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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
47/202

謎多き老夫婦は何を隠す

龍文書―46


【カナビコ】:天陽大神の側近の一柱。名前に誇りを持っている。常に冷静だが、たまにお茶目。

「では、ご馳走になった」

「ごちそうさまでした」


 カナビコと私はお辞儀をして玄関を出る。しかしユキメは何処に行ってしまったのだろう。トイレに行ったきり戻ってこない。


「カナビコ、ユキメがいない」

「安心されよ。ユキメ殿は一足先に戻っていると思いますぞ」


 ――――その言葉通り、既にユキメはサカマキの所に戻っており、私たちが家から離れると、木の影からひょっこりその姿を現した。


「ユキメ殿。お主も気付いたか」

「はい。あの家からはどうも嫌な臭いが漂ってきます」

 何の話だ?

「ひとまずこの場所を離れましょう」


 ユキメの一言にカナビコとサカマキが賛同する。しかし私だけが状況に追いつけず、もどかしい気持ちになっていた。


「――――ねえ。どういう事!」


 私を背負って龍脚で駆けるユキメ。そしてあの家から大分離れたであろうタイミングで、私は彼女に問うた。

 そして私の言葉を耳に入れた瞬間から、彼女は次第に速度を落とし、遂には立ち止まってしまう。


「あの夫婦は恐らく嘘をついています」

「ええ?」


 私たちが止まると、前方と後方を走っていた先鉾たちも止まる。そうして四人が集まったところで、私は再びカナビコらに聞く。


「そろそろ教えてよ。娘がいないってどういう事よ」

 

 一人だけ除け者のような感覚にフラストレーションを感じる。茂みの中に取り残されたサカマキさえも何か知っている風だったからだ。


「ソウ様は、おかしいとは思いませぬか?」

 カナビコが髭を弄りながら問う。それが分からないから聞いているというのに。

「何がよ」

「あの家、八柱の娘と夫婦が住むには、少し手狭だとは思いませぬか?」


 はっとしたように思い返す。私たち三人とオガ親子三柱で一杯一杯だったあの居間と、あの家の全体図を。


 ――――確かにあの居間は精々四人ほどのキャパしかなかった。部屋の数も少なかったし、どう考えても四人家族で暮らすことを想定して作られてた。


「つまり死んだ七柱の娘は嘘って事?」

「恐らくは。そしてここからは、私のただの憶測でしかありませんがよろしいですか?」

 ユキメは顔を横に向け、背中の私にそう言ってくる。

「構わぬ! 申してみよ!」


 私ではなくサカマキが返事をし、小鳥たちが空へ羽ばたく。しかし久しぶりに彼の声を聞いた気がする。本当にやかましい。


「よろしいですか、ソウ様?」


 サカマキを無視し、彼女は再び私に聞く。サカマキは最早ニンジンくらいにしか思っていないのだろう。


「う、うん。続けて」


 目を伏せ、死んだような顔をするサカマキに申し訳なさを感じつつも、私はユキメに返事を返した。


「あの空き地にあった七つの墓。あれは恐らく、喰われた神々の墓ではないでしょうか?」

 その言葉にカナビコは笑う

「神の墓だぞ。あのようなみすぼらしい物の訳が無かろう」

「それは天都の事を言っておるのですか?」


 ――――鋭い返し。カナビコは思わず言葉を失う。

 ユキメの言う通り、国つ神は天つ神の倍も存在しているのだ。皆が皆盛大に供養されるわけではない。


「そ、それじゃあ何であの夫婦は食われた神々を自分の娘なんて言ったの?」


 サカマキ同様、死んだ顔になったカナビコを不憫に思った私は、ユキメのベクトルを私に向ける。


「本当に私の憶測でしかないのですが、あの夫婦は恐らく、産まれてまもない神々を攫って、その神を自らの手で育てています」

「何でそんな事……」


 あくまでも彼女の憶測でしかないが、その言葉を聞いた時、私の中では言いようもない気持ち悪さが渦巻いた。


「……恐らく、蛇神に捧げるため」


 かなり飛躍した結論だ。だからと言って、別に頭ごなしに否定するつもりもないが、矛盾点が多すぎる。


「もしそうだとしたら、私たちに蛇神を殺してほしいってお願いしてきたのはどう説明するの?」


 私の言葉にユキメはうつむく。これで三柱の神たちが死んだ顔をしてしまった。

 ――――しかしどうしたものか。もしユキメの推理が正しければ、今回の一件は“川ノ神討伐”だけで済むような単純なものでなくなる。


「……し、しかし! 私は何かの手掛かり掴みましたぞ!」


 数秒前まで死んだ顔をしていたのに、サカマキは突然息を吹き返したように叫んだ。びっくりするからやめてほしいのに。


「手掛かりじゃと?」

「うむ! お主らが家の中で話している最中! 私は、少女が薪を運んでいた場所に行ってみたのだ! カナビコの指示通りな!」


 なるほど。だからサカマキだけ茂みに残したのか。彼に周辺を探らせるために。つまり私たちの方が囮だったって訳ね。


「それで、その手掛かりって?」


 私が問うと、サカマキは懐から何かの骨を取り出した。砕けてボロボロのため、何の骨かは皆目見当もつかない。


「何の骨じゃ、これは」

「それが分からぬのだ! 薪の灰の中から出てきたのだが!」


 ――――だが、ユキメだけは違った。


「これは熊の骨ですね。しかもかなり大きい熊の」

「誠か? ユキメ殿」

「はい。この骨の周りの肉が美味しいのです」

「なるほどね」


 いや、何が“なるほど”なのかは分からないけど、ユキメが食の話を持ち出すと妙に納得してしまう。

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