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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第二章 不死の呪いと死なずの少女
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噂の新入生 4

「あそこにしよ!」

「そうね! 丁度良さそうだわ!」


 私達は一年ゾーンの丁度真ん中あたりの座布団に、お互い机を挟むように座る。


「なんかワクワクするね、ソウ」


 足を組んで座る私とは裏腹に、ヒスイは綺麗な正座をして、辺りを見回しながら言う。果たして、どれだけの時間を正座で耐えられるか見ものだ。


「――――そうだね」


 ヒスイは窓際で、私はその反対に座り、お互い鼓動を激しくさせる。


「あ、ユハン! こっちこっち!」


 ここで私は、ぞろぞろと入室する新入生の中からユハンを見つけると、手を上げて彼女を呼んだ。


「はえぇ。山の中にこんな広い空間があるなんて驚きだよ」


 ユハンは座布団に座るや否や、声を震わせながらそう言った。しかしそれでも、彼女の表情は遊園地にでも来たかのようにワクワクしている。


「私は国羊族のヒスイよ。よろしくね」


 後から入って来たユハンも、私たち同様きょろきょろと視線をあちこちに移している。そしてそんな彼女にヒスイは握手を求めた。


「わ、わえは龍人族のユハンと言います。よろしく」


 小学生くらいの小さな子供たちが、笑顔で握手を交わしている。控えめに言って尊い。


「ねえねえ、ユハンとソウは同じ場所から来たの?」


 大広間の空気に慣れ、少し落ち着きを取り戻した辺りでヒスイは私たちに聞く。


「そうだよ。ユハンとはさっき会ったばかりなんだ」

「うんうん。わえらは天千陽あめのちはるから来たんだよ」


 その言葉を聞いて、ヒスイは再び目を大きく開いた。


「天千陽かあ。ほとんど天界だって聞いたけど、きっと綺麗な所なんだろうなあ」

「はえぇ。そんなことないよ。何もない田舎だし。ね、ソウちゃん」


 これはユハンの謙遜でも何でもない。ただの事実である。


「そうそう。西ノ宮に比べたら小さい田舎だよ」


 などと、私たち三人は机を挟んで女子トークに花を咲かせる。他の子どもたちも数人でグループを作って談笑しており、まるでパーティでもしているような賑やかさだ。


「おい! 白兎族はこっち来るなよな!」


 そんな穏やかな空気の中、一つの尖った声が私の耳に飛び込んで来た。


「貧乏がこっちにまで移っちまうぜ」


 声の方へ目を向けると、一人のうさ耳女子がおろおろと立ちすくむ姿が目に付いた。


「種族とか別に関係ないのに。男の子って本当に子どもだよね」


 生真面目なヒスイは、少し眉をひそめながらつぶやく。隣に座るユハンも共感しているように頷いている。


「そこの白兎族さん! こっち空いてるよ!」


 だから私は、うさ耳女子に助け船を出すように声を上げた。すると数人の生徒が驚いたようにこちらを見るが、別にそんなのは関係ない。


「こっちだよー」


 ユハンも小さく手を振りながら白兎の彼女に言葉をかける。大変いい子である。


「あ、ありがとう」


 白いうさ耳の子は俯きながらこちらへ来ると、そう言いながら静かに席に着いた。しかしこの子、どこかで見たことがある。


「あれ、もしかしてソウ様?」


 やはり私は彼に見覚えがあった。


「え、ウヅキ!?」


 なんということか、私が白兎族の女子だと思っていたのは、紛れもない私の友達のウヅキだった。


「久しぶりウヅキ! あなたも榮鳳えいほう官学に来たんだ!」

「うん! でもまさかこんな所で会うなんてね」


 全くその通りだ。榮鳳官学は難関。武鞭を行った龍人ですら門の前で蹴られることがある。それなのに、ウヅキは自力でここに入学したのだろうか。


「あなたたち知り合いなの?」


 いつぶりかも分からない私たちの再会。これを邪魔しないタイミングでヒスイが口を開いた。


「うん。彼は白兎族のウヅキって言うんだ」

「え、男の子!?」


 ヒスイとユハンはかなり驚いた表情で声を張る。しかしそう思うのも不思議ではない。白銀のおかっぱヘアに、このうさ耳。それに加え、声はまだまだ甲高い。


「そ、そうだよ。よろしくね」


 しかしウヅキも身長が伸びた。それでもかなり小さいが。


「わえはユハンだよ。ソウちゃんと同じ龍人族なんだ!」


