転生
龍文書―四
ヨウ家:主人公ソウが産まれた家。父のコウは気が強く、図体が大きい。母のリンは常に困り顔で、かなりの心配症。
まてまて。ここで状況を整理しよう。
――――まず1つ目、悔しい事に私は和風の異世界に転生してしまった。2つ目、頭には角、口からは火炎。見れば分かる、私は人間じゃない。そして3つ目。これが今一番どうしようもない問題だ。お腹空いた。
さて、どうやってこの耐え難い空腹をママパパに伝えよう。……まあ。ここは赤ちゃんらしく泣いてみるか。
「お、おぎゃ。……おぎゃ、あ」
――――カポーン。
中庭の獅子脅しが、一拍おくようにベストなタイミングで鳴り響く。
は、恥ずかしいぃ。何で記憶引き継いでるんだよ。体は0歳でも心は十六だぞ!
「あらまあ。どうしたのかしら」
産後で疲れ果てた表情をしているが、お母さんはすぐさま私の鳴き声に気付く。聞こえていないと思っていたが流石は母親だ。
「もう一回、高い高いしてほしいのかの」
お父さん、あんたは育児を勉強しろ。あとその立派なあご髭、燃やしちゃってごめんね。
「おぎゃあッ!」
――――こうなりゃヤケだ。命に関わる問題、恥ずかしがってはいられない。何事も全力で楽しむ。それが私のモットーだ。
「おっぎゃあッ!」
「リン様。恐らくソウ様は、お腹が空いているのかと思われます」
巫女姿の若い女が、片膝をついてお母さんに言う。
……私の両親、偉い人なのかな。というかよく気付いた巫女。グッジョブ!
「あら、そうだったのね。流石だわユキメ。やはりこの子の教育もあなたに任せようかしら」
おいおいマジか。この齢にして世話役が付くのか。ビバ金持ち! ありがとう閻魔様。あんた悪い奴じゃなかったよ。
「そ、それは勿体のうお言葉。身に余る光栄でございます!」
苦しゅうない、苦しゅうないぞ。
「ふむ。ユキメであれば俺も安心できる。何て言ったって、あの腑抜けた長男坊ですら、今や俺を超える天才となったのだからな」
長男? 私にお兄ちゃんがいるのか。しかしこの美形夫婦から生まれたんだ。さぞイケメンなんだろうなあ。ふふふ。
「恐れ入ります。コウ様にそう言っていただけるのであれば、このユキメ、骨身も惜しまず励むことが出来まする」
頭を深々と下げ、私の両親への忠誠を態度で示す巫女。私は大して偉いこともしていないが、これはこれで面白い。
「うむ。ソウの事もよろしく頼む」
「は。お任せくださいませ」
「しかし、フウの様に何度も家出しなければ良いのだが」
「問題ありません。どうかご安心ください」
父親と何やら神妙に話す侍女ユキメ。少々物騒な話に聞こえなくもないが、まあ正直そこまででもないでしょ。と私は楽観視する。
その証拠に、お母さんも着物の袖を口に当てて笑っている。しかし、本当にドラマみたいな笑い方をするんだな。
――――と、そんなこんなで、私の異世界物語は幕を開けることとなるのだが、正直モチベーションは上がらない。その訳を話すと、ここまでの出来事は全て、今から三十年前のお話だからだ。
現在のあたし。名前はソウ。苗字はヨウ。年齢は三十歳。精神年齢は四十六歳。しかし間違えないで欲しい。私はまだ、ぴちぴちの幼女だ。