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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
43/202

スリル満点 黄美山ハイキング

龍文書―42


【龍脚】:還りの一つ。空を翔ぶのが龍の常だが、山をも掴む脚力は、末裔の龍人にも引き継がれている。

「白い煙ですか!」


 サカマキの所に戻り、空で見た光景をそのまま伝えると、彼はいつもと違って神妙な顔つきで叫んだ。


「よくぞ私を呼びに戻ってこられました!」

 無駄に頼りになるセリフ。

「しからば、まずカナビコを呼びましょう!」


 そう言って彼は、見たことも無い道具を懐から取り出す。筆のようにも見える黒くて細い棒状の道具。そして彼はそれを煙草のように口にくわえた。

 ――――すると、その笛のような道具から、鳥の鳴き声のように細く甲高い音が発せられる。綺麗な音色だが、果たしてカナビコに聞こえるのだろうか?


「では参りましょう!」

「え、待たないの?」

「大丈夫です! 場所は伝えました!」

「…………どうやって?」


 サカマキはその笛を私に手渡す。


「この笛はヤタガラスの羽で作ったもので! その音は落ちることなく相手の耳にまで届くのです!」


 どういう仕組みかは分からないが、そういう事なら、そういう事なのだろう。


「なるほど。……じゃあ行こっか」

「では! 案内をお願い致す!」

「お任せ!」


 とは言ったものの、空から見た感じ、この場所から白煙が立ち昇った場所まではかなり距離がある。全力で走っても一時間はかかりそうだぞ。


「――――ソウ様。しっかりと私に掴まってください」

「え?」


 言われるがままに、私はユキメの背中に強くしがみ付く。

 するとユキメは、龍人の力の一つである“還り”を使い、その足を龍の如く物々しい脚へと変化させた。


「では、参りますよぉ」


 ――――――瞬間、私の身体に凄まじい圧が掛かる!


「あああああああああああああッ!」


 急発進するジェットコースターのような加速。

 迫る木々を縫うように走り、小川を飛び越える。しかし揺れは少なく、まるで新幹線に乗っているかのような快適さ。これはこれで楽しい!

 大風を生むほどのスピード。ピアノの連弾のように響く足音が、その速度の凄まじさを物語っている。


 しかし楽しい時間も束の間、突如、前方に大きな谷が現れる。


「ユキメ! 前! 前ッ!」

「―――――跳びます! しっかり掴まって!」


 凄まじい速度で迫る絶壁。対岸までは高層ビル一本分くらいの距離はある。ここで私は怖くなり、瞼をめいっぱい閉じる。

 だがユキメは躊躇わず地面を蹴った。


「うわあああああああああああッ!」


 身体に襲い掛かる浮遊感に耐えられず、私は思わず目を開けてしまった。

 そして下を見ると、湖のように大きな川が、轟音を轟かせながら奔流を起こしている。――――間違いなく飲まれたら死ぬレベル!


「これ大丈夫ッ!?」

「信じて!」


 その言葉通り、私たちは無事対岸に着地し、ユキメはスピードを落とすことなく奔り続けた。


「死ぬかと思った!」


 一息ついてふと後ろを見ると、サカマキが笑顔で私に手を振った。

 ――――いや化け物!!

 その様を例えるなら、足を生やして追いかけてくる壁だ。いくらなんでも迫力がありすぎる。


 ……そうして数分も経たないうちに、私たちは白煙が昇っていた場所へと辿り着いた。しかし背負われていただけなのに、かなりの疲労感だ。


「や、やりますな……」


 サカマキが息を絶え絶えにして親指を立てる。あれだけうるさかった大声も、今では途切れそうなか弱さだ。


「大事ありませぬか、ソウ様?」


 しかしユキメは余裕そうだ。呼吸こそは早いものの、その表情はかなり涼し気である。

 ……これはユキメが凄いのだろうか?


「あっ、あっ。あれを……見てください。…………家です」


 今にも死にそうな声に思わず笑いそうになる。先ほどの笑顔は何だったのだろうか。

 などと考えつつ、私は四つん這いになって“ぜえはあ”しているサカマキから、彼の指さす方へと視線を移す。


 そうして目に入るのはワラ屋根の平屋。鬱蒼とした山中を抜けた先、ちょっとした広場にポツンと建っており、市街地から一棟だけごっそり持ってきたような異様さがある。


「ソウ様。煙突から煙が上がっております」

「ここで合ってるみたいだね」


 錆びれた煙突から白煙が漏れている。こんな山中に建てているのに、隠そうとしている気配がまるでない。


 ……一体何なんだここ。

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