表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第二章 不死の呪いと死なずの少女
81/202

最初の晩餐

 入学初日の夜、一年生の女子は寮に案内され、各々が自らの部屋へと入室した。

 しかし他の生徒が四人で一部屋を共有する一方で、白菊の私とヒスイは、各個室へと案内されていたのだった。


「やば……。広すぎでしょ」


 ――――高級旅館のスイートクラスの様な12畳(行ったことは無いが)。網目細やかな縁なし畳がシームレスに敷かれ、さらに自分の顔が映るほど磨かれた机にふかふかの座布団。極めつきは、障子戸を開ければ一望できる満開の桜桜桜だ。


「あははは! ビバ紋様羽織もんようばおり!」


 フローリングのように滑らかな畳。そして心安らぐ和の匂い。どれ一つ取っても、これほど洗練された空間は無いだろう。


「うふふふ。あははは」


 一人きりの空間というのはやはり落ち着くものだ。初日のストレスが全部消し飛ぶほどである。


「んんんーんーんんー」


 鼻歌を歌いながら急須に茶葉を入れ、よく分からない石の上で沸かしたお湯を注ぐ。そして一人暮らしとはこういう物なのかと想像を膨らませながら、私はこの空間を満喫する。

 ――――するとトントンと、誰かが部屋の襖をノックする。


「ソウちゃん! ご飯食べに行こー」


 襖を開けると、私の視線の下でユハンがウキウキとした表情で立っており、さらにその後ろにはヒスイもいた。


「ご飯?」

「ソウ、もしかしてアナタ聞いてなかったの?」


 呆れた表情で腕を組むヒスイ。しかし紋様羽織が様になっている。などと感想を抱きながら、私は思い出す。

 ――そういえば、副学長が説明の時何か言ってなあ。


「ごめん。なんだっけ」

「はぇえ。ソウちゃん頭いいけど、人の話聞かないんだねえ」


 グサ。可愛い顔してハッキリもの言うなこの子は。


「もう。この時間からは大広間でご飯が出されてるの」


 ニコニコと笑うユハンとは反対に、呆れて物言えぬといった表情でため息を吐くヒスイ。――父様母様、私にも友が出来ましたよ。


「そうそう! そうだった。じゃあ行こっか」

「ちょっと、羽織は?」

 

 どこか嬉しい気持ちを弾ませながら部屋を出ようとすると、ヒスイが私を止めた。


「あ、外出るときは羽織らないと駄目なんだっけ」

「そうだよ。学年を区別するためのものだからねぇ」


 そうして綺麗に畳んでおいた羽織を着こみ、私達は大広間へと向かった。ちなみに寮は頂院のすぐそばにあるので、徒歩十分くらいで大広間には着く。


「はえぇ。良い匂いしてきたあ」

「おお。確かに」


 ユハンの言葉に嗅覚を研ぎ澄ませると、確かに大広間の方から明かりと共に食欲沸き起こる匂いが香る。


 食事時は常時開放されている大扉。その自由に出入り可能になっている扉を抜け、私達は大広間へと足を入れる。


「あれ、昼間は畳敷きだったのに」


 全校集会の時とは違い、ゾウリのままでも入れる広間。しかも座布団ではなく椅子と長机になっている。


「はぇえ。いつの間に」

「多分、先生方の神通力で替えたんだと思うわ」

「なるほど、そういうことか」


 ――そして私はその光景に目を輝かせる。

 バイキングのように並ぶ食べ物は広間を囲い、たくさんの生徒が談笑している様は胸を躍らせる。


「よーし。食べるぞお」

「はいはい君たち、食事代を貰うよ」


 腹の虫を鳴かせて意気込んでいる私に、突如横から突き刺さる声。視線を移すと、そこには紅羽織の六年生が受付をしていた。


「え?」

 ――――金取るの!?


「昼食と違って、夕食は自由だからね。ちなみに白菊は千楽で、そっちの一年生は千五百楽ね」


 なるほど。昼間は給食で、夜は学食って訳か。

「千楽、千楽」


 私は袂からガマ口財布を取り出し、千楽硬貨を上級生に渡した。ちなみにこの財布も空間の神様が作った物なので、駕籠同様、キャパはエグい事になっている。


「あなた達、ここは私にお任せなさい」


 そして私の財布は潤っていた。なぜなら、それは寮に入る際に貰った白菊特権の二十万楽があるからだ。


「いらないわ。私だって激励金貰ってるんだから」

「じゃあユハンの分は私が払おう」

「えぇえ。いいよお。私もお父さんからお小遣い貰ってるから」


 なんて、なんていい子たちなんだ。まだこんなに小さいのに。

 ――――そうして私たちは席を確保した後、各々が料理を取りに繰り出した。


「こっちが野菜で、あっちが肉か。お、揚げ物もある」


 確かに和食しかないが、それでも机の上はバラエティに富んでいた。しかしこれ全てが食べ放題なのだから困ったものだ。


「ユキメ先生。良ければ私とご一緒しませんか?」


 ここで聞き覚えのある名前が聞こえてくる。声の方を向くと、男教師に言い寄られ、困った様に眉根を吊り上げるユキメがいた。

 ――まずい。ユキメが口説かれている!

 私はすぐさま救助に向かった。


「先生! 私、龍人のユキメ先生に聞きたいことがあるんですけど」

「っはあぁ! ソウ様!」


 涙で目を輝かせるユキメは、これまで聞いたことの無い声を出しながら私を抱き上げた。


「ああ! お会いしとうございました!」


 ――いや、今朝別れたばかりでしょ。

 まるで百年ぶりに会うかのように泣きじゃくるユキメ。しかしこれはこれで困った。かなり目立っている。


「ユキメ、一旦外に出よ」


 正直私ももっと喜びたいのだが、しかし私は我慢して彼女の耳元でそう囁いた。


「何故ですか?」

「言いたいことが一杯あるから」


 …………そして私たちは広間の外へと出ると、人目の一番少ない隅っこの方で再開を祝す。


「ユキメ! ユキメぇ」


 彼女のお腹に顔を埋める。話したいことはたくさんあるが、今はこれで良し。


「ああ、ソウ様。このユキメ、心細うございましたよ!」


 そうしてしばらく抱き合い、私は彼女の存在に癒されに癒された。知らない人ばかりの中、こうやって親しい人と会うと本当に心強い。


「…………ところで、何でユキメが官学に?」


 涙なみだの再会も、ひと段落したところで私は問うた。


「ふふふ。実はソウ様との武鞭の間、私も教職資格を取っていたのです」


 初めて私にドヤ顔を見せるユキメだが、かなり可愛い。


「えっ。いつの間にそんなことを」


 武鞭は朝早くから夕刻くらいまでやっていたはず。まさかその後にずっと勉強してたと言うのか。


「ええ! ソウ様の為ならこのユキメ、神様にだってなりますよ」


 そんな滅茶苦茶な事を言っているユキメだが、次の瞬間に訪れたもう一つの声に、状況はもっと滅茶苦茶な事になる。


「――――ソウゥゥゥゥゥゥウ!」


 遠くの方から近づいて来る聞き覚えのある声。この声は間違いない。


「会いたかったぞぉぉ!」


 こちらに目掛けて一直線。ただ遮二無二に走ってくる一つの人影。この感じは間違いない。

 ――――兄だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