死なずの少女④
「…………どうしたのウヅキ。こんな時間に」
寮の外に出ると、綺麗な満月がウヅキを美しく照らしていた。その様はまさに月下の積雪。月の明かりを纏う彼の白髪は、雪のように煌めいている。
「ごめんね。ちょっとソウ様の事が気になって」
――私の事が気になって? どうしたんだろ。
「そ、そう。…………ウヅキはどう? たしかニライ先生の門下生だったよね」
「うん。ちょっと熱い先生だけど、僕は楽しくやってるよ」
そう言って私に笑いかけるウヅキ。とても男子とは思えない可憐さだが、それでも異性として見てしまう魅力がある。
「そっか。私はあまりミウ先生の授業は受けてないけど。でも楽しくやってるよ」
「そうなんだ、ちょっと安心したよ」
「あ、そう言えば聞いたよ。タライと仲良しなんだってね」
ある日タライがウヅキの事を楽しそうに話していたので、私がタライに聞いたら、彼はウヅキと友達だと言っていた。まあ場繋ぎの会話だったのだが。
「うん。僕に出来た初めての友達だよ」
「口は悪いけど、いい子だもんね。あの二面性は怖いけど」
「そうそう。先生の前ではいい子なのに。あ、でもね、タライ君は…………」
などと、それから私たちは、一体どれくらいの時間が経過したのか分からないくらい話し込んだ。
ナナナキヒメの事やユウヅキの事。他にも村長ミカヅキの事など、たくさんの話題を出しては、一つ一つ丁寧に摘み取った。
「――――ねえソウ様」
女子寮の近くにある池の畔で、私とウヅキは並んで座っていた。
そしてある程度話した後、ウヅキが私の名前を静かに呼んだ。
「なに?」
「最近また危ない事をしてるみたいだけど、もし困った事があるなら、僕にも相談してほしいんだ」
まさかタライの奴、見世物小屋の事をウヅキに喋ったな?
「もしかして、タライに聞いたの?」
「うん。タライ君には内緒にして欲しいって言われてたんだけど。どうしても心配になって」
――――ため息が出る。確かに口が固そうなキャラではなかったが、まさかここまで早く喋ってしまうとは思わなかった。
「まあでも、カナビコに何とかして貰えそうだから、心配はいらないよ」
「カナビコ様に?」
「そうそう。だから決して危なくはないから、安心して」
出来るだけ心配はかけたくない。それにウヅキには、この官学での勉学に集中して欲しいのだ。だから巻き込むつもりもない。
「僕も、ソウ様の味方だからね」
その時、丁度雲から顔を出した満月が、彼のはかなげな笑顔を照らし、不覚にも私の鼓動を早まらせた。
「も、もちろん! 私も頼りにしてるから! だから、その」
――――なにこれ、なにこれ。こんなのドキドキしちゃうに決まってる。
「うん。いつでも頼ってね」
そう言ってウヅキは、私の頭に手を置いた。ウヅキの事だから他意は無いのだろうけど、私の心臓はまさに、祭りの太鼓のように忙しなく鳴り響いていた。
「あ、ああ、ありがとね! それじゃ、そろそろ消灯だから、私は戻るね! バイバイ!」
恥ずかしいぃ。不意に頭ポンポンされたら、馬鹿にもなりますって。今までウヅキの事をそう言う風に見てなかったのも一つの原因だ! きっとそうだ!
などと、結局私はそのまま、ウヅキの方を振り返ることもせず、火照る身体を扇ぎながら、足早に寮へと戻っていった。想像もしていなかったまさかの出来事に、胸の鼓動を躍らせながら。




