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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第二章 不死の呪いと死なずの少女
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榮鳳官学入門 少女よ、大志を抱け④

 ――――これは今から十年ほど前の出来事。


 私の元に一通の文が届いた。それは榮鳳えいほう官学からの案内が書かれた手紙で、私に入学試験を受けてもらいたいとのことだった。


 …………そうして難なく筆記試験を合格した私は、二次試験を受けるために会場へ赴いていた。


「今回晴れて記述式試験を合格した諸君らには、今から二次試験“演技”を受けてもらいます」


 ――演技!? そんな試験内容があったなんて知らないぞ。


 その時の私は、本当にただ演技をする試験だと思っていた。しかし実際の意味は、自らの技や精神力を発揮するための、いわばデモンストレーションを行う試験だった。


「この試験は諸君らの心技体を量るものであり、この二次試験の合否を見極める大切な試験です。是非とも尽力致してください」


 そうして始まった二次試験。五百人程の受験生が五つのグループに別れ、それぞれが演技に臨んだ。


「それでは先ずは、皆さんの剣術を見ます。目の前の竹を好きなように落としてください」


 顔は覚えていないが、女の試験官にそう言われた私達は、なんらかの神通力で無限に生えてくる竹を各々が斬った。


「刀ってどう使ってもいいんですか?」


 その中で私は試験官に問う。


「はい。案内にあった通り、持参した刀であれば、()()()()使()()()が許されてます」

「有難うございます!」


 私は心の奥でほくそ笑む。皆が頑張って柄を握っているというのに、私は龍血でチーティングなのだから。

 

 そうして私は天叢雲斬アメノムラクモを抜いた。

 ちなみにその試験は、あくまでも剣術を見る試験。なので龍血などの種族能力は許されていない。

 …………しかし。


「トマトを斬る感覚。トマトを斬る感覚……」


 私は脳内で強くイメージをした。刀は力任せではなく、力を乗せて斬るのだと。そうして私は柄に血を染みこませる。


「払い切り!」

 

 叢雲は一文字を書くように五本の竹を切り払った。それもたったの一太刀で。


「ひええ。やっぱ凄い切れ味だな」


 この大太刀はまさに岩をも一刀するほどの威力を持つ。それなのに綿菓子のように軽いので、ある程度の龍血を染みこませれば簡単に扱えた。


「――おい! 能力を使う事は禁止されてんだぞ!」


 隣にいた受験生の男児が声を尖らせる。だから私は言い返してやった。もちろん優しく。


「持参した刀は自由に使っていいんですよ?」

「だからってこれは許されないだろ! 先生に言ってやる!」


 そう言って男児はビシッと手を挙げ、その大声で試験官を呼んだ。


「すいません! こいつ能力で刀を浮かせて切ってました!」

「言われた通りに刀を使ったまでです!」


 男児に呼ばれた男の試験官は、困った表情で眉をひそめた。


「竹はまだ切ってないように見えるけど…………」


 天叢雲斬が斬った竹は依然として一本の形を保ったままだった。しかし、試験官がそれに触れた瞬間、竹は机上に立てられた鉛筆のように倒れる。


「うーん。ちょっと他の先生方に聞いて来るから、君はそのまま待ってて」


 竹の切り口をまじまじと眺めた後、試験官はそう言って姿を消した。――――このとき私は落ちたと思い、密かに身を震わせたのは内緒の話。


「お前、絶対落ちたな」


 どこかご満悦な様子で私に笑みを向ける男児。しかしその笑みも、次の瞬間には豆鉄砲を喰らったように一変した。


「うーむ」


 先ほどの試験官に連れられてきた別の試験官。彼は課題に行き詰ったような顔をしながら考え、一つの結論を出す。


「これは追加試験じゃのう」


 ――――やっちまった。


 そうして私にだけ課された追加試験。その内容は、試験官一人と剣術勝負をすることだった。――しかし能力は無制限の使用を許可され、おまけに相手は今にも死にそうな老人。


「ワシの剣戟に耐えることが出来たら、お主を問答無用で合格にしんぜよう」

「お、お願いします」


 それだけ? 私だけ難易度低すぎだろ。てかめっちゃ見られてるし。


 私の追加試験を一目見ようと、自身の試験を放って見学しに来る受験生たち。それに加え、試験官たちも物珍しそうにこちらを眺めていた。


「お主から始めてよいぞ。ふぉふぉふぉ」


 ――天叢雲斬は危険すぎる。最悪このおじいちゃんも殺しかねない。


天羽羽斬アメノハバキリ


 背中の刀は抜かず、私は龍血で一本の刀を造る。


「龍人と対するのは久方ぶりじゃのう」


 もういつお迎えが来てもおかしくないような老人。腰は曲がり足は震えている。そんな彼を斬るのは億劫だった。


「本当に大丈夫ですか? 怪我しても知りませんからね」

「いいから早よ来んかい」


 私を挑発するように指を曲げる老人。しかし彼は明後日の方向を向いている。


「いや、私そっちじゃないですよ」

 ――いやもう知らん! 言い出したのはおじいの方だ。私は全力で行かせてもらう。


「ふぉふぉふぉ。そっちじゃったか…………」

「――――払い切りッ!」


 逝った。刀を振った時、私は完全にそう思った。しかし。


「ふぉふぉ。よい刀さばきじゃ」


 老人は血刀の一振りを完璧に躱していた。それどころか、そのまま私の方へと邁進。手にはいつ抜いたのか分からない白銀の刀。


「一刀」


 ――――瞬間、私の鼻先を刀がかする。


「あぶなっ」


 本当に危なかったッ。ぎりぎりだが見えた。しかし次は分からない!


