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一人の赤ん坊と、魔物と、魔王

 森の中、一人の赤ん坊が泣き続けていた。

 そこに一匹の魔物が近寄る。

 その魔物はふさふさの毛で覆われていて尻尾が小さく生えていた。手のひらにのれるくらい小さく、リスのようだった。

 その魔物は見た目によらず赤ん坊を軽々と持ち上げて自分の巣に持ち帰った。


 「素晴らしい餌が手に入ったぞ、子供たち」


 魔物が巣に呼びかける。すると、巣の奥から似たような姿をした魔物が5、6匹でてきた。


 「人の子、ですか?」


 「そうだ。生きているうちに食べたほうがいい。おいしいぞ」


 「では、ありがたく!」


 魔物たちが赤ん坊を食べようとしたとき


 「待ちなさいな!」


 という声が巣に響いた。

 巣がその声と同時に壊れた。


 「全く、赤ん坊を食べようなどと、どういう考えをしているの、あなたたち」


 声の主はとても美しい顔立ちと立ち振る舞いをしていた女性だった。


 「ソフィア様…」


 魔物たちが苦々しげな顔をした。


 「この赤ん坊は貰っていくわね」


 いつの間にか赤ん坊を抱きかかえて言った。


 「しかし、ここ最近餌を食べていないのです!そこをなんとか…」


 「そんなの自分の実力と運でしょう?後、あなたたちついてきなさい」


 「はあ」


 ソフィアと呼ばれた女性は有無を言わさず魔物たちから赤ん坊をとりあげて、挙句に相手の都合お構いなしにどこかへ連れて行こうとした。

ぞろぞろと長い列を作って辿り着いた場所は森の奥にある城だった。


 「私たちは死刑なのですか!」


 「なぜそうなるの?」


 「だって、この城に入った者は全員帰ってこられないって…」


 「噂でしょう?あなたアホなの?」


 「っ…申し訳ございません」


 噂ではなく、事実なのだがとりあえず謝った。

 

 「あなたたちに、命令するわ。この子を育てなさい。私を越えられるような子を育てなさい。できるわね?」


 (できねーよ!)


 魔物たちは内心ではそう思ったが口に出して言うものは誰一人いない。

 できない=死 を意味するからだ。


 ソフィア、彼女はただただ強かった。魔王になれるほどに。見た目も、お金もあったが性格が難ありだった。

 できないことを押し付けて、できなかったら殺す。

 今回ソフィアの我儘の犠牲者はこの魔物たちだった。


 「あと、あなたたちこの城で住むように。そしてその子に教えてあげて。私が母親だと」


 (無茶苦茶だ…)


 哀れな魔物たちはあと何日生きられるかゆっくりと数えていた。


 *


 10年後…


 「アデル、今日もよろしくな」


 「はい。よろしくお願いいたします」


 「その堅苦しい言い方はやめてくれ」


 魔物たちは10年間で立派に赤ん坊を育ててホレスという名前を付けたのだ。


 「ホレスは今日も練習なの?偉いねぇ」


 どこからか現れたソフィアが頭をよしよしとなでる。

 あの悪役令嬢っぷりはどうしたというツッコミを誰もが最初はしたくなったが十年もたてば慣れたものだ。


 「早く私を殺してね?」


 「いいんですか?」


 「もちろん!だから強くなるんだよ?」


 十歳にしては十分強いのだが、強すぎるのだがソフィアにとっての強いの基準は自分を超えるかどうかなのだ。


 「はい」


 「そういえばホレスももう十歳だったわね。学校に行くつもりはないかしら?」


 「学校ですか。学校は社会での生き方を学べる場所と本で書いてありましたし、行けるのなら行くべきでしょう」


 「じゃあ決まりね。アデル、手続きよろしく」


 「はい」


 アデル…昔ホレスを一番最初に見つけた魔物だ。アデルという名前を5年前ホレスにつけてもらったのだ。


 「アデル、俺に学校選ばせてよ」


 「ええ、もちろんです」


 アデルはホレスのことを尊敬している。一歳でアデルのことを倒したのだから。

 …ホレスは知らないがアデルは上位種の魔物でかなり強いのだ。


 「やはりここがいいかな」


 「ええ、ええ」


 アデルはただ頷くだけだ。ホレスはどこを受けても受かると思っているのだ。


 「じゃあ勇者学校にするよ」


 「ええ、ええ、ええ!」


 (そういえばソフィア様が魔王ってことホレス様は知らなかったんだ)


 失敗した、とアデルは思った。

 まさか勇者学校に入りたいと言うとは思ってもいなかったのだ。


 「ホレス様、ほかにもいい学校はありますよ。ほら、魔族学校なんてどうです?」


 「勇者学校ではだめなのか?」


 悲しそうな声をされるとアデルは弱い。


 「前から入りたいと思っていたんだが…」


 「分かりました。その前に一つ、確認させていただきます。勇者は何をするのか知っていますか?」


 「ああ。世界の脅威である魔王ソフィアを倒すため、だろ?」


 (どうしてそこでソフィア様が魔王と気づかないんだよ!)


 ホレスは決して頭が悪いわけではない。それどころかいいくらいだ。しかし、物凄く鈍感で、つねに真顔なのだ。声から感情を読み取るのは意外と難しい。

そこがソフィアにとってホレスの可愛いところのひとつだと豪語していた。


 「はあ」


 アデルはこの先真っ暗なことを考えてため息をつき、ホレスは勇者学校に向けて机に向かい、ソフィアはホレスが勉強している姿を目に焼き付けていた。


 







あらすじに出てくる一番最初の言葉がなにを意味するか、考えながら読んでみてください!


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― 新着の感想 ―
[一言] どうもはじめまして。 作品拝見しました。 とても面白かったです。 (*^▽^*)
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