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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
30/202

白兎、ウナギを食す2

龍文書―29


【祭り】:神に感謝や祈りを捧げる行事。神にとっても、信仰を集めるための大切な祭事。


「うな重の松を四つ、お待ち同様です」


 先ほどとは別人のように腰の低い店主は、怯えたようにユキメを見ながら、そそくさと重箱を置いていく。

 その後ろでは、若い男の店員が不思議そうな目で彼を見ているが、まあ無理もない。


 そして全ての箱が机に並んだタイミングで、ウサギ兄妹もトイレから戻って来た。


「――――いただきます」


 炭火焼の香ばしい匂いを楽しみながらの合掌。そして私は心を弾ませながら重箱のフタを外す。しかしウナギなんて久しぶりだ。


 ちなみに、私はいつも、お吸い物から頂く。


 お椀を持ち、静かに口に含む。

 肝の油が舌に絡みついて、自身の濃厚さアピールしてくる。それでも、だし汁は真水の様にすんなりと喉の奥へと流れていく。


 美味しい。喉の奥にもしっかりと染みこんでくる感じがたまらない。……それじゃあ、次はウナギ。


 ふっくらとしたウナギの身が、テカテカと褐色に照りついて、食べる事をためらわせる。白米はウナギの陰に隠れており、その姿を一粒も見せてはくれない。


 箸を入れると、ウナギの身は抵抗することもなく簡単にそれを受け入れる。そして下の米ごと持ち上げると、その重厚さが箸を伝って手に渡ってくる。


 ――――口に入れた瞬間、中で広がるのは濃厚なタレの甘み。しかし一回でも噛めば、その味はウナギの独特な旨味と手を合わせる。完璧だ。

 

 しっとりとしたウナギの油と、タレのこってりとした風味が舌の上に重くのしかかるが、それを助けるかのように、白米がしっかりと持ち上げてくれる。

 そして、すっかり油まみれになってしまった口内を、熱いお茶で洗い流す。


 ――――息をすることを忘れてしまう。ウナギ、お前は最強の魚類だよ。


 ふとウサギ兄妹を見ると、彼らは未だウナギには手を付けず、大きな目を輝かせながらその姿を拝んでいる。


 そして隣を見ると、既にユキメは完食し、満足そうにお茶を啜っていた。もはやエネルギー補給のために食べているようにしか思えない。


「こんなに美味しい物は初めてです」


 ウナギを一口食べたウヅキは、そのまま目に涙を浮かべながらそう言った。対するユウヅキも、その小さな口で必死にご飯を頬張っている。感想は言わずもがなだろう。


「それなら良かった」


 私がお金を払うわけではないが、涙を流して喜んでいる彼らを見ていると、満足感が私の心の中を満たしていった。


「――――へい大将!」


 物欲しげなユキメの視線を躱しながらウナギを食べていると、大きな壺が括りつけられた棒を担ぐ、一人の男が店に入って来た。


「おお、キタさん。待ってたよ」


 店主と鉢巻の中年。親し気に話すニ人に少し興味が沸いたので、私はウナギを食べながらその会話に聞き耳を立てる。


「それじゃあ、これが今日の仕入れ分でい」

「はいよ、いつもご苦労さん」


 “キタさん"と呼ばれた男は、壺を取り外してそれを店主の前に置く。彼はどうやらウナギを捕る漁師のようだ。

 そして待ちかねていた様子でフタを外した店主だったが、壺の中身を見た途端、目に見えて分かるくらいその表情を曇らせる。


「……キタさん、また今日も不漁かい?」


 大きなため息を吐く店主だが、対する漁師の表情も彼に負けないくらいの暗さだ。


「すまないねえ大将。最近、魚が全く取れないんで、俺たちも困ってるんでい」

「……そうかい。それじゃあまた、“川の神様"にお供え物を持っていかなくちゃあな」


 借金に追われているような顔をする店主。どうやら不漁の原因は川の神様にあるようだ。大方、捕るだけ捕って感謝を怠っていたから、その神様が怒っているのだろう。


「ああ。……去年の祭りは盛大に執り納めたって言うのにな。まったく贅沢な神様だよ」

 いや、どうやら問題は神様の方にあるようだ。

「はは。違えねえ」


 乾いた笑いが店主と漁師の間で相殺される。

 しかし、神様の気まぐれで生活が変わるというのも難儀なものだな。少し同情もしてしまう。


「――――ご馳走様でした!」


 ユウヅキが合掌をする。よほどお腹が空いていたのか、松のうな重を彼女は一人で食べてしまった。重箱の隅に米粒すら残さないくらい。


 ちなみに私は半分で、ウヅキは三分の二を食べてギブアップ。しかしその残りをユキメが一瞬で平らげたので問題はない。

まさかウナギ食べてる方いないですよね?

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