謝罪
「見えていなかったか?なら丁寧に説明してやろう」
「早く説明してくれ」
「お前が見せつけるように打ってきた特級攻撃魔法、あれを足枷のついている足にわざと当てた。すぐに回復魔法をかけたら問題ないからな」
「頭狂ってるだろ…」
男は絶句した。わざわざ攻撃に当たりに行く馬鹿なんて聞いたことなかったから。
「さて、お前は詰んだ。ボスとやらについて話してもらおうか」
「こりゃあやられたな。元勇者さんもやられたみたいだし、俺は帰る!」
男はそう言って消えた。
ミハエラがこっちに来る。
「主!勇者を捕らえました」
「殺さなかったのか?」
「そこまでしなくても十分恨みは晴らせました」
縛られた元勇者はよだれを垂らしながら気絶していた。
「許してください・・・許してください・・・」
と、ぶつぶつ呟きながら。
「ミハエラ、家に帰っておいてくれないか?俺はマールデンと話す約束をしているものでな」
「分かりました。お気をつけて。もう一人の男は逃げたようですので」
「大丈夫だ」
ミハエラが転移で家に帰るとマールデンがホレスに言った。
「ゴメン、俺のせいで…」
「なんでマールデンのせいになる?」
「だって俺がさっきの戦いも足を引っ張った。それにその足枷だって俺の父親が誰かに依頼してホレスに付けたんだ」
(やっぱりか)
「なんでそんなことを依頼したんだ?」
「きっと立場を失うのが怖いんじゃないか?俺の父親はあまり地位の高くない貴族だけど俺が勇者第一候補だから高い立場にいるんだ。俺が誰かに負ければその立場も危うくなる。自分の父親ながら情けないな」
「お前が謝る必要なんてないじゃないか」
「俺は何もかも知っていたのに黙っていたんだ。共犯だよ。本当に悪かった。俺のせいで痛い思いをさせてしまった」
マールデンは深々と頭を下げた。
「ふむ。許してやる代わりに2組に来ないか?あと…俺と友達になってくれないか」
「…え?」
「あ、いや、嫌ならいいんだ。お前はいいやつだから…その…」
(恥ずかしいな・・・)
「喜んで引き受けさせてくれ。でも、本当にいいのか?」
「ああ。こっちもマールデンを命の危機にさらしてしまった」
「ありがとう。だけどその前に父親と話をつけてからでいいか?俺はちゃんと俺の意見を言う」
「それがいい」
(マールデンはきっといい勇者になる)
ホレスは確信に満ちた予測をするのだった。
*
「結局ホレスの実力は分からなかった、か・・・」
少年が残念そうな声で言う。
「すみませんでした。私が不甲斐ないばかりに・・・」
男が謝る。しかし内心では
(最近のボスは面白くない。ホレスのことばかり・・・。組織を抜け出そうか)
「元勇者は捕まった。こっち側の情報を喋りかねないな。殺しておきますか」
「どうやってですか?」
少年は瓶をどこからか取り出した。
その瓶を粉々にする。
「これで完了」
「本当に死んでいるのですか?」
「じゃあ、見てみる?」
少年は元勇者が映った水晶玉を男に見せた。
「っ・・・」
元勇者は泡を吹いて倒れていたのだ。
「いいかい、よく覚えておくんだよ。君の命だってこの手の中にあるということをね・・・」
少年が男を見つめる。男は心が見透かされているかのようで目を伏せた。
「さあ、次は何をして遊ぼうか・・・」
水晶玉に映ったホレスを愛おしそうに眺めて言った。