表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
32/202

天都の主宰神、御名を天陽大神

龍文書―31


【血】:血は貴いものであり、その一滴にも神が宿っている。神使は自身の身体に神の血を受け入れることによって、その神の完璧な眷属となる。


 心が浄化されるような透き通る声。そして同時に騒めきだす野次馬。


「天つ神だ」

「なんと貴いお姿」

「遂に中つ国を平定なさるおつもりか!」


 振り返るとそこには、禊祓の時より軽装な大神が笑顔で立っていた。護衛の男と女を数人引き連れて。


「アマハル様。どうしてここに?」


 彼女の護衛や周りにいた野次馬たち。そしてユキメまでもが腰を曲げる中、私とユウヅキだけがその頭を天に向けたままだった。


 そして私の問いに、アマハル様はウィンクだけを返す。


「――――皆の者、表を上げよ!」


 矢のように貫く声。その陽光の如く行き渡る清んだ声に、全員がその頭をゆっくり上げた。


「あろうことか、国つ神であるヤヅノミコオズチが、我らが天つ神の神使を喰ろうた」


 この場にいる全員が、その貴い声に耳を向ける。誰一人、囁きもしなければ物音ひとつも出さず、薫風の如くただただ静かに声を聞いた。


「元来神とは、信仰を集め、その奉納をもって力を保つ者。しかしそれだけでは収まらず、今回のような一件が起きたのはゆゆしき事である」


 とても“お疲れサマー”と言っていた神様には見えなかった。

 こうべの飾りを振り、衣の袖を振って話す様は、まさに太陽の如く神々しい。


「しかし中つ国では、絶えず似たようなことが起き続けており、故に天都の神々も、もう辛抱できぬと腹を立たせている」


 一人一人に言い聞かせるように。中つ国の端端の神たちに轟かせるように。彼女は夕陽をその身に受けながら言い放つ。


「故に我ら天都の神はッ、今この時を持って、この葦原中つ国の平定を、全身全霊をかけて執り行う事をここに表明する!」


 ……静寂。一切の雑音すらも許さない完璧な無。


 なんだ、なんでこんなに静かなんだ?


 しかしそう思ったのも束の間、野次馬の集団から続々と声が挙がる。

 気付けば野次馬たちの数も倍に増え、派手な装束の者から、そうでない者まで、種種雑多な種族が彼女を拝んでいた。


 声を張り上げる者。泣き崩れる者。ただひたすら口を抑え、目から涙だけを流す者。しかし聞こえる声は、全てが太陽神を讃美する物ばかりだった。


「――――すご」


 あまりのうるささに耳を塞ぐが、その騒めきは甲すらも通り抜け、私の鼓膜をハチで叩いた。


「これが天都の最高神です」


 歓声に耐える私とユウヅキを両の腕に収め、ユキメは泣かずとも、その目に水を張って私たちに言った。


「ひふみ。お主の願い、確と聞き入れたぞ」


 アマハル様は親指を立てて再び私に目配せすると、お付きの護衛たちを残したまま、蝋燭のようにその姿を消した。


「あの、大神はどちらへ?」


 帯刀し、侍のような出で立ちをした男の護衛に話を聞く。私の苦手な常に怒り顔系男子だが、この際は誰でもよかった。


「何だお前は?」


 男はそう言って不思議そうな目で私の姿をまじまじと見る。そして案の定、ユキメが男に手向かおうとしたその時……。


「――――何だお前は、じゃないじゃろ!」

「痛!」


 雪原のような白髪と真っ白な髭を蓄えた、いかにも強者感を匂わせる老人が男の頭を叩く。そしてその翁は私に頭を下げた。


「この龍人は我らの君、天陽大御神の、その御神使であるぞ!」


 その言葉を聞いた護衛たちは、キュウリを見た猫のように目を丸くさせ、翁にならい深々と頭を下げた。


「ああ、いや。頭上げてください」


 最初こそ、私が最強なのだと少し気分が良かったが、ここまでくると疲れてくる。


「は。恐れながら」


 翁がそう言うと他も顔を上げる。そしてその目からは不純なものは消え、ただただ目の前の子供を敬う真っ直ぐなものになっていた。


「それで、大神様はどちらへ?」

 再び私が聞き返すと、翁が首を垂れて答える。

「大御神は忙しい方ゆえ、今回は我々の力で、そのお姿だけを写して馳せ参じた次第でございます」


 要は生中継ってことか。そんなことが出来る神様もいるんだな。


「それで、あなた方は?」

「我々は大神の光より化生せし四柱。名を“天陽の先鉾さきほこ”と申します」


 翁の後ろでは、残りの三柱が会釈をしながらただ静かに、私と翁の会話が終わるのを目をつむって待っている。


「あ、龍人のソウです」


 主神を守る四本槍というわけか。なかなかイカす。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