入学早々問題児?④
「――――はーい、それじゃあ皆さん、纏いは出来ましたね?」
気が付くと、私は陽日院の舞台上に戻っていた。アマハル様が精神世界を出たので、私も現実に引き戻されたのだ。
「あれソウちゃん、纏い出来てないよ?」
静かに私の耳元でそう言うユハン。しかし私の神通力は、願い事がないと無効になってしまうのだ。…………しかし。
「あれぇ。ヨウさん纏い出来てないじゃん」
話したこともない女子が、ニヤニヤしながら私を見ている。そしてその言葉を皮切りに、ポツポツと馬鹿にしたような笑い声が聞こえてくる。
「ええ、武鞭やってたのに出来ないの?」
「そう言えば、昨日の模擬戦でも負けてたよね」
この空気、陰キャには応える。
――――お前らが困っていても、願い事は絶対に聞いてやらないからな。
「はいはい、お静かに!」
ここでミウ先生が手を叩く。
「ソウ君は“神統”の神通力を使うので、ここで纏いが出来ないのも、不思議な事ではありませんよ」
その言葉に騒めきだす一同。ありがとうミウ先生、お陰で胸がスッとしました。
「いいですか? 神統はとても強力な神通力です。五行や特殊陰陽と違って、あまり耳にすることはありませんが、名前だけでもしっかり覚えましょうね」
お陰で先ほどよりかは静かになったが、しかし中には、まだ納得できていない子供もいるようで、未だに私を睨む様な目線は絶えなかった。
「はえぇ。大神様の神通力って、神統なんだね」
――――だがそれでも、ユハンと同じく、目を輝かせる生徒がいるのも事実だ。
「それじゃあ、皆さん纏いも出来たようなので、今から少し神通力を使ってみましょう」
…………と、それから授業は滞りなく進んだが、ただ見学するだけの私は、この上なく暇な時間となってしまった。
「はい、これで最初の授業を終わりますが、何か分からないことはありますか?」
「ありませーん」
生徒の返答を聞き、満足そうにうなずくミウ先生。その表情には、どこか感情が籠っていたので安心した。
「それじゃあ、次の授業は種族ごとに別れて行いますので、これから皆さんには、それぞれの先生の所へ行って貰います」
そう言って彼女は、生徒たちに案内の紙を配るが、しかし龍人の子供達には紙は渡されない。
「龍人族の皆は、休憩が終わったらまたここに戻ってきてくださいね」
――なるほど、龍人族はここでやるのか。
「それじゃあ、皆さんお疲れさまでした」
「有難うございました!」
私たち一年生はそう言ってお辞儀をした後、風に吹かれたタンポポの綿毛の如く、足早に散開した。
「――――二人共どうだった!? 神通力の授業は」
ユキメ組から戻って来たヒスイは、興奮冷めぬと言った様子で息を荒げる。初めて神通力を使った時の私も、確かにこんな感じだったのかもしれない。
「はへぇ。こんなに神通力を使ったのは初めてだったから、ちょっと疲れたよぉ」
「だね。まあ、私は見てただけだけど」
――――対するミウクラスの私たちは、特に目新しい事もやらなかったため、ただただ疲労を感じていた。
「ねえねえ! 二人はどんな神通力を使うの!?」
まるで話を聞いていないヒスイは、お風呂以上の興奮を私たち見せる、これは文句なしに可愛らしく感じる。
「わえは縁切りの神様だよ」
「私は所願成就の神様だよ」
ユハンの神通力は縁切り。物騒なご利益だが、私もよく分かっていない。聞けば相手の心に影響を及ぼす神通力のようだが、その真意はいかに。
「縁切りって、物騒な名前ね。…………っていうか所願成就って、どんな神様と契約したの?」
「ソウちゃんはね、天陽大神さまの神使なんだよ」
「天陽大神って…………。太陽神じゃない!」
龍人族の子らは知っている者も多いが、他の種族はまだこの事実を知らない。故にヒスイはここまで驚いているのだ。
「嘘! なんでそんな神様と契りを交わせたの!?」
目を輝かせるヒスイ。その様子を見て、私は心の底から安心した。この事を良く思っていない連中も多いからだ。
「成り行きで?」
「成り行きって、今まで大神様と契約した神使はいなかったのよ!?」
「あはは。なんでだろ」
この類の質問は、この三十年間で耳にタコができるほど聞かれてきた。それでもヒスイの質問攻めは、その後も何分か続く…………。
「――――ところでヒスイは、どんな神通力なの?」
「私はね…………」
えっへんっと息を吐き、胸を張ってヒスイは答える。
「お酒の神様よ!」
「酒!?」
おいおい、なんだ酒の神様って。それにこんな小さな女の子と契りを交わすなんて、嫌らしすぎるだろ!
「ヒスイ、その神様に変な事されなかった!? 何かあったら私に言うんだよ?」
「…………え。いや、大丈夫だけど」
彼女の肩を掴んで声を張ると、ヒスイはドン引きした様子で顔を引きつらせる。
「まだ未成年なんだから、お酒なんて飲んじゃダメだからね!」
「の、飲まないわよ。っていうか、私の神通力は相手を酔わせるものなの」
「――――誰かを酔わせるですって!?」
それで世の男どもを骨抜きにするって事か、恐ろしい子ッ!
「いい? 変な男には引っかからないようにね」
「ソウ、さっきから何言ってるのか分かんないんだけど……」
「……ごめん、ただ気を付けてって話」
そんなこんなで、たった十分ほどの休憩はあっという間に過ぎ去っていった。




