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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
45/202

ヤチオヒメの淹れたお茶は美味い?

龍文書―44


【お茶】:黄美山から流れる綺麗な川の水で育てた茶葉を焙煎したもの。ご飯、菓子など、何にでも合う。

「しかし、お主らは何故このような場所に住所を構えておるのじゃ?」

 すると老夫婦は、ばつの悪そうな顔で彼の質問に答える。

「へ、へえ。わしらはここから更に西の国から来たんでございます。このヤチオを連れて」


 彼らは少女を挟むかのように立ち、その小さな肩に手を置きながら微笑む。一見、仲睦まじそうな家族に見えるが、少し歳の差がありすぎではないだろうか?


 そして老夫婦に代わり、今度はヤチオヒメが笑顔で続きを述べる。


「そして天つ神が治める西ノ宮に行く途中で、この素晴らしい場所にたどり着いた次第でございます」

「ふむ。それは誠ご苦労であったな」

「……ははあ。身に余るお言葉」


 そう言って3人は深く頭を下げた。その時私は、爺さんのてっぺん禿げにしか目がいかなかった。そして冬は寒そうだなと、一つ感想を抱く。


「さあヤチオや。天つ神を中に案内してやっておくれ」

「いえいえ。お構いなく。わしらもそろそろ帰るところでのう」

「……そ、そうですか」


 老爺の言葉を遮り、カナビコは眉根を吊り上げて断りをいれた。すると老夫婦はあまりにも切なげな表情を作り上げ、私たちに罪悪感を植え付ける。


「ま、まあ。私たちも少しは休憩した方がいいんじゃないかな?」


 高校受験に落ちた我が子を想うかのように落ち込む彼らを見かねて、私はついそんな言葉を口走ってしまった。


「ソウ様。よろしいので? まだ彼らがどんな神かも分からぬのですよ?」


 私の言葉に表情を明るくさせた老夫婦。それを見てしまうと、私はもう後には退けなかったのだ。みんなごめん。


「ま、まあ。お茶の一杯くらいなら、ね? いいよねカナビコ」


 本当にごめんなさい。と申し訳なさを含んで彼を見る。するとやはり、彼は“言葉も出ぬ”といった困り顔で私を見ていた。


「ま、まあ。ソウ様が言うのであれば致し方あるまい」


 咳ばらいをして言葉を変えるカナビコ。確かにこれは私の落ち度だが、少しは休憩も必要でしょう。


「それならどうぞ、どうぞこちらへ!」


 娘が受験に合格したかの様に喜ぶ老夫婦。彼らは純粋に天つ神をもてなしたいのかもしれない。私とユキメの袴を洗ってくれた白兎族の様に……。


 ――そして老夫婦に案内された私は、改めて家の全貌を目の当たりにする。

 ぱっと見は綺麗な木造の家。所々に鳥の巣やクモの巣が張ってあるが、それ以外は至って普通の屋敷である。

 そして脱いだ履物を丁寧に並べると、ヤチオがそれを更に整える。よく出来た子だ。多分私はやらない。


「ところで、この場所の何処をそんなに気に入ったのですかな?」


 先ほどの爺さんの言葉を蒸し返すカナビコ。だが確かに、ここは景色がいい訳でもないし、周りは山と谷ばかりで立地も悪い。


「はて、そんな事言いましたかなあ」


 爺さんは天井を見つめながら考え、不思議そうな顔で口を開いた。よほど年を取っているのだろう。物忘れが激しいようだ。


「ははは。わしも最近物忘れが激しくのう」

 カナビコもそう言って笑う。同じ悩みを持つ仲間が出来て嬉しいのか?

「さあさ、どうぞこちらで、ごゆるりとおくつろぎくださいませ」


 爺さんに案内された居間で、私たちは囲炉裏を囲うように腰を落とす。生活感のある小綺麗な部屋だが、ここに私たち三人と老夫婦一家が入るには少し手狭だ。

 

「――――お茶が入りました」


 ヤチオヒメがしずしずと盆の上から茶飲みを置いていく。その時、彼女の髪から花を思わせる良い香りが漂ってきた。春の訪れを感じる優しい匂い。


 しかし、この匂い、どこかで嗅いだことあるな…………。


 だが私はそれを思い出すことが出来ず、その辺に生えてる草の匂いと間違えたんだろうと思い込むことにした。


「どうぞお飲みになってください」


 ヤチオはお茶を配り終えると、そのまま静かに、上座に腰を据える爺さんの横に正座した。


「ところで、天つ神が中つ国を平定なさるというお話は本当ですか?」


 先ほどより訛りが強くなった爺さんは、音を立てながら出されたお茶を啜る。


「ええ。昔と比べ中つ国も栄え、最近はどんどん勢いを伸ばしておりますからなあ。天都の神たちも、これは不味いと本腰を入れたのです」

「そういう経緯で。なるほどのう」


 ヤチオの爺さんは、カナビコほどではないがその蓄えた髭をつまんでねじる。


「ところで、お主らは名を何と申すのだ?」

 爺さんは胡坐をかいたまま両手を床につき、その頭を下げた。

「へえ。あっしは、“オガオミ"と申しやす」

 そして次に、台所で何かを作っている婆さんの背を指さす。

「そんであっちが、あっしの嫁はんの“オガミチ"でごぜえやす」


オガ爺さんの自己紹介を聞いて、糸の様に目を細めて満足げに頷くカナビコ。それからドヤ顔で自分の名を披露したのは言うまでもない。


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