人の子、龍人に還る②
龍文書―二
天千陽:龍人族の住んでいる里。地上から行けないことも無いが、実際に行った者はいない。天界の区分に入る。龍の胸椎と呼ばれる棚田が美しい。
「あのお。ここはどこですか?」
動かざること山の如し。というよりも山のように大きい何かが私を睨んでいる。
「ここは黄泉の国だ」
亀のように鈍い喋り方。しかし不思議と遅さを感じさせない威厳。そして林檎よりも黒い赤。頭からは角が生え、何やら立派な王冠を被っている。
もしかしてこの方は、いわゆる閻魔大王様と言われているお方なのでは。ヤバイなあ。コレはマジヤバいなあ。
ていうか死後の世界ってあるんだ…………。
「あたし、地獄行きですか?」
「自らの命を断った者は、問答無用で地獄行きとなる」
四六時中怒り狂った様な顔の化け物は、声だけで押しつぶすような、どすの効いた声色で私に言う。
――――っていうか、あれ自殺にカウントされるの? ジャッジ厳しないすか。
「しかしだ」
お、来た。名誉挽回チャンス。
「汝、龍野一二三。お主は神の使いである“ヤタガラス”の計らいで、別の世界へと誘われることとなる」
………えええええええ。
別の世界!? 生き返らせてもらえないの? というか、私を落としたあの三本足のカラス。やっぱりヤタガラスだったのか?
「あのお、そのお。現世に還ることは、出来ないんでしょうか…………?」
あまりこういう顔の人と話したくはない。ちょっと喋っただけでも怒りそうだから。でも、それでも聞くしかないのだ。頑張った私!
「汝、龍野一二三。汝の世界でのお主は、既に命を全うしておる。故に、その願いは叶わぬものと心得よ」
マジかあ。一年生にしてJK卒業って。何の罰ゲームだよ。私の青春これからだって言うときに。……でもまあ、女子高だしいいか。
「しからば、輪廻の法則に基づき、汝、龍野一二三に、これより新たな生を与えん」
――――展開はやッ。
「あの、すいません。もう少し聞きたいことあるんですけど!」
あまつさえ、閻魔大王様は全く私の話を聞かず、手元にある大きな木槌を机に打ち付けた。
その瞬間、まるで背面から落ちるジェットコースターのように、私は何かとてつもない力で後方へと引っ張られる。
あれ? でもこれって。もしかしたら異世界転生ってやつじゃない?