表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第二章 不死の呪いと死なずの少女
89/202

入学早々問題児?③

「はい! それじゃあ、適性検査を無事合格した皆さんは、今日から私の門下生となります」


 指定された第三舞台に集まった生徒に、相変わらず感情の籠っていない笑顔を振りまくミウ先生。

 ――――官学の教職ってブラックなのかな? ユキメは大丈夫かな? カナビコはまあいいか。


「皆さんが繰り広げた戦いは、どれも美しい物ばかりだったので、先生もとてもうれしいです」


 手を合わせながら、決して豊かとはいえない表情で話し続ける彼女。その隣では、ユキメがほんのり顔を綻ばせている。


「途中、問題もありましたが、無事こうして、皆さんがここに揃った事を誇りに思います」


 思い出したように、私は辺りを見渡す。――しかしユンの姿はない。どうやらあのバカは落ちた様だ。


「ですが、皆さんが何か問題を起こせば、先生はとっても困ってしまいます。なので、皆さん真面目に十年間を過ごしましょうね」

「はああい」


 三十人ほどの門下生が可愛らしく返事をする。しかしミウ先生の笑顔は、ここにいる一年からしたら、ただの笑顔に見えるのだろうか。


「ねえソウ」

「なに、ヒスイ」

「……ミウ先生って、なんかあったのかな」

「なんで?」

「なんか、笑ってないよね、あの目」


 言わないであげてぇ。きっと疲れてるんだよ彼女も。


「あはは、気のせいじゃない?」

「うーん、そうかなぁ」

 ――――流石は優等生。その勘の鋭さには脱帽だ。


「それでは、皆さんのまず最初の授業は、私が行う神通力の授業です」


 仏の様に笑う先生。しかしその先生が、三か所も同時に還りを使うのだから怖い物だ。おそらく三か所はユキメにも出来ない。


「この中で武鞭をしてたよって人は知っていると思いますが、神使の神通力とは、神様のお力を直々にお借りすることです」


 この官学に武鞭をしてない子供がいるのか。私は両親に感謝だな。


「なので武鞭をしてないよーって人は、ユキメ先生と。そしてそれ以外の人は、私と神通力の練習をしましょう」

「はあーい」


 そうしてミウ先生のクラスは大体半分くらいに別れた。というか、武鞭をしていない人の方が多い。


「――――それでは、ここにいる皆はある程度、神通力が使える人なので、ここではもう少し高度な授業を行います」


 ユハンも私と同じミウクラスだが、ヒスイはユキメの方へ行ってしまった。――武鞭もしてないのに次席とは、恐ろしい子ッ。


「はえぇ。中級者向けって何やるんだろ」

「わかんない。そもそも神通力に練度があるとは思わなかった」


 いつもはただ、祝詞を唱えて神様呼んで、それからひょひょいと神通力を使っていたから分からなかった。


「――――しかしそれでも、神通力は神様によって種類が変わってきます」


 ミウ先生は右手の五本指を立てる。

「まずは火水木金土の自然からなる五行ごぎょうと……」


 そうして左手の三本の指を立てる。

「心技体に影響を及ぼす、特殊陰陽とくしゅいんようがあります」


 心技体に影響……。バフみたいなもんか? だとしたら、アマハル様の神通力も特殊なんたらに入るのか。


「そして、これらに属さないものを、神統しんとうと呼びます。今回は一人だけ、それを使える子がいますね」

「はいはーい先生」


 鼻水が垂れている男児が、すこし腑抜けた声で手を挙げる。確かこの子は、昨日の模擬戦で、最速の一本取った子だ。


「何ですか、タライ君?」

「先生の神通力って、どんなのなんですかぁ?」


 鋭い質問だ、ナイスだぞタライ。確かに私も気になっていたところだ。


「そうですね。私の神様は知恵の神様なので、神通力を使って、その知恵をお借りするのです」

「特殊陰陽ってやつですかぁ?」

「その通りです。分かってきましたね」


 タライとか言う鼻たれ坊主は、質問の答えが返ってくると、ただ黙って手を降ろし、そのまま鼻をすすった。――その様子が、少しドヤっているように見えて腹が立つ。


「まあ、説明ばかりしていてもアレなので、今から皆さんには、“纏いまとい”を行ってもらいます」


 ――――纏いとは、まさに神霊をこの身に纏う事。祝詞を奏上すると起きる現象で、私の口調が変わるのも、その副作用だと思われる。


「いいですか? 纏うだけで、まだ神通力は使っていけませんからね」

「はーい」


 一年は声を揃えて返事をすると、各々が祝詞を奏上し始める。だが中には、その工程を飛ばして纏いをする者もいた。

 …………確か、祝詞を奏上しなくても、神通力が使える種族がいるんだっけ?


