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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第二章 不死の呪いと死なずの少女
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噂の新入生 3

「この学校にも神様がいるんですか?」


 一人の女の子がビシッと挙手をして葉っぱ人形に質問をする。真面目系の可愛い女子だ。


「いい質問だね。君の言う通り、この学校には二柱の神様と、他には十二人の教員が教鞭を取っているんだ」


「有難うございます!」


 肌は日焼けしたように浅黒く、頭には羊の様な角が生えている女の子。その彼女は綺麗にお辞儀をしてお礼を言った。


「どういたしまして。さあ、他に質問はあるかい?」


 私たちを乗せて移動する石床。速度はエスカレーターよりも少し早い。その風に飛ばされない様、葉っぱ人形達は必死にしがみ付いている。


「はい!」


 今度は違う男児が手を上げる。特徴を上げるなら、背がかなり小さい。初めて会った時のウヅキと同じくらいだ。


「じゃあ、千鼠ちそ族の君」

「この学校の生徒に神様がいると聞いたんですが、それは本当ですか?」


 ……へえ。神様なのに勉強しに来てるのか。

 すると葉っぱ人形が声を高らかに笑う。


「ハハハ! 何を言ってるんだ、いま君たちの前にいる龍人族の彼女がそうだよ」


 思わず私は周りを見渡してしまう。しかし小さな子供たちは、もれなく全員あたしに視線を向けていた。


「君が、神様?」


 そうだった。休業中とはいえ、あたし神様だった。


「あはは……。どうぞよろしく」


 微妙な空気が流れる。

 ――――ごめんなさいね! こんな微妙な神様で!


「すっげえ! 同級生が神様なんてすげえ!」


 千鼠ちそ族と呼ばれていた小さな男児が狂喜乱舞。他の子ども達も、まるで有名人を見るかのように私を見る。


「私、虎珠こず族のカナバって言います。よ、よろしくね!」


 もふもふの耳が生えた女児。彼女が笑って手を差し出して来たので、私も思わずその手を握り返す。すると彼女は何とも嬉しそうな笑顔を見せる。


「僕は千鼠族のマウだよ! よろしく!」


 先ほどの小さな男児が深々とお辞儀。背は小さいが、声は気持ちいいくらい大きい。


「私は国羊こくよう族のヒスイ! 貴女みたいな友達が出来て光栄だわ!」


 先ほどの浅黒い肌の女の子だ。やはり礼儀の正しいしっかりとした子である。


「よろしく。ソウだよ」


 それからも数人と挨拶を交わし、私は序盤にして少し気疲れしてしまう。


「挨拶中悪いけど、皆、左を見てごらん」


 葉っぱ人形が左手にある森を指しながら声を上げる。しかし左方を見ても、目に付くのは桜だけだ。


「もうそろそろだよ!」


 ――――瞬間、ぎっしりと詰められたように生えていた桜の景色が途切れる。そうして目に入ったのは、どこまで続いているのか分からない建物群。


「すっっご」


 緩やかな山の斜面に建てられた大小様々な建物。ぽつぽつと点のように建てられているが、それぞれが屋根付きの渡り廊下で繋がっている。


「すげえ広い!」


 千鼠族の彼につられ、他の生徒たちも次第に騒めきだす。正直私もかなりテンションが上がっている。


「…………すご」


 私も我慢できず言葉を発する。

 ――――まさにファンタジーだ。桜の木漏れ日がスポットライトの様に所々を照らしており、それがまた美しさを増させている。

 さらに渡り廊下では、生徒達が教科書を抱えながら楽しそうに歩いており、その少し広くなっている場所では、何やら談笑している生徒も見える。


「ここは文学や神学を初めとした座学を行う場所、月城がつじょう院だ」


 風切り音に負けない音量で喋る人形。しかしこれだけの広さなのに、この場所で全部ではないのか。


「あとは武術や騎馬術。ほか様々な行事を行う陽日はるひ院がある」


 なるほど。座学と武術を学ぶ場所で分けられているのね。


「はい!」


 またしても国羊族のヒスイがロケット挙手をする。


「はい、国羊族の君」

「この官学の寮はどこにあるのですか?」


 そうだ。私はこれから四十年間、ここに住むことになるのだ。だから寮の場所は確かに気になる。


「男子寮はこの山の反対側。女子寮はこちら側に位置している。場所はまた後で連れて行って貰えると思うから、その時のお楽しみに」


 反対側とかこちら側とか分かりづらいが、果たしてどちらの方がいいのだろうか。


「さあ! そろそろ学長の待つ教員区、ちょう院に着くから、準備しておいて」


 スタートしてから約五分強。アトラクションに乗っているみたいであっという間だった。これは楽しい。


 ――――そうして石床はゆっくりと着陸。そして私達が降りると同時に再び浮かび上がり、先ほどとは比べ物にならない速度で戻っていった。


「それじゃあ僕とは少しの間お別れだ。他の一年生も直ぐに来ると思うから、もう少しだけ待っててくれ」


 それだけ言うと、葉っぱ人形はただの一枚に舞い戻り、そのままヒラヒラと地面に落ちた。


「あれだけの人数だから、しばらく待ちそうだね」


 思わず私は、隣にいた国羊族のヒスイに話しかけた。


「ええ。でも四半刻も掛らないと思うわ」


 身長は私より少し高いヒスイ。いや、角の分を差し引けば私と同じくらいだろう。


「なんで分かるの?」

「私たちの斜め後方にも、同じように石床に乗ってる神使たちが見えたの。つまりあの石床は二枚あって、それに加えあの速度なら、およそ百名ちょっとの新入生を運ぶのに四半刻もあれば十分だわ」