「千斬り!」


 振り子のように空を舞う血刀。手加減はしていない。私は完全に斬る覚悟で刀を振り下ろしている。


「ふぉふぉふぉ。面白い動きをするのお」


 しかし老人は自在に体を動かしこれを避ける。後転に宙がえり、さらに空中でひねり技。その様は体操選手さながらだ。


「運動神経エグすぎだろ」


 先ほどのヨボヨボからは想像もできない動き。

 ――しかし距離は大分取れた。龍血は近接戦闘が苦手。出来ればそれは避けたいのだ。


「乱斬り!」


 規則正しい千切りとは違い、まさに狂い踊る乱舞のような技。


「ふぉっふぉ。これは少し激しいのお。やはり若い娘は元気がある」


 若干のセクハラ発言に気が緩むが、このまま押せば斬れる。


「悪けどおじいちゃん。そろそろ迎えの時間だよ!」


 羽羽斬ハバキリの乱斬りを、文字通り踊るように回避する老人。しかも全て紙一重の所で避け、無駄な体力を使わないようにしている。


「天叢雲斬…………」


 背中の太刀を両手で握る。

 ――続いて集中。この技はまさに一撃必殺。当たれば必死の大技だ。


「抜刀……ッ!」


 抜刀術は刹那の斬撃。故に龍血によるコントロールが難しく、私自身が直接微調整をする必要がある。


「――――――山卸やまおろしッ!」


 まさに山を描くように振り下ろす上段。天羽羽斬の乱撃から逃れ続ける老人に、私はトドメの一手を打った。

 …………しかし。


「外した!?」

「そんな大技が、当たるはずなかろうて」


 骨の髄まで侵すような殺気。その歪な気配は、老人の下段蹴りから放たれていた。


「…………ッ。守れ!」


 咄嗟に天羽羽斬を戻し、それを地面に突き刺す。


「器用じゃのおっ」


 血刀の戻りが早かったお陰で、なんとか足払いを防ぐことに成功。


血憤怒ちのいかり!」


 突き刺さった血刀を地面に溶かし、今度はその血を剣山のように展開する。

 ――――しかしこれすらも宙返りで躱す老人。ワイヤーでも付いてるのではと疑いたくなるほどのムーブだ。


「応用も出来るか。やるじゃねえか!」

 

 ――おじいちゃん口調変わってますけど! だがここで空中に飛んだのは失敗だ。


「天羽羽斬」


 私はもう一度血刀を作り出す。

 ――――血が足りない。恐らく龍血はこれで最後。


「弐舞・飾り斬り!」


 私の二振りが、地面を裂きながら十字を書くように老人を斬り上げる。


「二刀」


 しかし老人は、いつの間にか抜いた二本目の刀でこれを受ける。それでも空中では耐えきれず、彼はそのまま吹っ飛ばされた。


 ――――チェックッ!

「納刀!」


 鞘に戻る叢雲ムラクモ。――――そして。


「抜刀。迅雷じんらいッ」


 オクダカの電光石火を真似た一突き。瞬間移動とまでは行かないが、速度は山卸やまおろしを遥かに上回る。

 しかし…………。


「伝達、渡り鳥わたりどり

「えっ!」


 見えない力によって後方へ吹き飛ばされる私。風に飛ばされるとか、蹴りを入れられたとかそんなレベルではない。


 ――神通力!? 祝詞も奏上してないのに!

 普通に唱えれば一分はかかる祝詞。しかし老人はその素振りすら見せていなかった。


「我汝に命ず。主の元へと戻り、良しの言葉を待て」


 老人はなにやら二振りに囁く。――――すると、血刀はただの血に戻り、叢雲は背中の鞘に収まった。


「なんだ!?」


 状況が分からず混乱。そして目の前には太陽を背にする老人。――――終わったと思った。


「ふぉふぉ。よい果し合いじゃったぞ娘」


 しかし彼は、尻もちをつく私に手を差し伸べた。勝ち負けではない。私は合格したのだ。


()()()。お怪我はありませんか?」

「ふぉふぉ。わしは大丈夫じゃから、あっちの龍人を頼む」


 そうして他の試験官が寄ってくる。そして彼、彼女らは私の体をくまなくチェックした後、再び試験へと戻っていった。


「龍人の子よ。よい奮戦であった。ふぉっふぉ」


 ――――そうして老人試験官との追加試験を終えた私は、その後も他の試験を受け、今に至るのである。


 

 そうしてあの日の試験の事を振り返りながら私は思い出す。

 そういえばあのお爺ちゃんも、確か副学長って呼ばれてたっけ。あれ…………?


 私の中で歯車が合致する。あの呆け顔のシロギ副学長は、最初上級生に化けていた。という事は…………。


「あの時の、おじいちゃん?」

「やあっとで気付いたか」


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