはちょっとってどれぐらいだろうと思い浮かべた。
「さて、龍、お前に調べてほしいことがあるんだが」
「なんなりと」
「勇者 デグロを調べてほしい。何が目的で試験監督に名乗りを上げたのか。大体デグロは禁忌の魔法を使えるほど強くない。誰か協力者らしき者がいるだろうな」
「分かりました。こんな龍の姿だと調べものどころか町にも出れません。ヒト化するために名前をつけていただけないでしょうか?」
魔物がヒト化するためには名前があり、上位種でないといけないのだ。
「いいよ。じゃあミハエラでどうかな?」
するすると小さくなって、高校生ぐらいの大きさになった。ミハエラは顔をパっと明るくさせて
「ありがとうございます!」
と言った。
「ところで少しお願いがあるのだが…」
「なんでしょう?」
「アデルにはデグロについて調べていることを秘密にしておいてくれないか?」
「はあ。でも、何故です?」
「アデルとお母様はどうも俺に隠し事をしているみたいでな。俺のためにしてくれているのかどうか分からないが、お母様のあんなに難しそうな顔は見たことがない。裏でコッソリ手助けしてやりたくて…」
「主は不器用で、鈍感で、無表情で、到底十歳とは思えないくらい強くて大人びていますけど優しいですね」
「褒められているのか?けなされているのか?」
「ふふっ。分かりました。アデルには秘密にしておきます」
「ありがとう」
ホレスは微笑んだつもりだったがミハエラには相変わらず無表情に見えたのだった。
*
ホレスは合格発表を見て無表情な顔がさらに無表情になった。
「受かった」
「マジすか」
「やべぇ」
ホレスが普段使わないような言葉使いになっていた。
「あんだけ失礼な態度とったし、落第になると思ってた」
「まあよかったじゃないですか!今日はパーティですね」
アデルが弾んだ声を出す。
「そうだな」
「ホレス~!」
ソフィアがドアをぶち抜いて部屋に入ってきた。
「受かったの?凄いね!凄いね!」
「ありがとうございます」
「ああ、今日はパーティだわ。アデル、準備よろしくね?」
(準備するのは結局俺かよ)
その日はホレスたちにとってとても楽しい日になった。
*
「僕らのことを嗅ぎまわってる連中がいるみたいなんだよね」
少年がニヤついた顔で言う
「ボス!駆逐しますか?」
少年に跪いている男が言う。
「ううん。生け捕りにして?もしかしたらホレスのこと知ってるかもしれないし」
「分かり…ました」
(ホレスと言う少年はそこまでボスを魅了する存在なのか?)
男は嫉妬する。羨ましい、と。
「では、失礼します」
そんなことは口にせず少年の前から去るのだった。
「さあ忙しくなるな」
少年は宙にむかってぼそりと呟いた。その声は弾んでいた。