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ホレスの決断

 その晩、ホレスは夢を見た。

 誰かが泣き叫んでいる。

 それは少女の悲鳴のようにも聞こえた。

 

 (誰が、泣いている?)


 ホレスは人込みをかき分けて泣き声の主を見つけようとした。しかし、力が入らなかった。

 そこでようやく気付く。


 (俺は誰かに抱かれている?)


 ホレスは泣き声とは反対のほうに向かう。


 (違う!行きたいのはそっちじゃない!)


 しかし、それは声にもならない。

 次第にホレスは「助けて」と思うようになった。

 (誰か僕に気づいて・・・)


 (誰か僕を助けて・・・)


 (苦しいよ・・・!熱いよ・・・!ここは、どこ・・・?)


 「ホレス様!」


 温かい声が聞こえた。


 「起きてくださいよ」


 次はさっきよりも少し声が低かった。でもやっぱり温かい声だ。


 「ホレス様ってば~!起きてくださいよ!」


 ホレスはゆっくりと目を開ける。

 そこには見慣れた顔がホレスをのぞき込んでいた。


 「あ、起きた」


 ホレスは安心して思わず微笑む。


 「おはよう」


 ―大丈夫。俺はちゃんと生きている―


 「ほ、ホレス様・・・熱でもあるんですか?」


 「無いけど。どうした急に」


 「いや、何があっても表情を崩さないホレス様が笑っている・・・」


 「おい、ミハエラ、今日は世界の終わりか?」


 「そうかもしれないわね、アデル」


 「おいおい、好き勝手言ってくれるが、俺は常にスマイルを心掛けているぞ」


 するとドアを思いっきり開けてずかずかとホレスの部屋に入ってくる少女がいた。


 「起きるのがおそい!」


 ソフィアだ。ソフィアは言葉をつづけようとしたがホレスの顔を見て固まった。


 「え、うそ、笑ってる・・・」


 「いや、ですから俺は常にスマイルを心掛けていまして・・・」


 「もういいですよそういう冗談は。今はそれでころじゃないんです」

 

 「え、冗談じゃないんだが」


 ホレスの言葉は誰にも聞き取られず、その日は騒がしい日となった。


 「なあミハエラ、そこのしょうゆ取って」


 「はい」


 ミハエラがしょうゆを即座に渡すと


 「ありがとう」


 とホレスがミハエラに微笑む。


 (やべぇ。ガチイケメン)


 「にしても、ホレス様に何があったんでしょう」


 「そうよね。ホレス、何があったの?」


 「うーん・・・何か夢を見た気がするんです。どんな夢かは覚えてないんですけど」


 (大事な、とても大事な夢だった気がするんだが・・・)


 「そう。ホレスを変えた夢ねえ。気になるところだけど覚えてないなら仕方ないわね。さて、もうこんな時間ね。学校に行ってらっしゃい」


 「はい」


ホレスは最後の一口を急いで口の中に入れて学校へと行った。


 「あ、ホレス~!」


校門まで転移で行くとアリスが走って来た。


 「おはよう」


そして、ホレスの顔を見てピタリと動きを止める。


 「・・・・・世界の終わり?」


 「おい、それはいくらなんでも失礼じゃないか?」


ホレスが苦笑ながらアリスを見る。


 「なんだろう、なんか無茶苦茶うれしいな・・・」


 「おいおい、大げさだぞ?」


 「えへへ・・・。ヤバっ!もうこんな時間!授業遅刻しちゃうよ。ほら、早く行こう」


ホレスは走るアリスの背を追いかける。


 ―こんな幸せがずっと続けばいいのに―


ホレスはふと、そんなことを考えてしまった。

もしかしたらホレスは何かを予感したのかもしれない。悪い予感を・・・。


                       *


 「ははっ。ホレスが笑ってるや」


少年は水晶玉に映ったホレスを見て呟く。


 「もうそろそろ仕掛ける時かな。そう思わないかい?()()()


 「はい。そう思います。今度こそ成功させましょう」


 「僕がやるからには失敗は無いよ。さあ、行こうか。ホレスに記憶を返してあげなくちゃね」


 少年は椅子から立ち上がり、コラルと一緒に転移した。

                    *


 「え~今日ホレス空いてないの?」


 帰り道、アリスに遊ぼうと誘われたがホレスは断った。


 「今日は大事な用事があるんだ」


 「そっか・・・じゃあ、また今度ね!バイバイ!」


 ホレスは手を振り返し塔へと向かう。


 (気が重いな・・・)


 塔は相変わらずボロボロで転移で塔の中に入ろうとしても無理だった。

 約束した時間より早く来てしまったホレスはいくつかの魔法を試してみたがすべて結界ではじかれた。

 

 (この結界、俺でも張れるかな。一体どんな魔術式なんだ?)


 ホレスが結界を観察していると後ろから足音が聞こえた。


 「やっほ。待った?」


 ホレスが振り返るとロベルトがいた。


 「いや、大丈夫だ」


 「そっか。・・・それで、昨日の答えは?」


 「すまないが、引き受けることが出来ない」


 「どうしてか、聞いてもいい?」


 「俺なりに考えたんだ。ロベルトに仕えて、それで、どうなるか」


 ホレスは言葉を一つ一つ選んで話す。


 「そしたらやっぱり、俺には合わないんじゃないかって思うんだ」


 「・・・そうだよね。うん。わかってたんだ。わかってた。でも、やっぱり、苦しいな」


 涙を見せまいとしているロベルトになんて声を掛けたらいいかホレスは分からなかった。


 「・・・・・」


 「・・・・・」


 ロベルトの嗚咽が塔に響く。

 そしてロベルトは腕で必死に顔をぬぐった後、顔をパッとあげてホレスを見つめる。


 「それじゃあ、これからは、今まで通り、友達でいてくれますか?」


 手を差し伸べてくるロベルト。ホレスは迷いなくその手を取った。


 「よろしく、お願いします」


 「えへへ、なんか照れちゃうな。えーと、よろしく!」


 その日、ホレスとロベルトの間にあった壁は完全になくなり切っても切れない強い紐で結ばれた。


                      



 

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