七つの墓にはお供え物が無い
龍文書―41
【神の墓】:神に寿命はないが、不死身でもない。どんな形であれ、供養しないと祟られる。
「これは、無縁墓でしょうか」
“奥津城”とだけ彫られた墓石。その雨ざらしの墓は七つ分あり、どれも雑に設置されたように見える。
「供養してくれる人がいないって事?」
「そうです。しかしいくら無縁でも、もう少し綺麗にされているものですが」
寂しそうに佇む石柱。お供え物も無ければ、線香を立てる台も無い。ここに眠る者達は、よほど愛されていなかったのだろう。
「しかし! 墓があるという事は! この近辺に誰かがいるやもしれませぬ!」
「でもお供え物も花も無いんだよ? こんな、いつ建てられたのかも分からないんじゃ…………」
「――――ご覧ください!」
私の言葉を遮ったサカマキが、向かって一番左にある墓石を指さした。
「この墓は! 比較的新しい物と見受けられます!」
一見しただけでは違いが分からなかったが、その細部にまで目を向ければ、確かにその墓石だけは他の物とは風化具合が違った。
「最近亡くなられたという事でしょうか」
私の股の下からユキメが言う。しかし、そろそろ降ろしてくれてもいいのではないだろうか。
「恐らくは! しかし! ここに無縁墓が固まっているのもおかしな話です!」
「ここが霊園だという可能性は無いでしょうか?」
――ここで意見がぶつかるが、二人の言い分はどれも間違っていない。
サカマキの主張が正しければ、こここが霊園でもない限り、無縁墓が固まるのはおかしい。近くに集落でもあれば別だが。
そしてユキメの言葉通りここが霊園であれば、この場所にはもっと墓石があってもいい筈だ。それなのに、ここにはたったの七つだけ。
以上の点を踏まえ、私は一つの結論にたどり着く。
「これ、無縁墓じゃないんじゃない?」
「ふむ! しかしもしそうであるなら! 何故この墓たちからは弔いの念を感じぬのでしょうか!?」
そこが問題だ。もし無縁でないのなら、墓石はもっと綺麗なはずだし、もっと立派な墓を建ててやってもいい筈だ。これでは祟られてもおかしくはない。
「んんん。分からん」
今現在ただ一つだけ言えるとしたら、この墓を建てた誰かは道徳心の無いクズだという事だけ。
「ソウ様。ここに墓があるという事は、近くに誰かが住んでいる可能性がありますね」
ユキメは頭を上げ、肩に乗っかている私を見る。
「そうだね。この新しい御墓を見るに、その可能性は十分ありそう」
「そうと決まれば! 早速探しましょう!」
思わぬ手掛かりを見つけた私たちは、再び林の中へと戻り、いるかも分からない誰かを探すことにした。
――しかし、当初の目的である“川ノ神討伐”からどんどん遠ざかっているような気がする。これで本当に大丈夫かなあ。
などと心の中で危惧した時から、私の中では形容しがたい不気味さが渦を巻き始めていた。
「ソウ様。一度龍昇を使い、空から探してみては如何でしょうか?」
林に戻ってからユキメがその提案をしたのは早かった。
「そうだね。流石ユキメ。ナイスアイデア」
「ないすあいであ?」
「褒めてるんだよ」
……このどこまでも続くような雑木林だ。空から見れば何か見えるかもしれない。と考え、私もその提案に乗ることにした。
そしてユキメの龍玉が光ったその次の瞬間、体は空に浮き、気付けば私は遥か上空にいた。
「――――何か見える?」
見渡す限りの山と谷。そしてその間を蛇のように走る渓流。太陽の光が川に乱反射し、まるで秘境のような造形を私に魅せる。
しかし今は観光している場合ではない。誰かが住んでいる痕跡を見つけねば。
「何かあッ! 見えましたかあッ!」
遥か下方から飛んでくる声。そのやかましい声はピンボールのように山々を跳ね、何度も私の耳に入ってくる。ここまで声が届くとは恐ろしい。
「何も見えませんね」
「うーん。もう少し向こうまで行ってみよ」
もはや下からの声には無視を決め込み、私たちだけで話を進める。一体どれだけの声量を持っているんだろうか。
……そうしてしばらく翔んでいると、林の中から一本の白煙が、タバコの煙のように立ち昇ってくるのが確認できた。
「あれッ!」
思わず声を張り上げる。レアポケモンでも見つけた気分だ。
「誰かが風呂でも沸かしたようですね」
「行ってみよ!」
ゲームのイベントが始まったかのようにワクワクする私だったが、対するユキメは冷静だった。
「まずはサカマキ様の所に戻ってはいかがでしょうか?」
「あ、それもそうだね」
確かに、あの場所にはどんな危険が潜んでいるか分からない。なので仕方なく私は好奇心を殺し、ユキメの提案に賛成した。




