表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
27/202

神都 西ノ宮2

龍文書―27


【大海】:西ノ宮の東に位置する海原。人魚の目撃が相次いでいる。


 丘を下ると村を守る門兵が見えた。筋骨隆々で、身長も高く強面だが、頭からは可愛い耳が生えている。控えめに言って可愛い。


「何者だ!」


 しかし門兵は私たちを見るや否や、大層な大槍を私たちに向けながら声を張り上げた。

 ――駄目だぞユキメ。我慢するんだぞ。


「お主ら、誰に矛先を向けているのか知っての狼藉であろうな?」

 ――無理か。

「ち、ちょっと待ってください!」


 ここですかさず、ユキメが助けた白兎美女たちの援護が入る。同じ耳を生やした者同士、言葉は交わさずとも、その耳が全てを物語っている。


「お主ら、小鬼に捕まったはずやろ……」

「助けて貰ったの! この素敵な龍人の方に」


 “素敵な龍人”ね。悪くない。でもそれに私は入っているのか?


 そうして男たちは彼女らの言葉を聞くと、すかさず槍の矛先を私たちから外す。そしてその代わりに、きりっとした細い目から涙を流した。


「ああ、お前たち。よくぞ無事で戻った」


 ラグビー選手の如し体形の二人は、槍を地面に落とすと、嗚咽を繰り返しながら彼女たちの元へと近寄ってゆく。


「……ハヅキよくぞ戻った。俺たちも助けに行こうと、今準備をしとったのだ」

「泣かないでくださいまし。コウヅキ様」


 これぞハッピーエンド。こっちまで泣けてきてしまう。

 そして涙もろいユキメの事だ、きっと私よりも泣いてるんだろうな。と、その泣き顔を拝もうと、私は背中から彼女の顔を覗き込む。


 ――――全然泣いてない。

 彼女は優しい眼差しで見守るだけで、その目からは一粒の涙も浮かんでいない。


「どうされました? ソウ様」

「ああ、いや。これも全部、ユキメのおかげだよ」


 そう言ってユキメの頭を撫でる。いつもつやつやとしている髪にはまだ泥が付いている。だがこれも、ユキメの優しさを表しているのだ。


「……ああ、勿体のうお言葉。このユキメ、頑張った甲斐がありました」


 ここで泣くんかい。


「さあ、龍人の方々。この度の感謝を込めて、わが村で貴女方を歓迎します」


 地に落とした槍を拾うと、彼は真心を込めて私たちを門の中へと誘う。

 村の門は、天千陽あまのちはるのと比べれば小さいものだが、それでも集落を守る役目はしっかりと果している。


「かたじけない」


 ユキメに背負われたまま私も門をくぐる。まるで弥生時代のような村だが、それ以上に文明は発展している。村を駆け巡る白兎の子を見る限り、不自由はしていないようだ。


 そしてその中でもひと際大きな建物。恐らく村長むらおさが住んでいるであろう屋敷に、私たちは案内される。がしかし、その扉の前でもまた、別の男が立ちはだかる。


「コウヅキ。その者らは何者だ?」


 先ほどの門兵の一人、コウヅキは、村長の家を守る男に頭を垂れると、神を敬うかのように口を開く。


「は。奇しくも天界から現れ、小鬼どもに攫われた村娘たちを救ってくださった方々です!」


 後半に行くにつれ、声が大になる門兵コウヅキ。その声は最早村の隅々にまで轟いている。


「名をッ、龍人のソウ様とッ、ユキメ様にございますッ!」

 …………は、恥ずかしいぃ。皆見てるんですけど!

