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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
49/202

風薫る六畳間その一輪の花

龍文書―48


【絵本】:中つ国で出版されている書物。所々に挿画されており、童話から大人向けの物まで幅広く出回っている。


「それにしても、凄い回復力だよ。ナナナキヒメは」

「えへへ」


 ウヅキは目を丸くさせ、さらに頭のうさ耳に力を入れて自身の興奮具合を示す。


「これもウヅキのおかげだよ」

「それは違うよ。僕はひたすらがまっていう薬草で作った薬を彼女に与えていただけなんだ。でも蒲には解毒作用が無いんだ。つまり彼女は、自身の治癒力だけでカエンダケの毒を克服したんだよ!」


 興奮冷めぬといった様子で口早に説明するウヅキ。よほど彼女の回復が嬉しいのだろう。しかし、それもこれもウヅキの看病あってこその賜物だ。


「きっと、ソウ様が僕たちの願いを叶えてくれたんだよ」

「私が? いやいや、それは違うよ。私は大神にお願いしただけ」


 正直そこまで言ってくれたのは嬉しいが、私は本当に何もしていない。彼の言葉についニヤけてしまうが、私は祝詞を奏上しただけだ。

 しかしウヅキは不思議そうな顔で私を見る。


「――――え? だってソウ様は天陽大神様の神使でしょ?」

「そうだけど、私が願いを叶えたわけじゃないから」


 ここまで純粋な目で言われると少し照れてしまう。だが、断じて私のおかげではない。これはアマハル様のおかげだ。


「でも、大御神様に直接お願いできるのは、ソウ様だけだよ」

「…………え」


 その言葉にハッとする。

 ……そうか、すっかり忘れていた。私はこの世界で唯一、誰かの願いを叶えさせることが出来る龍人なんだ。

 私がこの世界に産まれたのは、そういう事なのかもしれないな。


「ふふ。ありがとうウヅキ。なんか元気出たよ」

「ううん。元気をもらっているのは僕らの方だよ」


 ああ、なんだこれ。……あ、駄目だコレ、これ以上言われたら泣いてしまう。


「本当に、ありがとう」

「…………………ッ!」


 もういいや、泣いてもいいよね、ここまで頑張ってるんだし。うん、泣こ。


「ソウ様あぁぁぁぁぁ」

 

 え?


「ユキメはぁ、大ッ変嬉しゅうございますッ! 本当にご立派になられました! 鼻が高うございます!」


 ありがとうユキメ、私の分まで泣いてくれて。おかげで涙も引っ込んだよ。


「あははは……」


 結構いい雰囲気だったのに。と、言いたげな表情でウヅキも苦笑いをする。

 そうして家でくつろいでいるかのような、この和やかな空気をもっと楽しみたい私だったが、次の瞬間に訪れた白兎族の報告によって、それはもうしばらく後にお預けされる事となる。



 ――――ガンガン。

 と、力いっぱいに玄関を叩く音。あたし達がナナナキヒメの回復を喜んでいるとき、その音は鳴り響いた。


「誰でしょうか?」

 目を腫らし、鼻水をすすりながらユキメが音の方へと目を向ける。

「僕が見てくるから、ソウ様とユキメ様は休んでいてください」


 そう言ってウヅキは部屋を出て、ぎしぎしと足音をたてながら玄関へと歩いて行った。  


「……ごめんね。こんなに騒いじゃって」


 かなり回復したとはいえ、まだ完治とはいえないナナナキヒメ。

 そんな彼女の前で、涙ボロボロ鼻水ダラダラで騒いでしまったことを謝る。


「ううん。むしろ楽しい。…………皆がいて、わいわいと賑やかな方が、私の体調も良くなる気がするんだ」


 そう言って彼女は笑顔を見せる。片眼には眼帯のように包帯が巻かれ、その表情にはまだ痛々しさが残るが、それでも彼女のあどけない笑みには目を奪われる。


「そっか。それじゃあ明日も、ここに来ていい?」


 聞かなくても行くつもりだったが、私は明日が待ちきれず、ついつい彼女にそんな言葉を言った。明日もまた顔を覗きに来ることを、ナナナキヒメに知っておいて欲しかったから。明日も生きたいという気持ちを、彼女に持たせたかったからだ。


