榮鳳官学入門 少女よ、大志を抱け③
「すっげえ可愛くなかった? エト先生!」
「な! やっぱ龍人族って綺麗な人が多いんだな」
テンションが上がりまくる男子たち。ユキメに加え、ミウ先生も美人と来た。私も男だったら間違いなく舞い上がっていただろう。
「では、新入生には榮鳳官学の大まかな行事を説明しますね」
そう言ってズイエン学長は大きな布を宙に浮かせた。その年季の入った垂れ幕の様な布には、なにやら滲んだ文字がびっしりと書き込まれている。
「まずあなた達が一番最初に行うのが、門分けです」
――――クラス分けって事か? 意外と在り来たりだな。
「門分けとは、あなた達一人一人の適性を計って、各々に合った門下に入ってもらう単純なものです」
ズイエンは長い木の棒を使い、丁寧かつざっくりと説明をする。そしてキューのような棒は次の項目へ移る。
「そして次が、二年後に控えた競闘遊戯会です」
「競い遊び? なんだそれ」
聞いたことの無い行事に思わず言葉が出てしまう。だがそれもズイエンが説明する。
「これは全学年対抗で行なう行事で、皆さんがこれまでに培った“武”で競い合う伝統ある行事です」
――武で競い合う……。運動会みたいなものか?
「これは三組に分かれて行うので、皆さんも今隣にいる人と戦う事になるかもしれません。ですが、これは由緒正しき行事です。くれぐれも馬鹿な真似はしないでくださいね」
彼女はシワの目立つ口を酸っぱくして体裁を保つが、それでもどこか熱が入った様に目を輝かせる。
「もちろん規定を破る生徒には、しっかりとお仕置きが待っていますので。気を付けてくださいね」
「はーい」
全員が声をそろえる。どうやら大半の一年はこれを楽しみにしている様だ。
「それからもいくつか行事はありますが、あと紹介すべき大きな行事は榮鳳祭ですね」
――――まさか。これはいわゆる文化祭と言うやつなのでは!
「これは、この学校を創立した神々お祭りする行事です。夜遅くまで執り行われますが、決して羽目は外さぬように」
来た来た来た! 私が夢にまで見た共学の文化祭! これは楽しみすぎる!
そうして、発売前のゲームを待ちかねるような気分を味わいながら、次々と説明される学校行事に、私はさらに胸を高鳴らせる。
「…………とまあ、これくらいですね。残りを全部説明していると一日が終わってしまうので、あとは各自先生方に聞いてください」
説明が始まって十分ほど経ち、横断幕のような布にはまだまだ文字が羅列しているが、彼女は一息吐いてここで説明を終わらせた。
「さあ、それでは皆さん。この榮鳳官学での六十年を、一生に残るような良いものにしましょうね。それじゃあシロギ。あとはお願いしますね」
おおお。ワクワクさせてくれぜ!
「頑張ろうねウヅキ」
「もちろんだよ」
そうして私たちは一つの熱い気持ちを抑えながら、副学長シロギの次の言葉を待つ。
「……はぁい、皆さんお静かにい」
しかし煮えたぎるような私たちとは裏腹に、シロギ副学長は相変わらずの呆け面で手を叩く。
「それじゃあ、新入生の君たちには、一年生の証である橙色の羽織を着てもらう」
そう言ってシロギは一枚の羽織を放り、それを宙に浮かせる。やはり学年ごとに羽織の色は別らしい。
「先ずはお前からだ。龍人ソウ・ヨウ」
宙に浮いた羽織が私の元へと飛んでくる。なぜ私が一番なのか分からないが、その一枚は私の眼前で滞空。
「え、私から?」
「ああ。お前は今回の入学試験を首席で合格している。そういった生徒には、代々特別な羽織が渡されるんだ」
騒めきだす一年たち。実際私も、自分が首席で入学試験をクリアしていた事実を今知ったのだ。
「え! あなたが首席だったの?」
絵に描いたように驚くヒスイ。それどころか他の生徒たちも皆一様に同じ表情をしている。
「流石ソウ様。やっぱ凄いよ」
「はえぇ。ソウちゃん頭いいんだねえ」
――まあそれもそうかもしれない。何せ私は、現代の名門高校に滑り込みセーフで合格するほどの努力家なのだから。
「ま、まあねえ!」
ニヤけずにはいられない。そもそもこの官学の入学試験は、例えるなら中学生の低学年レベル。武鞭のおかげで、実技テストも楽勝だった。
しかし思い出す。――確かに入学試験は楽だったが、その際不正を働いた私には、キツイ追加試験があったのだから。
…………あのお爺ちゃん試験官は、今頃どうしているのだろうか。