 ぺらぺらぺらぺらと喋り出すヒスイ。私の方から聞いたのだが、後半は殆ど聞いていなかった。


「そっかあ」

「あたし算術も得意なの。あとは邪学に錬金術。あとは神学も得意なのよ」


 聞いていないことを勝手に喋るヒスイだが、その小さな口を頑張って動かしている様は狂おしいほど愛らしい。


「そうなんだ。じゃあ分からない所があったら、ヒスイに聞くようにするね」

 ――――これは本音だ。それに、彼女とはいい友達になれそうな気がする。可愛いし。


「も、もちろん大歓迎だわ! 私も、困ったことがあったらソウちゃんに聞くね」


 きゃあああああああ。狂おしい! 狂おしいよお!


「あ、あの、ソウちゃん?」


 ヒスイが若干口元を引きつらせながら、私に奇怪な目を向ける。愛しさの余り顔に出てしまってたか?


「ごめんごめん! 何でもない。ちょっと考え事」


 必死の弁解。下手したらウヅキ、ユウヅキと同じリアクションを取られかねない。ここは慎重にならねばるまい。


「ところで、ヒスイちゃんの国羊族って、どんな種族なの?」


 私がそうやって質問を投げると、彼女も物の見事にそれをキャッチする。


「私たちの種族はね、浅黒い肌に、彩色豊かな髪色が特徴なのよ」

「ふーん。ヒスイの髪は暗めの青だけど、他の色をした人もいるって事?」


 まるで美容師に染めて貰ったかのような艶やかな青色は、日の光を浴びると海面のように輝く。これを見ると、私も髪を染めたくなってしまう。


「そうよ。私のお父さんは森の様な緑色だし、お母さんは私と一緒で青い色をしているの」


 羊の様に大きな角。後ろで高く結った髪。前髪は私と同じで子供らしいパッツン。何度も言うが狂おしいほど可愛い。


「いいなあ。私も髪の色変えたい」


 現代人みたいな会話だが、いかんせん、この世界で髪の色を変えるなど無謀に等しい。


「ソウちゃんの黒髪も素敵よ。その白い肌も雪みたいで綺麗」

「うふふ。ありがとう」


 こんなに小っちゃい子に褒められて嬉しい日が来るとは思わなかった。――しかし、小麦の様な肌色でも、袴って意外と合うものだな。


 ――――などとヨダレを垂らしていると、知らない間に人数は結構そろっていた。恐らく次の一便でラストだろう。


「それじゃあ、先に着いた列の者達から順番に付いてきてくれ!」


 上級生シロギにそう促され、一着の私たちが彼の後をついていくと、まるでアリーナのように大きな山にぶち当たる。


「この山の中に、集会や官学行事を行う大広間があるんだ」


 はえー。でっかい扉。

 一棟の家のように大きな扉。その木製の両開き戸には、こまごまとした美しい彫刻細工が施されている。


「中はすごく広いから、きっと驚くと思うよ」


 そう言って彼が扉の前で手をかざすと、ギギギと重たい音をあげながら大扉はひとりでに開門を始める。


 ――――そうして目に飛び込んでくるのは、まるで体育館のような大空間。いや、高さはそこまでだが、広さだけで言えば体育館よりも広い。


 たくさんの障子戸が囲うように設けられており、その全開放された窓からは、風が吹き抜けて心地がいい。


「一年生は左端の窓際だよ」


 畳敷きの大広間にずらりと並べられた分厚い座布団。紺色の生地に金色のふさふさがついており、それがまた高級感をかもし出している。


「一番前から詰めて座ってくれ。君たちの後ろは二年生が座るからね」


 高級旅館の宴会場にありそうな長机。すこし色あせているが、不揃いな木目が少しお洒落さを感じさせる。


 そうして新入生たちはシロギに促され、各々が自由に座布団に腰を下ろす。


「一緒に座ろうぜ!」

「おれ窓際とーった!」

「この座布団すごいふかふかだよ」


 などなど、小さな新入生たちは燥ぎに燥いでいる。


「ねえヒスイ、私達も近くに座ろ」


 一緒になってポカンと口を開けていた国羊族のヒスイに私はそう促す。こういう会話をすると、少し小学生の頃を思い出す。


「いいよ! どこに座る?」


 先ほどまではあまり子供らしくない言動を見せていたヒスイも、この空間を目の前にして心が躍っているのか、キラキラと目を輝かせている。


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