「うん。それならナナナキも嬉しい」


 窓から入る風が、彼女のほんのりと柔らかい匂いを感じさせる。

 …………まだ少し臭うけれど、気にしなければそこまで酷い物でもない。彼女は確かに、その身体を元の状態に戻しつつあるのだ。


 ――――ガタンッ!


 玄関から突然の物音。


「なんだろう?」

「行ってみましょう」


 私たちはナナナキヒメの部屋から玄関へと向かうことに。その際「私も行く」と言ってナナナキヒメも立ち上がった。

 そうして急いで玄関へ行くと、一人の若い白兎が目に涙を浮かべたまま私たちを見た。だがそこにウヅキの姿はない。


「ああ、龍人様。……村長が、ミカヅキ様が」


 その言葉を聞いた時、私の顔から血の気が引いていくのが分かった。

 村長ミカヅキは、ヤヅノ蛇神から村人を守るため、最後の最後まで村に残って蛇神の注意を引いていたらしい。しかし、その際に腕を食われたミカヅキは血を大量に失い、いつ事切れてもおかしくない状態だったのだ。


「ユキメはナナナキヒメを見てて!」


 ――――そう言って私は家を飛び出した。

 ミカヅキの屋敷を出てから脇目も振らず西ノ宮へ走り、白兎族の避難所として宛がわれた長屋街へと向かう。

 その長屋街は、京都の古い街並みのように美しく、落ち着いた場所であるが。しかし今はそれに心を入れている余裕はない。


 そんなずらりと並ぶ建物群のだいたい中心部。道に広がるたくさんの白兎族が、心配そうな表情でその一棟を眺めていたため、そこにミカヅキがいると直ぐに分かった。


 先鉾の剣神、天大紅高雷神アメノオクダカヅチはずっと大熊を探している。


剣神(クソ! なんで俺がこんな山中をッ……)


 ~三時間前、天都にて~


翁「さて、今回の蛇神誅伐ちゅうばつの件じゃが、少し仕事が多いので分担しようと思う」

巨神「悪くない案だッ!」

女神「…………うん」

剣神「……いいよー」 


 一堂に会し、机を囲んで話し合う先鉾メンバー。

 しかしオクダカは、机の陰に隠れて、何やら書物を読むことに神経を集中させている。


翁「ちなみに、蛇神の捜索に二柱。大熊の狩猟と、白兎族の護衛に一柱ずつ別ける」

巨神「相分かったッ!」

剣神「……いいよー」


 オクダカは視線を机の下に向けたまま、腑抜けた返事をする。


翁「そこで、まずお主らの希望を聞きたいのだが、あるやつはおるか?」

巨神「私は捜索が得意だから! 蛇神を追うのが一番だと思う!」

翁「…………サカマキ、捜索班っと」


 カナビコが用紙に書き込む。


翁「ほか、希望があるやつはおるか?」

剣神「んー? いいよー?」


 もはや彼の頭は本の内容でパンパンだ。


女神「…………クサバナ、ウサギがいい」

翁「クサバナが、…………護衛っと」

翁「オクダカ。お主は何かあるか?」

剣神「…………いいよー」

翁「じゃあオクダカは、大熊……っと」


 用紙に書き終えたカナビコは、満足げに頷く。


翁「うむ! 滞りなく終わって良かった。お主らの協力に感謝する」

翁「では、半刻後に下界へ降るから、各々準備を怠るでないぞ」

巨神「心得たッ!」

剣神「…………いいよー」


 こうして、剣神オクダカは、大熊を探し続ける事となった。

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