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ソフィアの過去

 ソフィアと言う少女が魔王になったらしい。

 アデルがまだ名前も持たず未熟だったころ、そんな噂を耳にした。


 「少女?女に魔王なんて務まらないだろ。嘘つくなよ」


 噂を耳にしたアデルは鼻で笑って相手にしなかった。


 「ホントだって!」


 一生懸命訴えているのはアデルの親友であるコラルだった。

 彼はアデルとは違い若くして名前をもらい力も強い期待の新人だった。


 「いやいや、俺は信じないね」


 「じゃあこの話本当だったら今日のご飯はお前が俺の分も用意しろよ」


 「いいぜ。逆にこの話が嘘だったらコラルが夜ご飯準備しろよ」


 「分かった。じゃあ、来いよ」


 コラルに連れられてアデルは魔王城に着いた。花が咲き乱れた魔王城はいかにも少女が好きそうであった。


 「おいおい、あのカッコいい魔王城はどこに行ったんだよ!」


 アデルが絶叫しているとコラルがドヤ顔で語る。


 「昨日、ソフィア様が一瞬でここを花畑に変えたんだ。とても、美しかった。俺は、ソフィア様に仕えるって決めたんだ」


 アデルは顔が引きつる。すると魔王城から少女がでてきた。


 「まあまあ、騒がしいと思ったら小さなお客様が。よければお茶でもどうですか?」


 (気配は完全に隠してたのに・・・この距離でバレたのか)


 アデルは鳥肌が立った。アデルとコラルはかなり距離を置いて魔王城を木から観察していたのだ。それでバレたということは少女が相当な実力者ということを示している。


 「どうする?行くか?罠の可能性もあるぞ」


 アデルはコラルに尋ねた。


 「ああ行こう」


 決心した顔でコラルが答える。


 「まあ、本当に来て下さったのね。嬉しい!何人かここに来る方はいるんですけどお茶にお誘いするとみんな逃げてしまって」


 アデルとコラルが魔王城の前に来ると少女が迎えてくれた。少女は早口で話すと門を開けて庭にある椅子をすすめた。


 「今、お茶を持ってきますから少々お待ちになって」

 

 少女の対応に気を抜かれたアデルとコラルを置いて少女はどこかへ行ってしまった。


 「あれが、魔王なのか?」


 「噂には聞いていたけどなかなか・・・」


 コラルは最後まで言わず花だらけになった魔王城の庭を見渡した。


 「お待たせしました。紅茶を入れてみたの。それに、クッキーも。どうぞいただいて。初めてのお客様だから張り切っちゃった」


 「あの・・・その、お名前をお伺いしても?」


 一人喋り続ける少女に名前を尋ねた。いや、本当は少女の名前も正体も分かっていたのだがこんな少女が魔王だなんて信じたくなくてつい聞いてしまった。


 「あら、自己紹介はまだでしたっけ。ではあらためて」


 花柄の紅茶のカップを置いて少女は自身の胸にそっと手を置く。


 「私は魔王ソフィア。以後お見知りおきを」

 

 ニコリとほほ笑む彼女は「美しい」ではおさまりきらないほど綺麗だった。

 見た目は大人びているのに喋ると幼さを残す少女は確かに花畑が似合っていた。


 「あなたたちの名前は?」


 「俺はコラルです」


 アデルは自分だけが名前を持ってないのが急に恥ずかしくなった。


 「俺は、その、名前なしなので・・・」


 「まあ、そうなの?いいわね」


 「よくないですよ!」


 「あらいいことよ。自分がどんな名前になるか楽しみでしょう?私はもう名前があるから楽しめないの。だから羨ましいわ」


 「ソフィア様はこの城で一人だけなんですか?」


 するとソフィアは寂しげな顔をして頷いた。


 「だからお茶に誘ったりしているのですけど・・・。誰も応じてくれないの」


 「そうだったんですか・・・」


 なんとなく空気が暗くなりアデルは質問を失敗したかと後悔しているとコラルが席をがたりと立ちあがった。


 「ソフィア様、俺を、僕を従者にしてくれませんか!」


 アデルはコラルを凝視した。

 そしてソフィアはと言うと・・・


 「ふふっふふふ、ありがとう。でも、私はあなたたちと友達でいたいの。だから、ソフィアって呼んでほしいし、そんなに緊張しないでほしい」


 しばらく沈黙が続いたがその沈黙に痺れを切らしたアデルが


 「あきらめろ、コラル」


 とコラルの肩を叩いた。

 するとコラルも


 「くっそー」


 と悔しそうに椅子に座りなおす。


 「ソフィア・・・でいいんだな?」


 「ええ!とっても嬉しい!憧れの友達が出来たんだもの。よろしくね、コラルと・・・」


 「俺のことなら好きに呼んでくれ」


 「えーと、じゃあ、リスみたいだからリスね」


 「なんのひねりもないな、おい!」


 「気に入らなかった?」


 不安そうな顔になったソフィアに言葉が詰まる。


 「・・・いいや、大丈夫だ」


 「ホント!それじゃああらためて、よろしくね!コラル!リス!」


 (やっぱりリスってどうもなあ・・・)



 コラルとアデルは毎日魔王城に足を運んでいた。

 毎日遊んで、遊んで、遊んで・・・。

 魔王城は広くて飽きることなどなかった。

 

 ある日のこと、コラルが風邪をひいた。まあ、無理もない。雨のなか遊び続けていたのだから。

 アデルはその時、ちょうど予定があって遊びに行けなかったから風邪はひいていない。ソフィアは大丈夫だろうかと心配になって魔王城へ行った。

案の定風邪をひいて寝込んでいた。


 「おい、大丈夫か?」


 「リス・・・。昨日、雨の中遊んでたから風邪ひいちゃった。コラル、大丈夫そうだった?」


 「ああ。何ならソフィアのほうがきつそうだ。こんな埃まみれの中で病気が治せるわけないだろう」


 アデルはせっせと掃除を始めた。


 「ふふ、優しいんだね」


 「病人を放っておくほど鬼ではないな」


 「ありがとう」


 「気にするな」


(しかし、このままだとなかなか治らないぞ。薬草をとりにいくか)


 「ソフィア、薬草をとりにいってくるから待ってろよ」


 反応は無かった。


(寝たのか)


 アデルは急ぎ足で薬草を取りに行った。魔王城に戻る最中、人がいた。


 (こんな森に人とは珍しい)


 何か話しているようだったのでアデルは聞き耳を立てた。


 「魔王ソフィアを殺す準備はできているな」


 「ああ、人類の敵魔王をようやく殺せる日が来た」


 「我らは英雄となるだろう」


 (ソフィアが、危ない!)


 アデルは踵を返して魔王城に戻ろうとした。しかし、いつの間にか人に囲まれていた。


 「なんとも運がいい」


 「この小さな魔物がなんだ?」


 「魔王ソフィアに親しい魔物だ」


 「こいつを交渉に使うか」


 「名案だ」


 「名案だ」


(逃げられない・・・)


 アデルは人間に捕まってしまった。


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