「なにッ! 天都あまつから使者が送られたというのか!」


 屋敷の門番も負けじと、より大声で叫ぶ。白兎族というのは、かわいい耳に反して結構アツい人たちなんだな。


「いえ、龍人の子の武鞭を行いに、この中つ国に降りてきたということです」


 その言葉を聞くと、何事かと周りに集まっていた白兎族が一斉に肩を落とした。――勝手に話を進めておきながら、失礼にもほどがある。


「そうか。やはり今年も来ぬか」

「――――なんじゃあ、うるさいのお」


 外の賑やかさに我慢できなかったのか、この村の長らしき人物が家のドアからこちらを覗き見る。それはまるで玉のように小さく、白くてふさふさの老人だ。


「ミカヅキ様!」


 龍人の肌より真っ白な髭を蓄えた老人。その肌は程よく日焼けしており、所々シミが目立っている。

 そしてその老人が現れたとき、村の全員が一斉に片膝をついた。


「ふむ、龍人族。儂も久しぶりにお目にかかるが、相も変わらず美しいのう。ヒンッヒンッヒンッ」


 そう冗談めかして言う老人は、今にも死にそうな声で笑う。というか、笑ってはいるのだろうが、出ているのは掠れた息だけだ。


「しかし助けて貰ったのじゃ。お礼をしないわけにもいかぬ。皆の者、宴の準備を」


 村長ミカヅキの言葉に、村の者は全員歓喜の声をあげた。私も正直興奮が収まらないが、対するユキメは何処か不安げな顔をしている。


「どうした、ユキメ?」


 彼女の背中から飛び降り、今度は下から彼女の顔を伺う。すると彼女も膝をつき、目線を私に合わせて言う。


「いえ、大変申し上げにくいのですが、ソウ様はまだ三十ゆえ、門限の夕刻までには帰らねばなりませぬ」


 ――――そんな馬鹿な。宴だぞ? ファンタジー世界での初宴だぞ? そんな馬鹿な話があるか。


「村長ミカヅキ。せっかくのご厚意、大変嬉しく思っておりますが、そろそろ私たちは戻らねばなりませぬ」


 彼女の言葉に騒めきが起き始める。我らの厚意をなぜ断るのか。と、不思議でしょうがないといった感じだ。


「ふむ。確かにソウ様はまだ幼子。しかし、多少遅くなろうとも、そなたらの功績を称えた宴なのじゃ。ご両親も大目に見てくださろうて」


 時間はまだ正午。確かにこれくらいの時間なら、宴が終わるもの夕刻くらい。問題はない筈だ。


「そうだよユキメ。折角だし、ちょっと休んで行こうよ」


 ユキメが凄く迷っている。おそらく色々と頭の中で考えているのだろう。ユキメは優しく、誰よりもヨウ家の事を考えている。

 だが、そんな熟考も、この私の“あざとお願いうるうるアイ"を見せれば…………。


「…………ね。お願い」

「っううぅ。そのような眼で見つめないでくださいまし」


 ――ご覧の通りだ。


 それに私は、ユキメにいつまでもこんな汚い恰好をさせておきたくないのだ。多分両親も、ユキメのこんな姿を見たら腰を抜かして死んでしまうだろうし。


「じゃあ、少しだけゆっくりしたら帰ろう?」

「は、はい。かしこまりました」


 少し頬を染めながら観念したようにユキメは俯く。

 さて、そうと決まれば、さっそくお風呂だ。とりあえずユキメを洗わないと。


「……お風呂ですね! でしたらこちらの浴場を使ってください」


 話も決まり、丁度よく通りかかった白兎の女に「お風呂は何処ですか」と聞くと、彼女はさっそく風呂場へと案内してくれた。

 案内されたのは物置のように小さな小屋だが、ひのきの香りが漂う落ち着いた空間だ。


「私共が見張っておきます。お二方はどうぞ中でおくつろぎください!」


 頼れそうな太い腕の女白兎が、薙刀を持って満面の笑みで声を張った。

 私は論外だろうが、確かにユキメは危ない。と、見張りをお願いしようとした時……。


「いえ、私が見張っておきます故、ソウ様がお先に…………」

 等とユキメがさえずるので、私はその腕を掴んでやった。

「ユキメ、ここは彼女たちに任せよう」

「―――えっ、ちょっと!」


 驚いた表情のユキメを、私は半ば強引に小屋へ押し込んだ。

 中は柔らかい木の香り。脱衣場ですらこれだ。風呂場の方はもっと凄いに違いない。と、そんなはやる気持ちを抑えながら、私は袴を脱ぎ捨てる。


「やっとで体を洗い流せますね」


 私とは違っておしとやかに脱衣を行うユキメ。まるでみかんの皮を剝いているかのよう。早く脱げよとじれったいが、徐々に露わになる素肌を見ると、私は目線を外せなかった。


「うん、そうだね」

「ソ、ソウ様。あまり見ないでくださいまし」


 ――今の私って、一体どんな顔してるんだろう。

 それから私たちは、まるで樹木に包まれているかのようなヒノキ風呂で、今日一日を振り返るかのようにゆっくりと、時間をかけて湯船に浸かった。


「いいお湯ですねえ」

「エモいねえ」


 湯気を逃がすための小窓からからは、宴の準備をする音が聞こえる。そしてその楽し気な空気に、私は密かにお風呂で心を躍らせた。


「――――下呂温泉。これがまたおススメなのよ」

「げろ…………。温泉ですか?」


 “また入りたい”と、名残惜しさを残しながら風呂場を出た私は、ユキメとのお風呂トークに花を咲かせながら脱衣場へ戻る。しかしその時、異変は起きた。


「待ってッ」


 辺りを見回し、脱衣場に起きた変化を注意深く探す。何かがおかしいのだ。先ほどと少し違う風景。――――そして私は気付く。


「ユキメ、袴がないッ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