 そう言って二人は握手を交わす。


「わ、私は国羊族のヒスイよ。よろしく」


 しかしヒスイの挨拶はどこか少しぎこちない。差し出した手も少し震えているように見える。


「よろしくね」


 そうしてヒスイとウヅキも握手を交わした。白い手と浅黒い手。こうして見ると二人の肌色の違いが結構目立つ。


「はいはーい! 皆さんお静かに!」


 先ほどの紅羽織の上級生が手を叩く。しかし新入生たちはワイワイと自由気ままに談笑。


「はー―――――い! お静かにぃッ!」


 ――――その一声に、朝方の小鳥の様にうるさかった声が一瞬にして静まり返る。

 まるで拡声器でも使ったかのようなシロギの声。よく見るとその手には、一枚の葉っぱが乗っていた。


「ゴホン! えー、皆さん。初めての学院生活でお喋りしたくなる気持ちは分かります」


 少し気まずそうに咳払いをしたシロギは、羽織の袂に葉っぱをしまい込んで言葉を続ける。


「ですが君たちはもう、この栄えある榮鳳官学の生徒なのです。くれぐれもその事を忘れないように」


 シロギはそれだけ言うと、しんとした広間に満足げな表情を浮かべ、その場を後にした。


「ねえ。このままここにいればいいのかな?」


 ユハンが呟くように私たちに問う。


「いいんじゃない? 何も言われなかったし」


 私がそう返すと、ユハンは「そっか」と言わんばかりの表情で頷く。


「他の上級生は来ていないみたいだけど」


 会場を満たす騒めきに乗じて、ヒスイもヒソヒソと口を開く。この悪い事をしているような感じが少し楽しい。


「そうだよね。なんか…………」


 ――――と、ここで私の言葉を遮るように、入り口の大扉が重苦しい悲鳴を上げながら開き始める。


「二年生! 入館!」


 一番先頭にいた男子生徒が声を張り上げる。するとその後ろから続々と私たちの方へ歩いて来る生徒たち。明るい紺色の羽織に身を包んでおり、その規律ある動きには迫力を感じる。


 そうして二年生は、一言も言葉を発さずに、私たちと同じ列に各々座り始める。


「三年生! 入館!」


 再び扉のほうから女子生徒の声が響いて来る。今度は淡い黄色の羽織を着た生徒たちだ。どうやら学年で色分けされているらしい。


 そうして四年生、五年生、六年生と入館を果たし、おおよそ六百人。恐らくこれで、官学の全生徒が一堂に会した。


「先生方が入られます! 一同起立!」


 シロギの言葉に一斉に立ち上がる生徒たち。私達一年生も少しおぼつかないが全員が腰を上げた。


 そうして全校生徒が中央の通路の方へ体を向ける。恐らく教師が入ってくるのだろうが、まるで結婚式の様だ。


「な、なんか、ドキドキするね」


 ウヅキは苦い物でも食べたような顔で私を見上げる。確かにコレは少し緊張感がある。


 ――――そうして入館する黒羽織の教師たち。その威風堂々たる様は、まさに教師の風格を強く表している。


「一同、着座!」


 再び号令がかかり、全員は座布団の上に正座をした。


 一年生以外は慣れた様子で全てをこなすが、やはり私たちはどこかぎこちない。それはそれで可愛いのだが。

 

 ――――そうして教師たちは、最前列に位置する一段上がったステージのような場所に座ると、一人の女老教師が周りの先生に会釈をしながら立ち上がった。


「えー。皆さん、足を楽にしてください」


 老人独特の柔らかい声。真っ黒な羽織に身を包んだ、彼女のその言葉を聞き、足を崩す者と依然として正座を保ったまま二者に別れる。


「えー。この度は、新たな風をこの官学に迎え入れ、その強き風に浮かれる者もおおございましょう」


 静かな声。しかし隅々にまで澄み渡るような通る声。獅子の様な威厳もあるが、鷹のような聡明さも孕んでいる。


「ですが新入生も含め、皆さんはこの榮鳳えいほう官学の顔でもあります。それを各自胸に込め、凛とした姿で学校生活を楽しんでくださいね」


 キツそうな言葉に聞こえるが、顔のシワを深くさせる微笑みは、まさに聖母と言ったイメージが近しい。


「まあ長話も何ですから、先ずは先生方の紹介を致しましょう」


 ――おお。大体こういう話は長くなるが、かなりコンパクトにまとめたな。


「その前に、先ずはわたくしの紹介が先ですね」


 年は七十手前くらいの女老教師。まさに皆のお母さんの様な優しい出で立ちの彼女は、静かにお辞儀をすると言葉を始めた。

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