「ふるべ、ゆらゆらと、ふるべ」


 ――――などと考えながら、最後の一節を読み上げる。すると私の身体が、と言うよりも、私の精神が深く宙へと引きずり込まれる。


「どうじゃ? 榮鳳官学は」


 真っ白な世界。本当に何もない、ただただ白紙の世界。そこで私はアマハル様と話す。

 心に渦巻く、一切の不安を消し去ってくれるような声。陽だまりのように暖かく、日光のように芯のある声だ。


「まあ色々問題もありましたが、楽しいですよ」


 真っ白な精神空間。いつもなら祝詞を奏上すると、そのまま纏いに入るのだが、神と神使の両者が話したいと思った時は、この世界に飛ばされる。


「そうかそうか」

 と満足げに笑うアマハル様。相変わらず二十代の様な風貌だが、綺麗な黄金色の髪に、美しく輝く装飾は、やはり神々しさを感じる。


「ところで、何でカナビコが官学にいるんです?」

「あ、ああ。それは、ひふみのサポートと言うか、何というかバックアップ的なだな」


 彼女は最近、横文字を使う事にハマっている。どれも私が教えているのだが、正直大変だ。


「へー。なんか他の理由もあるんじゃないんですか?」

「ある訳ないでしょ! 私はひふみの事を、いの一番に考えているから」


 これも最近分かった事なのだが、アマハル様は自身の一人称で悩んでいる。本当はもっとラフに生きたいのだとか。正直どっちでもいいと思ってる。


「本当ですかあ?」


 最高神が私の事を一番に考えている。その事実はこの上なく嬉しい。だが私は、少し意地悪くそう言う。


「本当じゃ! 余を疑うでない!」


 ――――プイと顔を背けるアマハル様。


「ところで、官学の学長と副学長は神様みたいですけど、どんな神様なんですか?」

「ああ、ズイエンとシロギの事か」


 すらすらと名前が出てくるあたり、どうやらその二柱と、まったく関りが無いわけではないようだ。


「なんかカナビコの仕事仲間だったって聞きましたけど」

「うむ、ズイエンは昔、我が先鉾さきほこの一柱だったのじゃ」


 初めて知る事実に、私は驚きを隠せなかった。まあ、よくよく考えれば分かる事だったのだが……。


「ええ!? なんでそんな神様が学長に」

「うむ、ズイエンは戦がめっぽう強かったから先鉾にしたのだが、ある日突然、子供たちに勉強を教えたいと言い出してな。……まあ、それから色々あってのう、ズイエンは官学へと移ったのじゃ」


 ふわふわと空中に漂い、感情豊かにジェスチャーを交えながら話す大神。どうやら色々苦労が絶えなかったようだ。


「へえ。シロギ副学長はどんな神様なんですか?」

「あ奴はただのクズじゃ」 

 ――――即答。

「…………え?」

「お酒大好き、女神大好き、賭博大好き、財布も緩いし…………」


 次々と立ち上がるアマハル様の指。こっちはこっちでまた色々あるようだ。


「ああ、なるほど」

「だがズイエンの奴が、シロギを副学長に推したのだ。恐らく奴にも、何か見込みがあるんだろうね」


 シロギ先生がクズなのは、なんとなく分かっていた。癖のある髪に、女物の様な派手な着物。そしてキラキラと着飾る装飾を見れば瞭然だった。ぜったい遊び人だと。


「まあ、ロリコンではないから安心しろ」

「そういう問題じゃない気がします」

 教師としてどうなのかという問題だ。


「それで、聞きたいことはそれだけ?」


 シロギの話題が終わると、アマハル様の眉間にあったシワは無くなり、再び彼女の表情に微笑みが戻った。しかしそれも束の間。


「あ。そう言えば契りを交わせる神様って、一柱だけじゃないんですか?」

「…………なんだと?」


 何か不味い事を聞いてしまったのか、アマハル様は視線を落とすと、寒さに震える子犬のように、その双肩を不刻みに震わせる。


「私だけでは、不満か?」

「え?」

「ひふみは、余だけでは不満なのか?」

 ――――ズッキュゥゥゥン。

 目を潤わせながら、今にも泣きそうな顔で私を見つめるその姿は、女の私でも色気を覚えるほどの可憐さだった。


「いやいやいや、気になっただけですって」

「本当か?」

「本当ですって」

「…………そうか」


 その言葉に安心したのか、アマハル様はため息を吐く。もしかして私は、地雷を踏んでしまったのだろうか?


「まあ、基本的には一柱だけど、その神様がオッケーすれば、もう一柱と契約することも出来るぞ」

「へえ。ちなみにアマハル様は許可してくれますか?」

「え、ええ? いや、それはケースバイケースというか。まあ、その時の状況を見てじゃな…………」


 面白くなさそうに視線を泳がせる大神。

 ――これは私が意地悪かったかもしれない。誰しもそんなことを言われれば、自分に不備があるのではないかと不安になる。


「そうだ、あと一つ聞いてもいいですか?」

「なんじゃ?」

「結界を張ることが出来る神様って、知ってますか?」

「…………え?」


 これまでフワフワと定まらない豊かな表情だったが、この質問をした瞬間、彼女の顔つきは一気に引き締まった。


「いや、だから結界を張る…………」

「――――おらぬぞ」


 取ったカルタを奪うように、私の言葉に否定を被せるアマハル様。しかしその表情は依然として曇ったままだ。


「いや、おるにはおるのだが、今は天都にも葦原にもおらぬ」

「どういう事ですか?」

「なに、今となっては昔話じゃ。じゃあ、まだまだ仕事があるから、私はここで落ちるね」


 そう言って彼女は、口元を少し綻ばせながら、まるでチャットを終わらせるようにこの会話を終わらせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