噂の新入生 2
継ぎ接ぎが綺麗にそろった石畳のゆるい上り坂。二、三頭の像なら横一列で歩けるほどの幅で、その真ん中を区切るように灯篭が建ち、おまけに小川が流れている。
――――さらに左右には、咲き荒ぶ桜が通路を挟むように連なっており、それはまさに、森林の中という表現が相応しい。
「どこまで続いてるんだ? これ」
「はええぇ。長い道だぁ」
先ほどの怒りはどこへやら、私とユハンは一瞬にしてその光景に目を奪われる。
――――恐らくこのまま正門に続いているのだろうが、その道は長く、全く先が見えない。
「はいはいお静かに!」
深紅の羽織を羽織った身長の高い男性が、手を叩いて注目を集める。
辺りを見ると、様々な種族が続々と駕籠から降りて来ていた。恐らく今回の新入生だろう。
「えーっと。ひいふうみい」
おいおい、この人数を一人ずつ数えるのか?
前にも後ろにも子供がいるし、しかも微生物みたく動き回っている。これを数えていたら日が暮れるぞ。
「よし! 九四人、全員いるな」
…………分かるのかよ。
「はーい! とりあえず皆さん僕の案内に従って整列してください!」
僕の案内? 何だそれ?
――――と思ったその時、私の右肩に一枚の落ち葉がひらりと乗る。その次の瞬間。
「龍人族、ソウ・ヨウ。ソノママ真ッ直グ歩ク」
「えっ!」
突然右耳から声が聞こえる。しかし振り向いても誰もおらず、他の子たちも私と同じようなリアクションをしている。
「ああ! ごめんごめん! 先ずは自己紹介が必要だね」
再び右側から同じ声が聞こえるが、この声は、あの赤羽織の男の声?
「僕は榮鳳官学六年生のシロギだ」
一体どういう原理なのかは分からないが、まるで百人ほどが、同時に話しているかのように声が重なっている。
――六年生って事は一二〇歳。人間換算で大体十四歳か?
「今君たちの肩に乗っている落ち葉は、“伝達の神”の神通力が宿った物だ。それを通して、僕が君たちを案内する」
再び右肩に目を向ける。
――するとそこでは、まるで人型に切り取られたような青い葉っぱが、こっちだよと言わんばかりに大きく手を振っていた。
「不気味!」
似たような言葉が飛び交う。
「ぶ、不気味!? …………まあ捉え方は人それぞれだ」
そう言って小さな人型葉っぱが感情豊かに動き回る。よくよく見れば可愛いかもしれない。
「さあ、それじゃあ気を取り直して案内を続けるよ! 僕は無駄な時間が嫌いだ。集中してくれ」
爽やかな声を発する葉っぱ人形。口は無いが、一体どこから声を出しているのだろうか。
「龍人族、ソウ・ヨウ。ソノママ真ッ直グ歩ク」
「はい」
思わず返事をしてしまったが、それは皆同じだった。
「ユハンはどっちだって?」
ずっと私の羽織を掴んでいたユハンに、私は声を柔らかくして問う。
「わえは右だって」
可愛らしい細い指をその方向へ向けるユハン。
「そっか。少し離れちゃうけど、またすぐに会おうね」
私がそう言うと、ユハンは表情を明るくさせて頷く。
「おーい君たち、早くしてくれ」
人形が声を張る。怒られているのか分からない声色だが、注意されたことに間違いはない。
「じゃあね」
「うん」
そうして私たちは、お互い手を振って別々の方へ歩き出した。
「次、左ヲ向イテ真ッ直グ歩ク」
この葉っぱ人形は、普通に話すときは感情豊かに喋るのに、道案内をするときはカーナビのように話すから面白い。
「次、右ヲ向イテ真ッ直グ歩ク」
――――次第に人混みが少なくなってくる。
「ココデ止マル」
「はい」
立ち止まると、私は一番左端の最前列に立っていた。ブルっと肩が震える。最前列は苦手なのだ。
…………一番前かあ。こりゃ外れたな。
「よし! 綺麗に揃ったな」
赤羽織の男子学生は、ルービックキューブの色が揃ったかのように満足気な表情でうなずく。
「それじゃあ、一番左の列から順番に歩いて行って!」
「真っ直グ歩ク」
同じ声が別々の方向から聞こえて面白い。
っていうか私が一番じゃん! 緊張するー。
そうして恐る恐る歩き出すと、後ろにいる子供たちも足を進めだす。まるで行進だ。
「ココデ止マル」
あまり速度は気にせず自由に歩いていると、右肩の葉っぱが私にそう促してくる。
「ここで止まるの?」
「シバラク待機」
言われるがままに立ち止まっていると、後ろにいた十人ほどが私の傍に寄り始める。
「どうしたの?」
何がどうなっているのか分からず、私はすぐ隣に立っていた男子に聞いてみる。
「“葉っぱ"に言われたんだ。出来るだけ前に詰めてって」
頭に黒い角が生えた男子。物凄く尖っていて痛そうだが、顔は子供らしい可愛い顔だ。
「ふーん。なんだろ……」
「ねえ、その黒髪と角って。もしかして龍人族?」
男児は物珍しそうに、私の顔や角をまじまじと見る。可愛い顔だから許すが、大人になってそれやったら怒られるぞお。
「そうだよ。君は?」
「僕は牛騎族だよ、よろしくね!」
元気のある清々しい声。子供らしくて大変かわいい。
「よろしくね!」
私も子供らしく挨拶を返してみる。少し恥ずかしいが、小学生に戻ったみたいで楽しい。
――――すると、何の前触れもなく地面が揺れる。
「何だ!?」
「ええ、何々!」
「凄い浮いてるよ!」
などなど、まるで遊園地に来たかのように騒ぎだす子供達。
だがそれもそのはずだ。なぜなら、私達が立っていた石床が急に、綺麗な正方形を保ったまま宙に浮いたのだから。
「すご……。どうなってるんだ?」
私も声を出さずにはいられなかった。
「これは、我が校に住まう神様たちの力だ」
それぞれの肩に乗った葉っぱが各々説明を始める。しかし内容は同じのようだ。
「それじゃあ、先生方のいる頂院に着くまで、この景色を楽しんで。それと、何か質問があれば、僕に遠慮なく聞いてね」
鮫アトラクションのガイド役みたいな喋り方をする葉っぱ。
そしてその言葉が終わると同時に、浮いた石床は、地面を舐めるようにして上り坂を進み始めた。
――――ひえぇ、ワクワクするなぁ!




